滋賀・日野町事件、高検が特別抗告 死後再審決定に不服
滋賀県日野町で1984年、酒店経営の女性(当時69)が殺害され金庫が奪われた「日野町事件」で、無期懲役が確定し服役中に75歳で死亡した阪原弘・元受刑者の再審開始を認めた大阪高裁決定を不服として、大阪高検は6日、最高裁に特別抗告した。同日が手続きの期限だった。

死刑や無期懲役が確定した重大事件を巡る「死後再審」の是非は最高裁で下されることになった。
刑事訴訟法で、特別抗告は判例違反か憲法違反がある場合に限られている。今後、最高裁が特別抗告を退ければ再審開始が確定する。元受刑者は既に死亡しており、本人不在のまま大津地裁で裁判がやり直される。
高検の小弓場文彦次席検事は6日、「今回の決定は承服しがたく、特別抗告を申し立て、適正な判断を求めることとした」とのコメントを出した。
弁護団の伊賀興一弁護士は「今回の特別抗告は全く理由のない引き延ばし以外の何物でもなく、怒りがこみ上げている」とした。
2月27日の大阪高裁決定は、元受刑者が女性の遺体が発見された現場まで案内する「引き当て捜査」の際に撮った写真のネガフィルムなど、第2次再審請求審で新たに開示された証拠を吟味。自白の根幹部分の信用性を揺るがす内容だと判断、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たる」と指摘した。
その上で「確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じた」として再審開始を認めた2018年7月の大津地裁決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。
事件は、滋賀県警が1988年に元受刑者を強盗殺人容疑で逮捕。一審・大津地裁、二審・大阪高裁ともに無期懲役の判決を言い渡し、2000年に最高裁で確定した。
元受刑者は01年に再審請求したが、06年に大津地裁が棄却。即時抗告中の11年に病死し終結した。遺族が12年に第2次再審請求を申し立てた。
審理はさらに長期化、問われる検察側の主張
日野町事件の再審請求審は元受刑者本人による申し立てから既に20年、遺族の請求からも10年が経過している。大阪高検の特別抗告により、結論までにさらに時間を要する見通しとなった。
再審開始決定には無罪や刑を軽減すべき明白かつ新たな証拠が求められる。
元大阪地検検事の亀井正貴弁護士は「大阪高裁決定は幾つかの証拠を総合的に判断し、自白の信用性を疑問視している」と指摘する。
高検が特別抗告した理由については「新証拠の『明白性』について十分に争えると判断したのだろう。検察側には裁判所による過去2回の開始決定を覆すだけの主張が求められる」とみる。
刑事訴訟法は再審請求審の進め方について具体的なルールを定めておらず、審理が迅速に進むかは裁判官の判断次第となる。
関西学院大学の川崎英明名誉教授(刑事訴訟法)は「身体拘束が長引き、日野町事件では本人が亡くなった。再審手続きの長期化が当事者に与える不利益は大きい」と強調。証拠開示のルール整備のほか「検察側の不服申し立てを制限することも視野に入れ、制度の見直しを進めるべきだ」としている。
(蓑輪星使)