「地域医療の柱を失った」 犠牲の鈴木医師に悼む声
埼玉県ふじみ野市の立てこもり事件で犠牲になった医師、鈴木純一さん(44)は地域医療の担い手として、患者や同僚からの信頼も厚かった。「なぜこんな形で亡くならないといけないのか」。関係者に悲しみが広がっている。
渡辺宏容疑者(66)の母親を訪問介護していた50代の女性によると、渡辺容疑者は複数の介護事業所で利用料の滞納を繰り返し、態度も高圧的だったため、行き場を失っていた。「トラブルが起きるなら僕が引き取りましょう」。手を差し伸べたのが鈴木さんだった。
母親が風邪をひいた際「訪問した医療従事者にうつされた。訴えてやる」と激高する渡辺容疑者をなだめて、母親に点滴を打って治療した。女性は「見捨てないで引き受けてくれたのに。こんなことになるなんて」と悔やんだ。
地元の東入間医師会によると、鈴木さんはふじみ野市など2市1町の患者約300人に関わり、新型コロナウイルスで自宅療養する患者にも訪問診療を続けていた。医師会の打ち合わせには聴診器を下げた術衣のままで現れ、「いかなる時でも患者さんの元に駆け付けなければ」と話していたという。

地域に根付いた医療への思いは、周囲の医師の間でも評判だった。「かけがえのない柱を失った」。医師会の関谷治久会長は「自分の時間を犠牲にして、在宅医療に命を懸けていた」と悼む。
父娘2代で診療を受けていた女性(54)は「先生に会えると思うと、苦痛だった通院も楽になった」と振り返る。酒をやめられず悩んでいると「怒らないから、量を減らしていこう。僕も甘い物が好きだからさ」と優しく相談に乗ってくれたという。
女性は感謝の気持ちを伝えて菓子を贈ろうと、2月の診療で会えるのを楽しみにしていた。「何事も人のために尽くしていた先生でした。すごくショックです」と肩を落とした。〔共同〕