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コロナワクチン8.8億回分の根拠「不十分」 会計検査院

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会計検査院が新型コロナウイルスのワクチン接種事業を調べたところ、厚生労働省が8億8200万回分を確保する際に作成した資料に数量の算定根拠が十分に記載されていなかったことが29日、分かった。検査院は数量が妥当だったかの判断は示さなかった。その上で確保量に不確定要素がある物資を緊急で調達する場合でも、事後に過程を検証できる仕組みが必要と指摘した。

同省はワクチンを巡るメーカーとの詳細な交渉過程や単価、返金額などを「守秘義務が課されている」などとして公表していない。検査院の調査には「世界中でワクチンの獲得競争が続いていた。国民が速やかにワクチンを接種できるよう、開発失敗などを含めたあらゆる可能性を視野に入れて確保に努めた」と説明した。

検査院は「調達量の算定根拠が分からない以上、実際に廃棄やキャンセルが発生したとしても、それが適切なのかどうかも評価ができない」とし、予算の無駄遣いがあったかどうかは示さなかった。

国は感染拡大や患者の重症化を防ぐためにワクチンの確保を進め、都道府県などを通じて全国の接種会場に配布した。2022年3月末時点で人口の約8割が1、2回目の接種を完了し、41.4%が3回目を打ち終えた。

検査院は20〜21年度に厚労省やデジタル庁などが予算計上したワクチンの確保、管理、配布などの事業の執行状況を調査した。

厚労省は22年3月末までに8億8200万回分を確保する契約を結んだ。内訳は米ファイザーが3億9900万回分、米モデルナが2億1300万回分、英アストラゼネカが1億2000万回分、米ノババックスの技術移管を受けた武田薬品工業が1億5000万回分だった。

検査院によると、同省はシミュレーションをして確保数を決めたと説明した。しかし各メーカーからの調達量を決める際に作成した資料や契約関係の書類には、計算式などの根拠が十分に記されていなかった。

検査院は「確保した数量が過大であれば、キャンセル料の支払いや廃棄などで不経済な事態が発生しかねない。算定根拠を確認できない状況は適切ではない」と指摘した。

検査院はメーカーへの返品対応も調べた。国が受け取る返金額について「厚労省は金額の妥当性を確認していなかった」と指摘した。例えばアストラゼネカとは同社が示した返金額をそのまま受け入れていたとみられる。同省は検査院の調査が入った後に返金額の算定理由を示す文書の提出を同社に求めたという。

佐々木信夫・中央大名誉教授(行政学)は「緊急時の事業とはいえ、多額の国費を投入して余剰や無駄が生まれたならば、国には問題が生じた理由を説明し、国民の疑問を解消する責任がある。国会に特別委員会などを設置し、当時の対応を検証する必要もある」と話している。

厚労省の担当者は取材に「(算定根拠について)説明不足だった。今後、ワクチンの確保を検討する際には、検査院の指摘をふまえ算定根拠を示す資料を作成する。返金額が適切かどうかも確認する」と話した。

ほかに検査院はワクチンの在庫管理で厚労省がメーカー側の倉庫にどの程度の在庫があるかをリアルタイムに把握していなかったことを指摘した。デジタル庁が運用するワクチンの接種記録システムで、接種券の情報を誤って読み取る事例が頻発したことを受けての改善も求めた。

検査院によると、20〜21年度のワクチン接種に関する事業で支出された国費は計4兆2026億円に上った。予備費などを合わせた予算額は6兆1361億円で、執行率は68.4%だった。21年度時点で、次年度以降に繰り越した「繰越額」は8154億円、使わなかった「不用額」は663億円に上った。

廃棄とキャンセル、全体の3割に 厚労省公表

会計検査院によると、新型コロナウイルスのワクチンの国内の接種実績は2023年1月末時点で約3億7900万回分に上った。

一方、有効期限切れによる廃棄や、需要減によるキャンセルも相次いだ。厚生労働省は使用が終了したモデルナ製などの廃棄・キャンセル量を約2億8000万回分としており、21年度までに確保した8億8200万回分の3割が使われなかったことが判明している。

内訳は廃棄がモデルナ製で約6390万回分(自治体による見込み数を含む)、アストラゼネカ製で約1350万回分生じた。キャンセルもアストラゼネカ製で約6230万回分、ノババックス製で約1億4176万回分あった。使用が終わっていないファイザー製などの廃棄や返品は未公表で、総数はさらに多くなる可能性がある。

(札内僚、高橋彩)

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