針葉樹立ち枯れ蔵王の樹氷危機 虫の食害・温暖化影響も

蔵王連峰の地蔵岳(山形市)で、針葉樹「アオモリトドマツ」に立ち枯れが相次ぎ、「スノーモンスター」と呼ばれる樹氷が細ってスケールダウンの危機にひんしている。虫による食害が直接の原因だが、専門家は地球温暖化による気候変動の影響を指摘。「雪と氷の芸術」を次世代に残せるのか正念場だ。
標高1600メートルを超える蔵王ロープウェイ地蔵山頂駅周辺には、今冬も樹氷が姿を現した。マツの枝や葉に空気中の水滴が凍り付き、周りに雪が付着して木全体をすっぽり覆う。ただ、最盛期の2月中旬でも枝がそのまま飛び出て樹氷になりきれない木が散見された。
蔵王温泉観光協会の伊藤八右衛門会長は「重要な観光資源の樹氷が昔と比べ、痩せて貧弱になっている。樹氷ができなくなれば大きな打撃だ」と危惧する。
原因は木に葉が十分茂っていないためだ。
林野庁の調査では、2013年秋にガの一種「トウヒツヅリヒメハマキ」の幼虫がマツに付き、大規模な落葉や変色が発生。食害が収まった後の16年6月ごろから、弱ったマツに甲虫の一種「トドマツノキクイムシ」が侵入し、立ち枯れが多発した。
被害は約51ヘクタールに及び、最も甚大な駅周辺の「激害地」では約17ヘクタールにわたり全ての木が枯れた。降雪前の21年9月に訪れると、激害地には葉のない白い幹の木が立ち並ぶだけだった。
林野庁は他の場所に自生する苗の激害地への移植や、苗木を育てるため種の採取など再生を始めた。
ただ、害虫駆除のための薬剤の空中散布や、立ち枯れたマツを切り倒し蒸すなどして殺虫するといった対応は、被害地域が国定公園の特別保護地区のため、環境への影響を考慮すると難しい。食害対策は虫の監視を続けるしかないのが現状という。
樹氷を研究する山形大の柳沢文孝名誉教授は、ガの発生原因について、50年前と比較し年間平均気温が約2~3度上昇したため「夏場にガが過ごしやすい環境になってしまった」と解説。再びガが襲来する可能性もあるという。
加えてマツの再生には50~70年程度かかり「このペースで気温上昇が続くとマツが元通りになる21世紀末には、そもそも樹氷ができない環境となりかねない」と警鐘を鳴らしている。〔共同〕