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ネット中傷に迅速救済 木村花さん巡り、地裁が賠償命令 

(更新)

テレビ番組に出演していたプロレスラーの木村花さん(当時22)が亡くなった後、SNS(交流サイト)での中傷投稿で遺族を傷つけたとして、東京地裁は19日の判決で、長野県の男性に約129万円の支払いを命じた。提訴のハードルとなった発信者特定の手続きは、花さんの死をきっかけに今後迅速化される。被害の防止に向けてはネット教育の充実などが課題となる。

花さんへの中傷を巡って賠償を命じる判決は初めて。

池原桃子裁判長は判決理由で、男性が口頭弁論に出廷せず反論もしなかったことから自白とみなし、母親の響子さんが200万円を請求していた慰謝料額は50万円が妥当とした。調査にかかった費用約74万円と弁護士費用を含めて賠償額を129万円とした。響子さんは約294万円を請求していた。

訴状によると、男性はフジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演していた花さんがSNSで誹謗(ひぼう)中傷を受けて2020年5月23日に亡くなった後、ツイッターに「あんたの死でみんな幸せになったよ、ありがとう」「お前の自殺のせいで(番組は)中止。最後まで迷惑かけて何様?地獄に落ちなよ」などと投稿した。

今回の訴訟は提訴までに半年以上かかった。響子さんらが中傷の投稿をした「発信者」のインターネット上の住所であるIPアドレスについて、ツイッター社に開示を求める仮処分を裁判所に申し立てたのは20年6月。仮処分決定を受け、開示された情報を基に8月、今度はプロバイダーに対して氏名や住所などの開示を求めた。

プロバイダーが「権利侵害が明らかでない」と拒否したため、10月にプロバイダーを提訴。11月に開示を受けたが、発信者と契約者が別なことが分かり、「発信者を教えてほしい」という手紙を契約者に2回送った。発信者を長野県茅野市の男性と突き止め、損害賠償を求めて提訴したのは年が明けた21年1月だった。

SNSで誹謗中傷を受けた被害者が損害賠償を求める場合、①SNS事業者に対するIPアドレスなど発信者の通信記録の開示請求②プロバイダーに対する契約者情報開示請求③得られた情報から発信者を提訴――というプロセスが必要だ。

請求が拒まれれば、その都度裁判を起こさなければならない。花さんや響子さんに対する複数の誹謗中傷投稿について、現在も情報開示や損害賠償を求める手続きが進行している。

こうした状況を受けて、総務省は救済の迅速化に踏み切った。プロバイダー責任制限法を見直し、1回の裁判手続きで氏名や住所を含む発信者情報の開示を求められる改正法が4月に国会で成立。22年秋ごろまでに施行される見通しだ。

中傷の投稿は近年多発し、救済の迅速化は大きな課題となっている。総務省運営の「違法・有害情報相談センター」に寄せられた相談は10年度に約1300件だったが、15年度に約4倍に増え、その後も5千件以上の高止まりが続いている。

IT(情報技術)企業20社が参加する一般社団法人「セーファーインターネット協会」(東京)の誹謗中傷ホットラインには、20年6月からの半年間で約700人から相談があった。

同協会は973件の投稿の削除を求め、うち8割超の836件で削除を確認した。担当者は「個人間のトラブルが多く、トラブル期間が長い傾向にある」と話す。

法務省は4月末、動画投稿サイト「ユーチューブ」の不適切動画について優先的に削除の審査が受けられるよう、運営元のグーグルと提携した。日本の政府機関として「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業と初の提携だった。

国際大の山口真一准教授(ネットメディア論)は「これまでは投稿者にたどり着くまでのハードルが高すぎ、訴えをためらう人も多かった」と指摘。法改正について、被害者の救済につながるだけでなく「身元が特定されやすくなることで、誹謗中傷の投稿の抑止力にもなる」と期待する。

再発防止に向けては▽AI(人工知能)が攻撃的な投稿を事前に判断して投稿者に再考を促す技術の活用▽子どもや大人へのネット教育の導入――といった「総合的な対策」の必要性も訴えている。

(山田薫)

「1年かかってやっと輪郭」 母の響子さんが記者会見


木村花さんの母、響子さんは19日の東京地裁判決後に都内で記者会見し「(花さんが亡くなってから)1年かかって、やっと輪郭が見えてきた。結果を残すことで苦しんでいる他の人の解決の糸口になれば」と話した。
東京地裁の判決後、記者会見する木村花さんの母、響子さん(19日午後、東京・霞が関)=共同
亡くなった花さんのTシャツを着て会見に臨んだ響子さんは「誹謗(ひぼう)中傷をやめてほしい。それだけのことに時間とお金、手続きがかかってしまうことが問題だ」と指摘。1件目の判決は出たが「まだ終わりではなく(花さんに)報告できない」と述べた。
会見に同席した代理人の清水陽平弁護士は50万円の慰謝料額について「通常多くて10万円。裁判所に今回の件の重大さを認めてもらった」と評価した。現在、5件の開示請求訴訟を起こしているほか、投稿内容が悪質だった3件については損害賠償を求めて提訴する可能性が高いという。

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