「一時保護」司法審査 児相に事務負担、弁護士配置増も
虐待を受けた子どもを親から引き離す「一時保護」について、司法審査で妥当性を判断する新制度案を厚生労働省がまとめた。児童相談所の請求を裁判官が審査し「一時保護状(仮称)」を発行する仕組みで、判断の透明性を確保し、親権者との対立を緩和する狙いがある。児相の事務負担が増えるため、弁護士配置を拡充するなどの対策も必要になりそうだ。
「息子さんは保護しました」。大阪府の男性会社員(48)は2017年秋の早朝、児相に呼び出され、そう告げられた。0歳だった長男は2カ月半前に自宅で転倒。搬送先の病院で急性硬膜下血腫と診断された。虐待を疑った病院の通告で児相は動いた。
妻は翌18年の9月、警察に傷害容疑で逮捕され、3カ月後、嫌疑不十分で不起訴処分に。長男はその後ようやく一時保護先の乳児院から自宅に帰された。保護期間は1年半に及んだ。男性はこの間、何度も児相の面談で経緯を説明したが、分かってもらえなかったという。「虐待を疑われている親は何を言っても悪く捉えられてしまう」。不信感はぬぐえない。
児相の悩みも深い。子どもの安全を守る使命があり、必要な一時保護をためらってはならない。一方、親と対立すると冷静な議論ができなくなったり、保護の解除がしにくくなったりもする。
中立な立場の司法による審査は既に一部で導入されている。17年の児童福祉法改正で、親権者の意に反し2カ月を超える一時保護をする際、家庭裁判所の「承認」が必要になった。昨年1年間の対象は約500件だった。
厚労省、法務省、最高裁の協議を経て今回示された一時保護状の制度案は、親権者の同意がない場合などに、児相が保護開始の前か後に保護状を請求し、裁判官が妥当性を判断する仕組みだ。
厚労省によると、19年度の一時保護件数は約5万3千件で過半数が虐待によるもの。うち4カ月分に当たる約1万3千件を抽出調査したところ、親権者の同意がなかったのは約2割だった。
保護状請求で懸念されるのは、夜間休日の扱いや事務負担の増大だ。今月5日に開かれた社会保障審議会専門委員会では、委員の児相幹部から「子どもの安全が脅かされている時に、戸籍謄本などの請求資料を集めるのは不可能だ」との意見も出た。請求時期を保護開始後何日以内まで認めるかも今後の焦点となる。
19年の法改正では、児相が弁護士の助言や指導を受けながら業務ができるよう体制整備をすることが定められた。厚労省は、児相に弁護士がいることで司法審査に関する書類作成や情報収集、親権者への説明などの法的手続きが円滑に進むとして、配置を進めている。〔共同〕