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追跡・ロシア石油 欧州「裏ルート」はこうして捉えた

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おわび9月21日に公開した「追跡・ロシア石油 欧州『裏ルート』はこうして捉えた」の記事中、ギリシャ南部ラコニア湾で8月24日にタンカー2隻が横付けして移し替えたのはロシア産石油であるとの誤った印象を読者に与えました。実際はイラクからトルコ経由で現場海域に来たインド籍のタンカーからもう1隻のギリシャ籍タンカーに移し替えており、日本経済新聞社としてはロシア産石油の可能性は低いと判断しています。該当する写真と映像を取り消し、一部を修正しています。読者と関係者の皆様におわびします。

ロシアの石油がギリシャ沖を「ハブ」とする隠れたルートで欧州に流入し、西側諸国による対ロ制裁が骨抜きになっていることを明らかにした日本経済新聞の調査報道「ロシア石油が欧州へ裏流通」(9月7日公開)。取材班は公開データの分析で取引の流れを捕捉。そのルートをたどって欧州を訪れ、関係者への直接取材などを通して全貌に迫っていった。

「ロシア制裁は本当に効いているのか」。ウクライナに侵攻したロシアの勢いが止まらない3月、調査報道担当記者とデータジャーナリストで構成する本社取材班は、規制をかいくぐろうとする動きがないか調査を始めた。

端緒を得たのは4月半ば。デンマーク沖でロシア産原油を運ぶタンカーの制止を試みた環境保護団体グリーンピースへの取材で、石油を洋上で別の船に移し替える「瀬取り」が地中海で増えていると聞いた。検証に使えそうなツールを探す中、船舶が発信する自動識別システム(AIS)の信号で作成した「瀬取りリスト」の存在を知った。

早速、英金融情報会社リフィニティブからリストを入手。「瀬取りが隠れみのとなっているなら侵攻後に頻度が高まった地域があるはず」と仮説を立ててリストを地域別にまとめ、侵攻開始から5月までの3カ月を前年と比較した。突出して増えていたのは、地中海ギリシャ沖。ロシアの石油積み出し基地が集中する黒海から地中海への通り道だ。

500隻の船の航跡を整理・分析

照準を合わせるのはギリシャ沖に決まった。ただ、瀬取りリストにはロシアと関係のない取引も含まれている。ロシア関連を絞り込むため、取材班はリストにあるのべ500隻弱の船の航跡の分析に乗り出した。

AIS信号が示す船の動きを専用サイトから抽出し、電子地図と重ねるソフトウエアを用いて航路図を描く。膨大な量のデータ整理だが、データジャーナリストがロシア関連を自動的に抜き出すプログラムを書き、作業を簡易化した。

その上で、瀬取り前後のタンカーの寄港地を確認。AIS信号を途中で切っている船は一定の基準で針路を推定した。貨物が重くなると値が大きくなる喫水(船底から水面の距離)の変化から、積み荷の移し替えの方向も検証した。

こうして完成したのが、9月7日公開の電子版記事で紹介した「動く航跡地図」だ。ロシア発タンカーから石油を受け取った船はどこに向かったか。想定していたのはロシア制裁に加わっていない長距離航路のインドや中国だったが、実際には、半分近くが欧州へと流れていた。

英企業がロシア国営会社の石油を購入

ただ、ロシア発のタンカーでもロシア産の石油を積んでいるとは決めつけられない。例えば、取材班は調査の過程でロシアの港から米国に直航したタンカーも見つけたが、積み荷はパイプラインでロシアに送られたカザフスタン産の石油だった。

検証の精度を高めるには具体的な取引に迫る必要がある。それも象徴的な事例がいいと考え、瀬取り後に英国に渡ったタンカー「マリノウラ」に注目した。英国は対ロ制裁に強硬で、欧州連合(EU)に先駆けて12月末までにロシア石油を完全に禁輸する。現時点で違法ではなくても、ロシアとの取引を露見させたくないはずだ。

マリノウラが5月11日にギリシャ沖でロシア発タンカーと横付けしている米プラネット・ラブズの衛星画像を入手し、船舶関係者や入港先にも徹底して当たった。しかし、多くは非公開の個人企業で無回答や取材拒否が相次いだ。SNS(交流サイト)を使ってタンカーの乗組員に接触を試みたが、接点は得られなかった。

この状況から脱するきっかけは、石油の取引記録を扱う欧州ケプラーのデータを得られたことだ。マリノウラの積み荷の流れを調べると、出荷元はロシア国営会社のロスネフチ。これを資源商社大手のトラフィギュラが仲介し、英石油中堅のプラックスグループに卸していた。

本社への訪問で開いた「扉」

8月中旬、取材班は英国・ロンドンのプラックス本社を訪れた。日本からも電話やメールで問い合わせていたが、無反応が続いていた。玄関前で事前に何度も連絡したことを告げ、改めて目的を説明した。しかし、反応は乏しく「担当者はいない」の一点張り。1時間ほど粘ったが、本社内に入ることもできなかった。

それでも、無駄足ではなかった。翌日、記者が渡した連絡先宛てに同社担当者からのメールが届いた。「個別取引にはコメントしない」としながらも、ロシア産石油の輸入は否定しない内容だった。

さらにロンドンから5時間かけ、北東部のイミンガム港に足を運んだ。ギリシャ沖で石油を受け取ったマリノウラが荷降ろしした港で、近隣にプラックスが所有するリンジー製油所がある。広大な敷地の製油所の一角には石油を運ぶための貨物列車の駅があった。小舟をチャーターして川に繰り出し、荷揚げルートも確認した。

石油のにおいが立ちこめる港町。地元でタクシー運転手をする男性にロシア石油が届いていることへの感想を聞くと「ひどい話だ。友人がロシアからのタンカーを見たと言っていたが実態は分からない」と顔をしかめた。

調査報道は当局や企業の発表に頼るのではなく、独自調査で問題を発掘し、検証して報道する。のべ500隻近い船の航路の整理・分析に要したのは1000時間以上。そうして積み上げた「事実」を手に、現場に足を運んだ。

報道後、瀬取りスポットに近いギリシャ南部ラコニア県の市議会は「国際報道」を根拠にラコニア湾を瀬取りに使わせないように閉鎖する案を可決し、政府に要請することになった。隠れたモノの流れと関係者のつながりを掘り起こす難しさを実感しつつ、地道な作業と取材の積み重ねが社会の変化につながる手応えを得ている。

(朝田賢治、長尾里穂、関優子、北本匠、三浦日向、横沢太郎)

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