ため池死亡事故、相次ぐ 専門家「国は積極関与を」

全国各地のため池で転落、死亡事故が近年、相次いでいる。農林水産省のまとめでは、2021年度までの10年間の死者は計251人。転落防止策が施されていないケースも多く、専門家は「国が積極的に安全対策に関わるべきだ」と指摘する。
農水省によると、農業用ため池は全国に約15万4千カ所あり、西日本を中心に分布する。このうち、水を供給する面積が0.5ヘクタール以上の約9万6千カ所を管理するのは、集落・個人等が59%、水利組合が18%、行政が13%を占める。管理者と所有者が違う場合も多い。
死亡した251人のうち、釣りや水遊びなどの「娯楽中」だったのが約2割。宮城県栗原市では今年4月、数人と釣りをして遊んでいた男児(当時6)が市管理のため池に落ちて死亡した。市によると、池の周辺も含めて立ち入り禁止が前提で、定期点検をしておらず、柵は壊れたまま放置されていた。
青森県弘前市でも5月、釣りに訪れた男子中学生が個人管理のため池に転落して死亡。「個人管理のものを全て確認するのは、人員的に難しい」として、市の点検は周囲に公共施設があるような場所に限られていた。
農業用ため池管理・保全法は、個人や団体などが水漏れや決壊が起きないよう管理するように定めているが、転落防止などの安全対策に関しては記載がない。農水省も注意喚起はしているが、取り組みは管理者に委ねられている。
国の「農村地域防災減災事業」の22年度予算は計約407億円。地滑り対策や用排水施設の整備などに使われるものだが、農水省の担当者は「ため池の安全対策にも使えるので、助成金を活用してほしい」としている。だが、主な対象は自治体や団体で、課題も残る。
水難学会会長の斎藤秀俊・長岡技術科学大教授は、子どもの死亡事故が続いており「自治体は容易に立ち入れる場所を優先的に点検すべきだ。『管理者任せ』にならぬよう、国と個人、自治体が協力して取り組むべき問題」と指摘。国が積極的に助成制度を周知し、管理者に認識させることが重要とした上で「個人管理者向けの助成制度を設けることも必要だ」と述べた。〔共同〕