スリランカ女性死亡、体調不良「誇張」疑う 入管報告書

名古屋入国管理局の施設で3月にスリランカ人女性(当時33)が死亡した問題で、出入国在留管理庁は10日に報告書を公表し、女性が仮放免を受けるために誇張して体調不良を訴えていると多くの職員が疑っていたと明らかにした。死因については「複数の要因が影響した可能性があり特定できない」とした。
入管庁は10日付で当時の名古屋入管局長と次長を訓告、警備監理官ら2人を厳重注意処分にした。
上川陽子法相は10日の閣議後の記者会見で「生命を預かっている収容施設で尊い命が失われたことを心からおわびする」と謝罪。監視カメラの映像を遺族に開示する方針を表明した。

報告書などによると、死亡したウィシュマ・サンダマリさんは2017年に留学生として来日。在留期間を過ぎても日本にとどまり、20年8月に警察に出頭して入管施設に収容された。
21年1月から吐き気などを訴えるようになり、2月下旬には食事や移動の際に介助が必要な状態になった。3月6日に呼びかけに応答しなくなり、搬送先の病院で死亡が確認された。
ウィシュマさんは2月下旬に点滴や外部の医療機関での受診を看守職員に求めていた。
内規では、収容者が病気になったり受診を希望したりすれば局長に報告し指示を受けることになっているが、名古屋入管では看守や准看護師職員が診療の必要性を事前に判断する「スクリーニング」をしており、ウィシュマさんの訴えを幹部に報告しなかった。
看守の多くはウィシュマさんが仮放免をアピールするため、体調不良について誇張して訴えていると疑っていた。報告書は「疑いがあったとしても、医療的な対応の必要性を見落とさないよう職員に意識させておく必要があった」と問題視した。
ウィシュマさんは1月以降、庁内や外部の消化器内科で診察を受けていた。血液検査や胃カメラで異常は見つからなかったが、2月中旬の尿検査では基準を超える数値が出ていた。
報告書は「追加検査などが望ましかった」と指摘。同施設は週2回、各2時間勤務の非常勤内科医しか確保できておらず、医療体制の制約が原因で対応できなかったと分析した。
ウィシュマさんは死亡の前々日に精神科で処方された抗精神病薬や睡眠誘導剤を服用した後にぐったりした状態になり、看守の間で体調への懸念が生じていた。
報告書は服用を継続させた判断について「状況を疑問に感じ、上司に相談すべきだった」と指摘。特に休日に収容者の容体が急変した場合の情報共有・対応体制が整備されていなかったと問題視した。
調査チームは名古屋入管幹部や診察にあたった医師ら関係者計63人から聞き取りし、外部の弁護士や医師らの意見を聞いた上で報告書をまとめた。
ウィシュマさんの死亡を巡っては、出入国管理法改正案審議の過程で、野党側が経緯の公表を要求。入管庁の説明不足などを理由に採決を認めず、政府・与党が改正案を取り下げた経緯がある。
「これが最終報告か」 遺族ら不満あらわ

死亡したウィシュマ・サンダマリさんの遺族らは10日午後、出入国在留管理庁の調査報告公表を受けて東京・永田町で記者会見した。遺族は「死因が分からないままなのにこれが最終報告なのか」と不満をあらわにした。
ウィシュマさんの妹、ワヨミさん(28)は「これまで施設で何人も死亡している。何人亡くなったら医療体制を変えるのか」と涙ぐみながら訴えた。
遺族の代理人である指宿昭一弁護士は「名古屋入管は収容者の生命・健康を守れる体制がなかった」と指摘した。
指宿弁護士によると、遺族らが求めていた監視カメラ映像の開示について、入管庁から2時間程度に編集したものを12日に開示する方針を伝えられた。代理人の同席は断られたという。