建設石綿救済、来春から 被害把握に課題

建設作業でアスベスト(石綿)を吸い込み健康被害を受けた人たちへの救済が来春から始まる見通しになった。参院で9日、被害者への給付金制度を創設する法律が成立。未提訴の被害者も救済するよう訴えてきた訴訟原告らは、政府に制度の周知徹底を求めるが、実態把握は容易ではない。
厚生労働省は支給対象が最大約3万1千人に上ると推計。建材メーカーによる補償は未決着で、なお課題が残る。
東京都葛飾区の男性(58)は1991年ごろに建物の解体を手掛ける会社に就職。石綿が舞って視界がかすむ現場で働いてきた。「当時は誰も危険だと思っていなかった」。2019年、階段の上り下りがつらくなり、じん肺と診断され労災認定を受けた。じん肺の一種「石綿肺」の所見もみつかった。
働くことが難しくなり、昨年2月に退職。薬の服用は欠かせず「労災保険では生活がぎりぎり。もし受給できるなら助かる」と給付金制度に期待を寄せる。

新法では、国が規制を怠ったとの司法判断が確定した1972年から2004年にかけ、石綿の吹きつけ作業や、屋内作業に従事し石綿肺や中皮腫、肺がんなどになった人を給付の対象にする。
政府は06年になって石綿を含む建材の使用や製造を全面的に禁止したが、石綿は「静かな時限爆弾」と呼ばれ、30~50年の潜伏期間があるとされる。
厚労省は、建設作業に従事した人のうち、これまでに石綿関連で労災認定を受けた約1万人が給付金の対象となると分析。毎年600人程度が新たに認定を受けており、今後30年間で対象者は総計約3万1千人にまでなると見込む。
男性は「年を取ってから発症する人は出てくる。政府には最後の一人まで責任を取ってほしい」と強調する。
ただ、被害者の実態をつかむのは難しい。建設アスベスト訴訟弁護団が5月に行った電話相談には3日間で761件が寄せられ、労災などの認定を受けていない人からの相談が全体の76%を占めた。担当者は「建設業は中小零細の会社を渡り歩く人が圧倒的に多く、労災にたどり着けない人が大半だ」と指摘する。
国は相談窓口を設け周知に努める考えだが、どこまで被害を掘り起こせるかは不透明だ。
最高裁が国とともに一定の賠償責任を認めた建材メーカーが給付金制度に加わっていないことも残された課題だ。新法は付則でメーカーの補償に関し引き続き「検討を加える」としているが、各社は司法判断の枠を超えた費用負担には後ろ向きの姿勢を崩さない。
メーカーのうち日鉄ケミカル&マテリアルは「当社単独でお答えできるものではない」、ニチアスも「現時点で一企業としてコメントすることはない」などと回答した。〔共同〕
原告ら「大きな成果」

建設アスベスト(石綿)訴訟に加わっていない被害者に給付金を支給するための法律が参院本会議で成立したことを受け、訴訟原告らが9日、東京都内で記者会見した。小野寺利孝弁護団長は「5月の最高裁判決と世論の支持、政治の力によって大きな成果を勝ち取ることができた」と評価した。
原告の大坂春子さん(78)は「みなさんの協力でここまでたどり着けた」と感謝。一方で、裁判で請求が認められなかった仲間がいることに「一人残らず喜べる日を迎えるのが望みだ。これからも頑張る」と誓った。
同じく原告の渡辺信俊さん(73)は「仲間が被害を受けるのを見過ごせなかった」と話し、未提訴の人の救済につながることを喜んだ。
小野寺団長は「国との関係では法律が実を結んだが、闘いは終わっていない」とも述べ、建材メーカーの責任を引き続き追及する考えを示した。〔共同〕
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