「GoTo」キャンセル補償で不適切給付2億円 検査院指摘
観光需要喚起策「Go To トラベル」事業で国が旅行・宿泊事業者に支払ったキャンセル料の補償を巡り、会計検査院は12日、本来の条件を満たさない不適切な給付が2020~21年度に9969件、2億1739万円あったと公表した。検査院は給付金の返還や審査方法の見直しなどを観光庁に求めた。

同事業は新型コロナウイルス禍で落ち込んだ観光産業支援策として20年7月に始まり、感染拡大に伴い同11~12月に各地域で順次、一時停止された。国は消費者が事業停止を受けて旅行を取りやめた場合のキャンセル料を無料とする一方、事業者には客が支払う予定だった旅行代金の35%を補償するなどの措置を取った。
検査院は国が支払った全ての補償405万件(約1321億円)について、事業者が提出した申請書類や実際の予約記録を調べた。その結果、事業の一時停止が公表される前に客が予約を取り消していたなど、給付条件に当てはまらないケースが多数見つかった。予約取り消しを二重に申請していたケースも確認された。
キャンセル料の補償は、事業者が予約日や予約取り消し日、宿泊日数などが記載された申請書を作成し、旅行会社と業界団体でつくる事務局が審査する仕組みだった。事務局は観光庁から委託を受けて審査していた。
検査院は不適切給付の原因として、事務局が参考にした審査マニュアルの点検項目の不備や、事務局職員の人手不足を挙げた。「迅速な審査が求められる中、人手不足が恒常化し、複数人による確認ができていなかった」(検査院の担当者)という。
支給後に申請内容が適正かどうかを確認する事後審査の不徹底も指摘した。
観光庁は21年4月に事務局に事後審査を指示したが、対象は全体の0.15%の6086件、違反発覚は計502件にとどまった。検査院の担当者は「調査範囲を拡大すれば違反事例をより多く発見できたはずだ」と話した。
観光庁は指摘を踏まえて「重く受け止めなければならない」とコメントした。給付条件に当てはまらないと指摘された事例については審査し直し、支給対象外であれば旅行・宿泊事業者に返還を求めるほか、ほかに不適切支給の事例がないかも調べるとした。
同事業を巡っては21年末以降、宿泊費を補助する給付金で旅行会社など5社が絡む不正受給の疑惑が発覚した。疑惑を調べた一部の会社の調査報告書などによると、不正受給額は6億円超に上る可能性がある。同庁は22年2月、給付金支払時の審査厳格化などの再発防止策を公表した。
政府は11日、国内観光の新たな支援策「全国旅行支援」を開始した。事業の実施主体は都道府県で、審査は都道府県が事業を委託する事務局が担う。
法政大の小黒一正教授(公共経済学)は「全国旅行支援で同じ過ちを繰り返さないために国は不適切な支給が生じた原因を整理し、教訓を速やかに自治体と共有すべきだ」と話す。
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