精神障害、仲間の力で回復 広がる「ピアサポート」

精神障害がある人への医療や福祉の現場で、回復した当事者が自分の経験を生かして患者の社会復帰を支援したり、相談に乗ったりする「ピアサポート」という取り組みが広がっている。国、自治体も後押ししており、医師や専門職とは違った対等な立場での活動に期待が寄せられている。
4月上旬、埼玉県上尾市の障害福祉事業所。主に30~40代の男女10人が交流スペースに集まってテーブルを囲んだ。子育て中の栄養士の女性もいれば、小売業で働く男性会社員もいる。
共通点はうつ病や統合失調症、ひきこもりの経験があったり疾患の治療中だったりすること。この日は自主的なピアサポートの会合だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実際に集まるのは約1年ぶり。近況を報告し合うと「久しぶりにみんなと会えてよかった」と笑みがこぼれた。
ピアは英語で「仲間」「同等」といった意味。参加者の一人、近藤誠一さん(48)は30年近く前に統合失調症を発症したが回復し、上尾市が開くピアサポート講座を受けた。パートの仕事の傍ら、有償ボランティアで入院患者を訪問したり、自分の経験について講演したりする。
「同じ目線で相手の気持ちを尊重するようにしている。活動することで自分も仕事や生活に意欲が湧くので、お互いさま」と話す。
上尾市は2010年度から講座を開き、19年度までに延べ525人が受講。厚生労働省によると、20年度には都道府県や政令指定都市など約50自治体がピアサポートを活用した事業を実施した。
障害福祉事業所や医療機関で職員として働くピアサポーターもいる。千葉県流山市の精神科クリニックに勤める桜田なつみさん(34)。患者が通うデイケアで就労支援などに携わる。
デイケア利用者の紺野陽介さん(35)は「同じ統合失調症なので、症状との付き合い方や、仕事を続けている経験に基づく助言は参考になる」。一方、桜田さんは当事者の立場から、クリニックの看護師らの対応に「患者本人が置き去りになっている」などと意見することもある。
厚労省は今年4月から、障害福祉事業所がピアサポーターを配置して条件を満たした場合には報酬を加算する仕組みを導入。自治体には、精神障害者への支援を話し合う場に当事者の参加を求めていく方針だ。
聖学院大の相川章子教授(精神保健福祉)は「雇用されたピアサポーターは当事者と職員という2つの立場で葛藤を抱えてしまうこともある。医師や専門職は意見を取り入れ、精神障害への意識や支援を変えていくという姿勢が大切だ」と指摘している。〔共同〕