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ロシア石油が欧州へ裏流通 ギリシャ沖経由、日経分析

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おわび9月7日に公開した「ロシア石油が欧州へ裏流通」の記事中、ギリシャ南部ラコニア湾で8月24日にタンカー2隻が横付けして移し替えたのはロシア産石油であるとの誤った印象を読者に与えました。実際はイラクからトルコ経由で現場海域に来たインド籍のタンカーからもう1隻のギリシャ籍タンカーに移し替えており、日本経済新聞社としてはロシア産石油の可能性は低いと判断しています。該当する写真、映像を取り消し、一部を修正しています。読者と関係者の皆様におわびします。

ウクライナに侵攻したロシアの石油が隠れたルートで欧州に流入している。ギリシャ沖でロシア発タンカーから石油を受け取り欧州の港に入港した船が半年で41隻と、1隻だった前年から大幅に増えていることが日本経済新聞の調査で明らかになった。欧州連合(EU)や英国がロシア石油を完全に禁輸するのは年末以降だが、取引が明るみに出ると企業は批判を受けるリスクがある。船の移し替えで産地を曖昧にする流通手法は、制裁の抜け道として残りかねない。

ロシアは西側諸国から経済制裁を受けており、主力産業の石油の輸出には一部、歯止めがかかっている。出先を模索している石油はどこに向かうのか。日経はロシア石油の海上輸送の実態を探るため、英リフィニティブのデータを用いて、2月24日以降にロシアの港を出た石油タンカーと、接触した船の動きを分析した。

対象区域に選んだのは、洋上で船舶が横付けして積み荷を移し替える「瀬取り」が頻発している地中海のギリシャ沖。船舶が発信する自動識別システム(AIS)の信号をたどって航路を追跡し、積み荷が重いと値が大きくなる船底から水面までの距離(喫水)の変化と照らし合わせて、瀬取りの発生数を調べた。

8月22日までの約6カ月間で、ギリシャ沖のロシア発タンカーに関係する瀬取りは175件確認できた。前年同期は9件で、実に19.4倍の急増だ。リフィニティブのデータによると、この期間にロシアからギリシャ沖での瀬取り向けに出荷された石油は2386万バレルで、434万バレルだった前年同期の5倍超に膨れた。

では、石油を受け取ったタンカーはどこに向かったのか。

航跡を追って入港が確認できたのは89隻(前年同期は3隻)で、向かった先はギリシャ、ベルギーなど欧州が41隻と半数近くを占めた(同1隻)。その中には、ロシア制裁に強硬な英国の港に入港した船も2隻あった。ギリシャ沖がロシア―欧州航路をつなぐ「ハブ」となっている構図が浮かんできた。

EUは2023年2月までにロシア石油の海上輸入を止める。英国はこれに先立ち、今年12月までに完全に禁輸する。国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシア石油の7月のEU向け輸出量は1月比26%減の日量280万バレル。現時点で取引は違法ではないが、政府や市場の目にさらされる企業は表向きロシアとの関係見直しに動いている。

国営会社ロスネフチの石油が英国に

日経は6月に英国に渡った石油について取引内容の検証を試みた。

リフィニティブの航跡・喫水データ、米プラネット・ラブズの衛星画像で分析したところ、ロシアの港を出た2隻のタンカーからギリシャ沖で瀬取りを受けたマルタ籍タンカー「マリノウラ」が、6月4日に英東部のイミンガム港に入り、同6日までに荷降ろししていた。

欧州エネルギー調査会社ケプラーの取引記録によると、マリノウラが英国に持ち込んだのはロシア国営石油会社ロスネフチが生産した30万バレルの石油だった。資源商社大手でスイスに本拠を置くトラフィギュラが荷主となって仲介し、英石油元売り中堅のプラックスグループに売却していた。

プラックスの英本社を訪ねて取引の照会を求めた日経に対し、同社は「個別取引に関する業務上の機密情報にはコメントできないが、英国政府の制裁の方針に従っている」と答えた。トラフィギュラはメールへの返信で「当社は顧客や関連する政府の要求に応じている」とし、ロスネフチは日経が設けた期日までに回答しなかった。

米国は「制裁回避の瀬取り」に警告

瀬取りはそれ自体が悪いものと言い切れない。石油取引では長距離航路で輸送効率の高い大型船に石油を集約することがあり、出港後に買い手が変わり他の船に石油を移す場合もある。ただ、積み荷の移し替えにより、もとの出荷地は判明しにくくなる。

各国は国内法などで輸入者に税関への原産地の届け出を求めているが「出どころを隠すために瀬取り地点などを原産地として申告する事業者もいる」(海事法に詳しい津留崎裕弁護士)。英ロイズ保険組合系アナリストのミシェル・ボックマン氏は「瀬取りによって取引が複雑になると、当局がモノの流れを検証することは極めて難しくなる」と指摘する。

米情報会社エナジー・インテリジェンスのジュリアン・マトニア氏は「瀬取りの過程で他の石油とブレンドされると、追跡できる可能性はさらに低くなる」と話す。米国務省は20年の業者向けの資料で「制裁を回避するためにも瀬取りは頻繁に利用されている」と言及し、不正に関与しないように警告した。

近海での瀬取りの急増を、ギリシャ政府はどう見ているのか。同国海運・離島政策省は日経に対し「船の動きは港湾局が監視しており、領海への侵入があれば罰則を科す用意がある」と答えた。隣国との関係からギリシャは東寄りの領海を通常の半分の6カイリ(約11キロメートル)としており、波が穏やかなギリシャ南部のラコニア湾内にある瀬取りスポットは「領海外」なのだという。

ラコニア県選出の国会議員スターボラス・アラホビトゥス氏は「ラコニア湾の(瀬取りタンカーに対する)閉鎖など対策を議会に提案しているが政府は動かない」と話す。背景には、豊富な資金力と政治力を持つ同国の海運業者の影も浮かぶ。

主要7カ国(G7)は12月からロシア石油の価格に上限を設け流通を絞る。一方、ロシアは石油の値引き販売を進めている。制裁はロシアの資金源を断つ目的だが、産地があやふやなロシア産品が流通すれば効果は限定的だ。国際連携を強化し、不透明な取引をあぶり出す方策が必要となる。

(長尾里穂、朝田賢治、関優子、三浦日向、北本匠、横沢太郎)

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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