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海運国ギリシャ、ロシア石油「裏流通」の舞台に

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おわび9月9日に公開した「ロシア石油、海上取引の『瞬間』 公海上で監視甘く」は見出しが誤りだったため訂正します。記事では、ギリシャ南部ラコニア湾で8月24日にタンカー2隻が横付けして移し替えたのはロシア産石油であるとの誤った印象を読者に与えました。実際はイラクからトルコ経由で現場海域に来たインド籍のタンカーからもう1隻のギリシャ籍タンカーに移し替えており、日本経済新聞社としてはロシア産石油の可能性は低いと判断しています。映像を取り消し、一部を修正しています。読者と関係者の皆様におわびします。

ギリシャ沖合でタンカー同士が横付けして石油を移し替える「瀬取り」が増加している。ロシアのウクライナ侵攻で西側諸国がロシア石油の排除に動く中で、欧州への「裏ルート」のハブになっている。行われているのは監視が効きにくい公海上とはいえ、野放しとなっている背景には、海運業の影響力が強いギリシャ社会の事情もある。

瀬取りスポットになっているのはギリシャ南部のラコニア湾。ギリシャ領海の外だ。日本経済新聞が船舶の発する自動識別システム(AIS)の信号で確認した。EUや英国がロシア石油を禁輸するのは年末以降だが、企業は公然とロシアと取引しにくくなっている。日経の調査では2月24日のウクライナ侵攻以降、ギリシャ沖でのロシア発タンカーと関係する瀬取りは前年の20倍に増えていた。

地域社会は「瀬取り」に困惑

地域社会は困惑した目を向ける。最寄りの町ギティオ(ラコニア県)でウミガメの保護に取り組むギャルゴス・ダウタコス氏(57)は「我々の美しい自然が汚染されている」と嘆く。タンカーの排ガスが町に届き、海面には船から出るごみが漂う。衝突事故がいつ起こるか、心配の尽きない日々という。

地元選出の国会議員、スターボラス・アラホビトゥス氏は5月のギリシャ議会で瀬取り増加への懸念を訴えた。だが、政府の反応は薄かった。アラホビトゥス氏は「一度の事故でも自然や観光業は壊滅する」と話し、今も湾の閉鎖や領海の拡大を主張する。

当局はなぜ瀬取りを許しているのか。ギリシャ海運・離島政策省にメールで問い合わせたところ「領海内の違法船であれば対応する」と返答があった。一般的に領海は12カイリ(約22キロメートル)だが、ギリシャは隣国トルコとの領土問題から、東側の領海を沿岸から6カイリとしている。

ただ、国際ルールでは、公海でも自国籍の船は取り締まることができる。ラコニア湾を出入りする船はギリシャ籍も多い。それでも政府が積極的に関与しようとしない背景には、ギリシャ国内での海運業の存在感の大きさが浮かぶ。

「誰も逆らえない」ギリシャの海運業

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると世界の船舶の2割(積載量ベース)をギリシャの船主が保有する。海運業がギリシャの国内総生産(GDP)に占める割合は1割弱で、同国政府は様々な優遇策を講じている。船主は海外で得た利益について納税の減免措置を受ける。

ニコシア大(キプロス)のセオドロス・ツァキリス准教授は「ギリシャの海運会社が傷めば、欧州経済全体に影響が及ぶ」と話す。域内の船の半分近くはギリシャの船主が保有しており、各国はエネルギーや物資の運搬で頼っている。

ギリシャの調査報道団体リポーターズ・ユナイテッドによると、3~6月の間にロシアの港から石油やガスを運んだ船の5割はギリシャが船主だった。ギリシャ船主協会のメリナ・トラブロス会長は6月の国際海事展で「我々は違法なことは何もしていない」と強調した。

「国内では誰も海運業者に逆らえない」。ダウタコス氏は悔しそうにつぶやく。市民の生活や地元産業に悪影響が及んでも、異議が伝わることのないジレンマ。瀬取りをめぐる対応はギリシャ経済の映し鏡にもなっている。

(長尾里穂)

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