野村萬斎氏、20年務めた芸術監督を退任 「根幹学べた」

狂言師の野村萬斎氏(56)が世田谷パブリックシアター(東京・世田谷)の芸術監督を3月31日に退任した。就任からの20年間を、「学びが多く、濃密でラッキーな20年間だった」と歩みを振り返った。
就任は2002年、36歳の若さだったが、打診は「渡りに船だった」と明かす。当時、ピーター・ブルックやサイモン・マクバーニーら世界的な演出家が日本の伝統芸術に影響を受けた作品を手掛け、「うがった言い方をすれば伝統芸能が演劇的に搾取されているように感じていた。日本人が日本の伝統や古典を使って世界的に発信をしなければいけないと思っていた」からだ。二つ返事で引き受け、「伝統芸能と現代演劇の融合したトータルシアター」を目指した。
自ら立ち上げた「MANSAI 解体新書」や「現代能楽集」のシリーズは、多様なジャンルから人を招くことで「今までに見たことのない舞台芸術を模索し、根幹を学べた」と手応えを語る。一方で、シーズン中に手持ちの演目を毎日変えながら上演する「レパートリーシステム」は「ハードルが高かった」と実現できなかったことに悔しさをにじませた。
芸術監督を務めたことで「狂言師が演出家になった」と、野村氏は自身のキャリアにおける意義を語り、「これからの私の生き方、作品でお返しする」と力を込める。退任後は狂言師としての活動のほか、昨年就任した全国公立文化施設協会会長や石川県立音楽堂邦楽監督の任にあたる。「時間ができる分、違うジャンルにも新たに挑戦したい」と笑顔を見せた。
バトンを受け取った俳優・演出家の白井晃氏(64)は、2021年まで務めたKAAT神奈川芸術劇場芸術監督の経験を生かしてトップに立つ。「私の役目は未来の世代への橋渡し。5年後、10年後の世田谷パブリックシアターがどういうふうになっているのかを想像しながら考えていきたい」と意気込みを語った。
(佐々木宇蘭)