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外来種ニシキヘビに悩む米フロリダ州 生態系に影響

ナショナルジオグラフィック

米国フロリダ州で、体重98キロ、全長5.4メートルの巨大なビルマニシキヘビが捕獲された。同州で記録された個体としては最大だ。そればかりか、原産地の東南アジア以外でここまで大きな個体が捕獲された例はない。

フロリダ州南部は、数十年前からニシキヘビの問題に悩まされてきた。今回捕獲されたビルマニシキヘビは、めったに人前に姿を見せない頂点捕食者で、1970年代にフロリダ州に持ち込まれた。当初は珍しいペットとして飼われていたと思われるが、それ以来野生で爆発的に増え続け、生態系を変えてしまうほど様々な在来種を食い荒らしている。

2021年12月、自然保護団体「コンサーバンシー・オブ・サウスウェスト・フロリダ」のニシキヘビ追跡チームは、おとり用のオスのヘビに全地球測位システム(GPS)発信器を取り付けて、今回の巨大なメスを発見し、捕獲に成功した。この方法を取り入れてからは、特にメスのニシキヘビを多く駆除できるようになった。生殖能力を持つ体の大きなメスをできるだけ多く駆除することが、問題の改善につながると期待される。

おとり用ヘビ

2000年以降、フロリダ州魚類野生生物保護委員会は1万5000匹以上のニシキヘビを駆除してきた。2017年以降は、駆除した数が毎年1000匹を超えている。それでも、州内にあとどれくらい生息しているのか把握できていない。「そこが問題なのです。いったいどれほどの規模なのかすらわかっていません」と、ニシキヘビ追跡チームの責任者で、野生生物学者のイアン・バートシェック氏は言う。

問題は、ニシキヘビは身を隠すのが得意だということだ。熟練者でも、フロリダ州南部の広大で密生した湿地帯や亜熱帯林でヘビを見つけるのは並大抵のことではない。

チームが今回おとりに使ったのは、全長およそ3.6メートルのディオンという名のオスのヘビだ。その体内に手術で発信器を埋め込み、無線遠隔測定法を使って追跡する。こうしたおとりのオスを繁殖期に野に放すと、さっそく交尾の準備ができているメスのもとに直行する。今回、記録破りの大きさのメスの元へとチームを導いてくれたディオンは、今年の「MVP」だという。

大きさは重要だと、魚類野生生物保護委員会の生物学者であるサラ・ファンク氏は言う。「体が大きいメスは、たくさん卵を産みますので、生態系からこうしたメスを取り除くことは極めて重要です」

コンサーバンシー・オブ・サウスウェスト・フロリダのチームだけでも、2013年以降1000匹以上のニシキヘビを駆除してきた。その総重量は11トンにも上る。大多数が、おとり用のオスを使って捕獲した、生殖能力を持つメスだ。

バートシェック氏と、同僚の生物学者イアン・イースターリング氏は、繁殖期になるとおとり用のオスの監視を強化する。オスがいつも以上に長く1カ所にとどまっていたら、そこに行って周囲の密生した草むらを調べてみる。時には、オスとメスのカップル1組だけでなく、何匹ものヘビが交尾をしようと複雑に絡み合っていることがある。

2021年12月に捕獲した今回の巨大ニシキヘビは、獣医の監督のもと安楽死させられ(科学者にとって最もつらい仕事の一つだ)、解剖が行われる2日前まで冷凍庫で保管された。

巨大ニシキヘビの解剖

解剖の当日、筆者が見学のために研究センターに到着すると、ヘビは既に冷凍庫から出され、部屋を大きく陣取っているテーブルの上にUの字に置かれていた。体重98キロのヘビを解凍するのに、約48時間かかる。臭いがひどく鼻についた。

生物学者たちは、ヘビの腹を丁寧に手でなぞり、中に何があるかを感触で確認した。切開する部分に、長い黒線が引かれてある。イースターリング氏が、表面にできた白い筋を指し示した。何か大きなものを飲み込んだため、皮膚が引っ張られてできたものだという。

これまで何百回もニシキヘビの解剖を行ってきたとあって、チームの手つきは慣れたものだった。それでも、部屋には緊張感が漂っていた。この日の目標は2つ。卵胞(発達中の卵)を数えることと、腸の中身を確認することだ。

イースターリング氏が黄色味を帯びた白い腹の中央を切り開くと、ピンク色の内臓が顔をのぞかせた。肋骨を手で押し開くと、その下にある脂肪の層があらわになった。

半透明の内臓の層に指を入れると、鮮やかなライムグリーン色をした胆のうの後ろから、大きな黄身のような卵胞の塊が現れた。尾に近い方には灰色の消化管があり、さらにその先にしぼんだようにしわくちゃになった灰色の円盤状の物体が1個があった。前の年に産まれなかった古い卵だ。

卵胞を数えてみると、122個あった。過去最高記録だが、母体の大きさからすれば驚きではない。

生態学者が個体群動態を正確にモデル化するためにも、1匹のニシキヘビが卵を何個産めるのかを知ることは重要だ。卵胞や卵の数は、その個体の繁殖能力を直接示す指標になる。大きなメスは、たくさんの卵を産む傾向にある。

次に、消化管の中身を調べる。まず外側から手で触ってみて、中に何が入っているか想像してみる。バートシェック氏は、蹄(ひづめ)の先の部分らしきものを感じたという。

イースターリング氏は消化管を切り、中身を押し出すようにして出てきたものを金網の上に並べた。少量の毛が混じった茶色い塊や、溶けかけた白い骨。イースターリング氏は手を止めて、それらをじっと見つめた。

「うん、シカですね」。こともなげにそうつぶやく。「何度も見ていると、わかってくるものです」。さらに中身を押し出すと、小枝、ニシキヘビの歯(よくあることだという)、そしてこの日一番の戦利品である、蹄の芯が3個出てきた。

「これが、決定的な証拠です」と、バートシェック氏は言う。ボブキャットや絶滅危惧種のフロリダパンサーといった在来種の獲物を、ニシキヘビが奪っているということだ。

獲物の争奪戦

フロリダ大学の研究チームの調査によると、フロリダ州ではこれまでにビルマニシキヘビの腸から73種の動物(哺乳類24種、鳥類47種、爬虫[はちゅう]類2種)が見つかったという。どんな外来種でも土地の生態系を変化させるものだが、その外来種が頂点捕食者の場合、影響はとりわけ深刻だ。

生態学者が特に懸念するのは、絶滅危惧種であるフロリダパンサーへの影響だ。フロリダ州は、1995年からフロリダパンサーの個体数の回復に取り組んでいる。1980年代に野生の個体数が20頭以下に落ち込んだ後、魚類野生生物保護委員会は、飼育下で繁殖させた個体を野生に再導入する努力を続け、一定の成功を収めた。現在は、野生に200頭前後が生息していると推定され、分布域も拡大しているようだと話すのは、同委員会に所属し、パンサーの生態を研究するデイブ・オノラト氏だ。

しかし、ニシキヘビがパンサーにどのような影響を与えているかについてはさらなる研究が必要だと話す。「ニシキヘビのせいでパンサーの獲物であるオジロジカの数が大きく減少すれば、パンサーにも影響が出始めるでしょう」

ニシキヘビが環境に与える影響についてはまだほとんど知られていないため、フロリダ州の各地で捕獲されるすべての個体が、貴重な情報源となることだろう。

文=REBECCA DZOMBAK/写真=MAGGIE STEBER/訳=ルーバー荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年6月26日公開)

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