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廃線などつなぎ道に再生 全米横断6000キロトレイル

ナショナルジオグラフィック

米国の「グレート・アメリカン・レール・トレイル」は野心的な試みだ。完成すれば、東にある首都ワシントンDCから西のワシントン州まで徒歩や自転車で横断できるようになる。山から平原、太平洋に至る壮大な旅となるだけでなく、その道中にある何十ものコミュニティーの活性化に貢献するだろう。

このプロジェクトに携わる組織であるレールズ・トゥ・トレイルズ・コンサーバンシーのリズ・トーステンセン氏は「グレート・アメリカンがコミュニティーにどう貢献できるかは、ルート決定の大きな判断材料になりました」と話す。

鉄道の再生物語

20世紀の大半において、米国中西部は産業の中心地であり、ニューヨークからウィスコンシン州まで鉄道で貨物が運ばれていた。しかし、製造業の衰退によって、中西部の町や都市を蛇行する何千キロメートルもの鉄道は使われなくなった。

そして今、使われなくなった鉄道がレール・トレイルに生まれ変わり、かつて繁栄していた地域を再興してつなげようとしている。

12の州とワシントンDCを結ぶ全長6000キロメートルのグレート・アメリカンは、ワシントンDCの中心部にあるナショナル・モールが起点(または終点)だ。アパラチア山脈や大河ミシシッピ川を横断、ここは米国を象徴する風景や体験が待ち受けるルートだ。さらに西へ進むと、モンタナ州ビュートの東を貫く大陸分水嶺(れい)を登り、ワシントン州シアトルのピュージェット湾を横切り、同州ラ・プッデュで太平洋に到達する。

ルートの50%以上がすでに完成している(ただし、トレイル全体がつながるのは20年後になる可能性もある)。キャンプ場や自転車修理サービス、レストラン、ビール醸造所など、沿道ではさまざまなアクティビティーや施設の需要が生まれている。

レールズ・トゥ・トレイルズ・コンサーバンシーの推定では、145を超える既存のレール・トレイルとグリーンウエー(歩行者自転車専用道路)、多目的道路から成る計画ルートの80キロメートル圏内に、5000万の米国民が居住している。2022年5月の報告書によれば、グレート・アメリカンの完成後、トレイル沿道や近郊のコミュニティーに年間約2億3000万ドルの観光収入と10年間で2万5000人の雇用がもたらされる見通しだ。

人口6万5000人のインディアナ州マンシーは、かつてフル稼働していた鉄道を再利用したいと考えている小さな町のひとつだ。

「私たちのトレイルは舗装された多目的道路で、訪れるのにふさわしいトレイルだと思います」と語るのはカーディナル・グリーンウェイズの代表を務めるアンジー・プール氏。全長100キロメートルのカーディナル・グリーンウェイズはマンシーを通過するグレート・アメリカンの一部だ。「グレート・アメリカンが完成すれば、全米のトレイル愛好家にとってさらに環境が充実するでしょう」

マンシーの老舗である1865年創業のカークス・バイク・ショップなど、トレイル周辺の店にとっては、大きな恵みとなる可能性がある。

カークス・バイク・ショップを経営するジェイソン・アラード氏は「顧客のほとんどが地元住民ですが、グレート・アメリカンが観光の発展をもたらす可能性があります。地元の人たちも外に目を向けるようになるかもしれません」と話す。

マンシーのトレイルは、市のランドマーク、ミネットリスタ・ミュージアム&ガーデンズとつながっている。16ヘクタールの果樹園と庭園が広がり、ファーマーズマーケット、缶詰やガラスをつくるワークショップが一般公開されている。また、カフェやビール醸造所、レストランも近くにある。

グレート・アメリカンに期待するのは、マンシーだけではない。

全速力で整備中

アイオワ州西部のカウンシルブラフスは、市の中心部を通るグレート・アメリカンの近くで大規模な都市再生プロジェクトに着手した。住民の約60%がファースト・アベニュー・レール・トレイルの1.6キロメートル圏内に暮らしており、このトレイルがトレイル・プラザや日よけ、緑地を盛り込んだ「リニア・パーク」として開発されている。2023年春に正式オープンし、交通の要所としての役割も担う。

カウンシルブラフスで市の主任を務めるブランドン・ギャレット氏は「通勤者のことも考え、24時間365日利用できるよう、照明にかなりの費用をかけました。除雪も優先的に行っています」と説明する。

歩行器、ベビーカー、車椅子、電動車椅子など車輪の付いた移動手段を使う人やジョギングする人に配慮し、アスファルトの路面を選択した。

「私たちはシカゴとシアトルを結ぶグレート・アメリカンで最大の都市圏に属しています。アイオワ州やネブラスカ州を横断する旅行者であれ、もっと広域を移動する旅行者であれ、旅の主な滞在地として、おそらくここを周遊してくれるでしょう」とギャレット氏は期待を膨らませる。

カウンシルブラフスから西に2400キロメートル近く離れた人口2万人ほどのワシントン州ポートエンジェルスでも、同じような物語が展開している。1800年代に建設され、その後、拡張された鉄道は今、グレート・アメリカンのオリンピック・ディスカバリー・トレイルとなった。旅行者はシャチやアザラシを見ることができる。さらに西へ進むと、素晴らしいオリンピック国立公園の北部を通過する。

グレート・アメリカンがポートエンジェルスの中心街を通過することに決まり、地元ではすでに新しいインフラの整備が進められている。2022年、中心街の空き地に自転車修理店がオープンし、周辺のホテルは宿泊客に電動自転車を貸し出し始めた。

「すでに自転車で米国を横断する人たちがここに立ち寄っています。グレート・アメリカンは、その動きを発展させる役割を果たすでしょう」と地元の推進団体ペニンシュラ・トレイルズ・コーリションのジェフ・ボーマン氏は話す。

7500万ドル超を確保

現在、旅行者はグレート・アメリカンを利用できるが、ワイオミング州とモンタナ州の地図に載っていない大きな区間をはじめ、まだ80カ所以上の未開通区間が残されている。

「地理的な課題に直面している区間もあれば、橋の修復が必要な区間もあります」とトーステンセン氏は説明する。「まず、資金を確保する必要があります」

近年、状況は大きく改善している。2019年にルート計画が発表されてから、トレイルの整備費として、官民合わせて7500万ドル超が確保されており、現在、160キロメートル以上の開発が進められている。

文=STEPHEN STARR/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年2月26日公開)

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