時差ボケ想定した旅行計画、現地時間にほぼ適応可能 - 日本経済新聞
/

時差ボケ想定した旅行計画、現地時間にほぼ適応可能

ナショナルジオグラフィック

飛行機で何時間も時差がある場所に移動すると、「概日リズム睡眠障害」、いわゆる「時差ボケ」と呼ばれる状態になることがある。これは一時的な睡眠障害で、体内時計が目的地の時間と同期せず、日光や夜の暗さ、食事時間といった外界の刺激を受けてもずれを修正できない状態が続くことだ。

米国から英国に行った初日の昼食時にうたた寝をしてしまったり、日本での休暇の初め2〜3日間はよく寝つけなかったりするのも、時差ボケのせいだ。「私たちの体には自然なリズムが備わっており、かなり一定に保たれています」と、米ジョージ・ワシントン大学睡眠障害センターのビベック・ジェイン所長は言う。

しかし、時差ボケで旅行を台無しにせずに済む方法はある。「時差ボケを想定して計画を立てれば、旅行の数日前に目的地のタイムゾーン(時間帯)にほぼ適応することができます」と、神経学者で著書に『The Sleep Solution: Why Your Sleep Is Broken and How to Fix It(睡眠解決策:なぜ睡眠が乱れるのか、どうすれば治せるのか)』があるW・クリス・ウィンター氏は言う。

新たな時間帯に徐々に慣れるために利用できるものには、光、計画的な昼寝を含めた睡眠、おやつ、カフェインなどがある。また、ハイテク機器やより安全性の高い医薬品といった最近の科学的イノベーションも、時差ボケ対策に役立つ。

以下では、専門家が提案する、新たな時間帯にすぐ慣れるための方法を紹介していく。

まずは機内で光を完全に遮断

深夜便を利用したときに有効な時差ボケ対策のひとつに、飛行機内で睡眠をとるために、光を完全に遮断するというものがある。目的地の時間帯が出発地より数時間早い場合は、まずサングラスを掛けて眠る準備をしておき、その後アイマスクをつけて眠ろう。脳が暗闇を感知すると、体内時計を調整するホルモンであるメラトニンが分泌され、眠りを誘うのだ。

時差ボケも気から? 快適さは意外と大事

2021年4月にドイツの研究者が査読前論文を投稿するサーバー「bioRxiv」に発表した研究では、時差ボケを心配していると時差ボケが悪化することがわかった。そのため、もし特定のルーティーンやアイテムを使えば眠りやすいなら、実際に効くかもしれない。

機内をより快適で静かに過ごせるように、できる限りの方法を用いよう。「基本的に、眠りに落ちるほど快適になる方法なら何でも、非常に強いプラセボ(偽薬)効果が期待できます」と、米スタンフォード大学睡眠・概日リズム科学センターの共同センター長であるジェイミー・M・ザイツァー氏は言う。

従来のC型枕や、最新の「Trtl」や「オーストリッチピロー」といった首や頭を覆うタイプの枕は、パッド入りのネックスカーフに似ており、360度全方位で頭を支えてくれる。また、長時間のフライトで足や背中にかかる負担を軽減するために作られたフットハンモック(前の座席の下に引っ掛けて使用する)も試してみる価値がある。

あとは、ノイズキャンセリングヘッドホンや耳栓を使い、眠れる環境を作ろう。シリコーン製の耳栓は、耳の穴を完全にふさぐようにぴったりと装着できるため、従来の発泡ウレタン製より快適だ。

睡眠薬は注意して使おう

メラトニンを薬で服用することも、飛行機内や到着先で眠るのに役立つ。米国ではメラトニンのサプリメントが市販されているが(編注:日本では販売されていない)、専門家は服用前に医療従事者に相談するよう勧めている。

フライト中に眠るため、あるいは到着後の不眠症を解消するために薬を用いることに関しては、専門家の間でも意見が分かれている。薬には、市販の睡眠改善薬(多くは抗ヒスタミン薬)と処方せんが必要な睡眠薬がある。

どちらのタイプの薬も精神の不調や意識がもうろうとした状態を引き起こすリスクがある。旅行中にはやりがちだが、特に使用上の注意に反してアルコール飲料と一緒に服用してしまうとリスクが高くなる。ゾルピデム(マイスリー)などの「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」は、常用すると依存になる可能性がある。「ですが、処方せん通りに服用すれば(ゾルピデムが)悪いとは思いません」とザイツァー氏は言う。「不安で眠れなくなり、旅行が台無しになることの方が最悪です」

新しいタイプの不眠症治療薬であるベルソムラやデエビゴといった「デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)」は、特に夕方に覚醒状態を維持するのを助ける脳内のオレキシン受容体を阻害する。鎮静剤とは異なり、DORAは強制的に意識を失わせることはなく、依存性もないと考えられているため、研究者はDORAがもたらす睡眠は通常の睡眠により近いと考えている。

日中に到着し、カフェインをとる

日光を浴びると体内時計が整えられるため、なるべく日中に到着する便を予約しよう。「そうすることで、より早く活発に動き出すことができます」と、ルクセンブルク在住の睡眠コーチであるクリスティン・ハンセン氏は言う。

到着するのが朝から昼過ぎまでなら、カフェインをとることで体を慣らすとよい。また、目的地の標準的な時刻に食事をとることもよい(フランスのパリに着いたらカフェに直行し、コーヒーとクロワッサンを買うべき理由がまた一つ増えた)。

事前に準備をしておく

旅行の数日前から、就寝時間、日光を浴びる量、カフェインの摂取量を調整することで、時差ボケを最小限に抑えることができる。スマートフォンのアプリ「Timeshifter」や「StopJetLag」は、利用者に合った旅行前のスケジュールを作成し、フライトに最適な時間についてアドバイスをくれる。

2023年初頭には、旅行者が新たな時間帯に「事前適応」するための新しいツールが発売される。「Lumos Smart Sleep Mask」は、ザイツァー氏の研究を基に開発されたアイマスクで、睡眠中に低強度の光を照射する。フライトの前夜と目的地での初日の夜にこのマスクを使用することで、体内時計を1日3~4時間早めることができるのだ(通常は1日1時間)。

文=JENNIFER BARGER/訳=杉元拓斗(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年12月23日公開)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

ナショナルジオグラフィックは1888年に創刊し、大自然の驚異や生き物の不思議、科学、世界各地の文化・歴史・遺跡まで1世紀以上ものあいだ、地球の素顔に迫ってきました。日本語版サイトから厳選した記事を掲載します。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません