ファミマ靴下をデザイン 心くすぐるファセッタズム
NIKKEI The STYLE

蛍光色あり。子供用あり。「ファミマソックス」が人気を集めている。コンビニエンスストアのファミリーマートが手掛ける靴下で、2021年3月に全国展開を始め、累計販売数は700万足を突破した。
なかでも目を引くのは、看板のデザインでおなじみのブルーとグリーンのラインがくるぶしあたりに入ったものだ。こんなにポップな色だったのかと改めて気づいた人も多いのでは。靴下を含め、ファミマの衣料品「コンビニエンスウェア」を共同開発するのは、日本発のファッションブランド「FACETASM(ファセッタズム)」のデザイナー、落合宏理(ひろみち)さんだ。「シンボリックなものを作りたい」と、最初にこのライン入りの靴下からデザインしたという。

コンビニでおにぎりやコーヒーを買うのは当たり前のことだが、当時はここまで生活の中に溶け込むと考えられていなかった。洋服もそんなアイテムにしたいとファミマから声がかかった。「店の棚の前を通るとパワーをもらえたり、季節が変わったのだなと感じたりしてもらいたい」と落合さん。店頭に並ぶカラフルな靴下は気持ちを明るくし、「わかくさ」「からし」といった靴下の色のネーミングさえ心くすぐる。
ファセッタズムは、ダイヤモンドなどの宝石をカットした切子面や物事の側面を表す「ファセット」の造語だ。物事は正面の姿がすべてではなく、横から、後ろから見るとまた違って見える。「様々な顔という意味でつけた。自分たちが見る視点、ほかにはない角度で捉えて、新しい価値を生みたい」
見慣れた看板のデザインながら、まるでポップアートのように見えるファミマの靴下もそのひとつだろう。

ファセッタズムの代名詞ともいえるデザインのひとつに、過剰なほどに洋服を組み合わせて着用するレイヤードスタイルがある。最初から何枚も重ねたようになっていたり、いくつも重ねて着ることで見え方ががらりと変わったり。定番のジップシリーズのトップスは、背中から前身ごろにかけてジッパーが施され、1着を2つのパーツに切り離すことができる。ジッパー部分を開閉してインナーとの重ね着の組み合わせを楽しんだり、切り離して同様のデザインの別のアイテムと組み合わせることも。シャツやスエット、ジャケットなどを、好きなようにドッキングできるというアイデアあふれる服だ。
落合さんは文化服装学院を卒業後、テキスタイル会社を経て、07年にファセッタズムをスタートした。15年にジョルジオ・アルマーニに招かれ、ミラノコレクションで発表。16年、若手デザイナーの登竜門とされるLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン主宰のコンテスト「LVMHプライズ」で、日本人初のファイナリストに選ばれた。同年からパリコレクションで発表している。
順風満帆に映るが、悔しい思いもした。16年、リオデジャネイロ五輪・パラリンピックの閉会式のセレモニーで衣装を担当するが、盛り上がった式典とは裏腹に「衣装チームの名前は話題にならなかった。ファッションデザイナーとしての視点や価値観を、もっと表に出していかなければと使命感も生まれた」という。数々のグローバルブランドとのコラボレーションを手がけたり、今回のコンビニエンスウェアに参画したのも、そんな思いがあったからだ。
東京で生まれ育ち、中学生のころにはすでに洋服が好きだった。90年代、ストリートファッションが勃興した裏原宿に足しげく通った。一方で、新しい波として注目された海外デザイナーの気鋭なファッションにも引かれ、都内のセレクトショップも巡った。特定のブランドが好きというよりも、洋服全般や取り巻くカルチャーが好きだったという。
ほかと違うものにも心引かれる。記憶のひとつに、ラルフローレンの網縄のベルトがある。当時、ピクニック用の商品に、スプーンやフォークをまとめるベルトがあったという。「それをブレスレットとして売っているお店があった。ほかにないアイデア、そういうのが好きだったんです」

6月、パリコレクションで発表した23年春夏のコレクションのテーマは「LEAVE NOW」。「ポジティブに一歩進みたい」。そんなメッセージを込めた。森の写真をコラージュし、やわらかな素材にプリントしたジャケットやトップスは軽やかだ。レディースのドレスは、折り畳むとコンパクトになり持ち運びしやすいパッカブル仕様で、いつでもどこにでもドレスを携帯できる。スケーターやヒップホップといったストリートの雰囲気がある一方、シルエットなどにハイブランドの要素もあり、「ジャンル分けしがたい。そんな独自性が魅力で、10代後半から40代まで幅広いファンがいる」。セレクトショップの「STUDIOUS(ステュディオス)」のメンズバイヤー、阿部桂秋さんは話す。
ブランド創業から今年で15周年となる。「初期衝動を忘れたくない」。落合さんはこう話す。技術や経験は蓄積されても、20代でファセッタズムを始めたときの「どんなハードルも全部越えちゃうくらいの強い気持ち。それに勝るものはない」。いつもそのときの自分に立ち返っている。
井土聡子
山田麻那美撮影
[NIKKEI The STYLE 2022年8月28日付]
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