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中国が石炭依存をやめるには 地球温暖化、大きく左右

ナショナルジオグラフィック

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中国北部の山西省は、世界の石炭消費の半分を占める中国最大の石炭産地だ。すでに炭鉱が掘られている場所は地表の8分の1に及ぶ。しかし今、山西省の景色が変わり始めている。

5年前に、パンダの姿を模した約100ヘクタールのソーラー発電所が操業を始めて以来、炭鉱の中心地である大同周辺の山々は、ソーラーパネルで覆われるようになった。山西省の太陽光発電能力はこれまでに年間で63%、風力発電能力は24%増加している。

この驚くべき変化には、山西省に近年課された役割が関係している。中国はこの石炭の一大産地に、クリーンエネルギー移行のモデルになってもらおうと考えているのだ。同省では、クリーンエネルギー源、特に水素を燃料に使うインフラを構築するほか、工場や発電所の改修、化石燃料に携わる労働者の再教育などの大規模な試験が行われる予定だ。

どうしたら石炭への依存をやめられるのか。中国は自らその方法を見つけ出すことになっている。

習近平国家主席は2021年、中国の石炭使用量を2025年までにピークアウトさせると発表した。しかし今のところ、段階的な使用停止に向けた国家としてのロードマップは示されていない。それでも、石炭の使用をやめなければ、パリ協定に基づいて2030年までに炭素総排出量を下降に転じさせ、2060年までに「カーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)」を達成するという公約を果たすことは不可能だ。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が4月初めに発表した気候変動の緩和策に関する最新の第6次評価報告書には、気温上昇を産業革命前から1.5℃に抑えるには、2050年までに石炭使用を完全に廃止しなければならないとある。

したがって、山西省で現在進められている試験プロジェクトの成功は、中国と世界にとって大きな意味を持っている。だが、プレッシャーにさらされている地元の役人たちが小声でうわさするところによれば、中央政府は山西省が気候目標の達成に向けて前進することを期待する一方で、管理も資金もほとんど提供していないという。

再生可能エネルギーの普及を進めながらも、中国はどうやら、排出量削減の公約を果たす投資には、まだ本腰を入れていないようだ。

「山西省は国内でも特に炭素依存度が高い地域であり、その二酸化炭素排出量は近年、中国各省の中で最も増えています。ですから、山西省がほかの省の模範になるというのは、わたしには現実的だとは思えません」と、非営利の研究組織「エネルギー・クリーンエアー研究センター」のラウリ・ミリビルタ氏は言う。

されど石炭は強し

過去40年の間に、中国は石炭火力発電をベースとして、世界最大の産業部門と輸出経済を築き上げてきた。

同国はここ数年で再生可能エネルギーへの世界最大の投資国にもなったが、風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーが国内発電量に占める割合は累計で28%に過ぎず、総エネルギー消費量に占める割合にしたらそれよりもはるかに小さい。石炭は今も大きなシェアを誇っており、電力量と総エネルギー量の60%を生み出している。

2021年、中国ではコロナ禍によるロックダウン後の経済回復に伴い、石炭の燃焼量が4.6%増加した。夏の猛暑と炭鉱地域の洪水は、エネルギーシステムに予想外の負担となり、秋には全国的に停電が発生した。

その対策として、北京は石炭の増産を命じた。山西省ではそのせいで、「エネルギー革命」を進めながらも、以前より多くの石炭を掘らなければならなくなった。

北京の指導者たちには、自国のエネルギー安全保障や経済成長を危険にさらすつもりはない。気候変動への取り組みは重要ではあっても、優先順位の最上位にあるわけではないのだ。

「成長こそが主眼であり、脱炭素化は二の次です」と、グリーンピース・東アジアで気候・エネルギー政策の上級顧問を務める李碩氏は言う。

一方で脱炭素化は、重工業や社会資本への依存を減らし、代わりにサービスや消費を経済の基盤に据えるという中国の長期的な計画と合致している。経済による環境の汚染度を示す重要な指標である「エネルギー強度(単位GDPあたりの1次エネルギー)」は、2010年代半ばから下がり始めている。

しかし、気候の専門家が懸念しているのは、その数値が今も世界平均の約3倍にあたること、そして2017年以降は、国が経済を押し上げるためにインフラ建設と輸出増加に回帰したことから、減少の速度が緩やかになっている点だ。

「結局のところ、国がどの程度まで、どれだけ速く、エネルギー多消費型・産業集約型でない経済へ移行できるのかにかかっています」と李氏は言う。「つまりは、どれだけ早く別の分野で雇用を創出できるかということです」

掘りたい炭鉱労働者たち

中国の炭鉱が栄えてきた地域では、人々が三世代にわたって炭鉱で生計を立ててきた場所も少なくない。山西省の2018年の税収は、46%が石炭関連産業に由来し、また大同市では、10人に1人以上が炭鉱で働いている。市内の炭鉱労働者が暮らす地区では、石炭のない未来など想像するのも難しいほどだ。

炭鉱で働く人々は、過酷な仕事に従事していることを誇りに思っている。現場で石炭を掘っている人は、見ればすぐにわかると彼らは言う。シフトが終わったときには、歯以外はすべて真っ黒になっているからだ。

炭鉱労働者たちは口々に、自分たちの暮らしがいかによくなったかを話してくれる。安全基準が改善され、また小規模な民間鉱山が閉鎖されたり、国営の巨大鉱山に統合されたりした結果、炭鉱での事故は以前よりも減った。

「坑道に入っていくところから労働環境まで、すべてが改善されています」と、ある労働者は言う。大同第2鉱山で働いて20年になる彼は、このまま定年まで勤め上げるつもりだという。

石炭部門における中国全体の雇用は、2013年から2019年にかけて46%減少しており、石炭使用量のピークアウト期限である2025年以降は、さらに解雇される人が増えると予想される。山西省は、労働者をどのようにほかの産業へ移行させるのかについて、まだ具体的な計画を示しておらず、大規模な再教育も始まっていない。

「グリーン」とは限らない水素

石炭から再生可能エネルギーへの移行を成し遂げるうえで、山西省と中国が期待をかけている重要な戦略が、水素への大規模投資だ。公式の計画によると、山西省は今後、水素の製造から貯蔵、輸送、燃焼までの完全な産業チェーンを開発する予定だという。

世界的には、水素はまだ普及が始まったばかりであり、その是非には多くの議論がある。燃焼させても排出するのは水だけで、二酸化炭素を出さないという点ではクリーンではあるものの、水素の製造方法は通常、クリーンでもなければ、炭素フリーでもない。

再生可能な電力で水分子を分解することで製造する「グリーン水素」はまだ環境への負担が小さいが、中国などでは、水素の大半はいまだに化石燃料から取り出されている。世界が環境負荷の低いエネルギーに移行する中、水素燃料を推進しているのは、エネルギー業界とのつながりを保つ手段を模索する化石燃料企業である場合が多いと、中国経済を専門とするシンクタンク「トリビアム・チャイナ」のコリー・コムズ氏は言う。

山西省は、本質的にはこれをやっている。つまり、石炭から水素を作ろうとしているのだ。大同市は、少なくとも3つの水素製造プラント、数十カ所の水素燃料スタンド、最大5つの水素発電所の建設に向けて、準備を進めている。

石炭を気化させて作った水素を燃やすのは、石炭を直接燃やして発電するよりもエネルギー効率が悪く、また煙突で炭素を回収しない限り汚染の原因にもなる。しかし中国政府関係者はこのプロセスについて、地方政府が再生可能エネルギーを拡大し、最終的に炭素フリーの水素に移行するまでの間、石炭を使用し、石炭産業を支えるための中間的な段階だと説明している。

中国上層部は3月、2025年までに最大年間20万トンのグリーン水素を製造し、水素燃料自動車の保有台数を5万台とする目標を掲げた。だが、この数字は、2021年に2600万台以上の車が販売された中国市場のごく一部に過ぎない。

脱炭素化に必要なのは……

中国は、脱炭素化の世界的な公約を達成できるのだろうか。習国家主席がじきじきに発表した、政治的に妥協が許されないものだからという理由から、大方の予想は肯定的だ。

中国が気候目標に向けてより速く前進するうえで助けとなるのは、再生可能エネルギー開発と産業のアップグレードへの資金注入だろう。山西省エネルギー研究協会が、エネルギーに焦点を当てた中国各地の試験プロジェクトから収集したデータによると、2030年までに炭素排出量をピークアウトさせるためには、全国で年間3兆1000億〜3兆6000億元(約62兆〜72兆円)の資本が必要になる。現在割り当てられている資本は、年間わずか5260億元(10兆円)ほどと、必要な金額の5分の1以下だという。

2060年までにカーボンニュートラルを達成するには、中国はクリーン発電、先進的なエネルギー貯蔵、ゼロカーボン建築などの分野に、139兆元(約2800兆円)を投資する必要がある。

再生可能エネルギーは、中国で今後も拡大していくだろう。なぜなら、電力部門の大手国有企業には、再生可能エネルギー発電の強制的な割り当てがあるからだ。

しかし、投資の差額を補う国家的な計画は存在せず、山西省でいくら実験を重ねようとも、その埋め合わせにはならない。中国はさまざまな政策や地方・地域の実験を通じてクリーンエネルギー源への移行を進めてはいるが、気候変動に関する公約を達成できるかどうかは結局のところ、投入される資金の量で決まるのかもしれない。

文=SIMINA MISTREANU/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年4月21日公開)

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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