「メタバースは僕らの欲望や希望」 細田守監督が語る - 日本経済新聞
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「メタバースは僕らの欲望や希望」 細田守監督が語る

アニメーション映画でネットと人との関わりを描いてきた細田守監督が、ネット上の巨大仮想空間「メタバース」を語った。新型コロナウイルスの影響でテレワークやオンラインイベントなど、ネットを使った生活スタイルが日常化する中で、自分の分身であるアバターを自由に動かし、実際に働いたり買い物したりできるメタバースがにわかに注目されている。細田監督は「ネットは道具からもう1つの世界になった」と言う。

「劇場版デジモンアドベンチャー」(1999年)、「サマーウォーズ」(2009年)、「竜とそばかすの姫」(21年)と、細田監督は定期的にネットの世界を描いてきた。「メタバースという言葉も知らずに、20年前から仮想空間と人々の意識の変化をアニメにしてきた者としては、メタバースは急に注目されたものではなく、ずっと僕らが求めてきた欲望や希望、需要だと思う」と話す。

そのうえでメタバースのビジュアル面での進化を期待する。「どうせやるならもっとワクワクさせなきゃダメだと思う。人を引きつける魅力を開拓できれば、覇権を握ることができるかもしれない」。一方で「メタバースが世の中にどんな利点をもたらし、社会の課題を解決できるのか。それが明示されておらず、意義が後回しになっているのが気になる」とも。

ネットの変化は加速しているが「アニメで描くうえで大事なのは技術的な変化よりも、悩みや問題を抱えた若い主人公が新しい技術、世界と触れあうことで、それらをどう解決するかということだ」と考えている。「竜とそばかすの姫」では地方のうつむきがちな少女が、50億人が集う巨大仮想空間で歌姫として注目され、彼女は現実の世界でも他人を助ける勇気を持つようになる。家では堂々としている監督の娘が幼稚園では引っ込み思案で、その二面性に着想を得た物語という。

「個人の能力がテクノロジーによってどれだけ拡張するのか、などに興味がある。その根底には子どもや若い人たちが新しい技術を使って、しがらみでがんじがらめになった世界を覆してほしいという願いがある。アニメは子どものためにつくるもので、この仕事に就いているからこそ子どもに期待している」

「竜とそばかすの姫」ではネットで知った英国の建築家をデザイナーに抜てきした。「ふつうは過去の実績を重視したり有名デザイナーを探したりするが、ネットのビジュアルだけを見て『すごくいい』と思った。この映画は人種や年齢、性別などあらゆるバイアス(思い込み)を抜きにした仮想空間を想定して描いたが、メタバースの時代はそうしたバイアスから自由になり、一種の平等のような世界がやってくると思えてくる」

作品の中で描く技術が、時間を経ても古びないようにするには作り手の「美意識が必要」と強調する。「時代の風雪に耐え残っている芸術は、普遍性を獲得するような美意識があると思う。デジタルの世界はビジュアルを含めて古くなりがちだが、しっかりつくられた美しさは普遍的なものになるだろう」と語った。

(関原のり子)

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