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妊娠中の飲酒が子どもの脳に与える影響 研究進む

ナショナルジオグラフィック

妊娠中の母親の飲酒は、胎児の発達や行動を阻害することがあり、「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)」と呼ばれる。米国では人口の1~5%がFASDを患っている可能性があると推定されているが、実際はもっと多いだろうと考える専門家もいる。

FASDがある人は、日常生活に困難を覚えるだけでなく、犯罪の加害者や被害者になるリスクも高くなる。米コンコーディア大学セントポール校の研究者で行動保健学と刑事司法を専門とするジェロッド・ブラウン氏は、コミュニケーションがとれなかったり、強要されて虚偽の自白をしたり、保護観察官の決めたスケジュールを守れないといった話を「何度も何度も」耳にしてきたと話す。

FASDがある人のうち刑務所に収監される割合がどれくらいかはわからないが、いくつかの小規模な研究によると、受刑者の10~36%がFASDの可能性がある。

妊娠中の飲酒が与える影響

数十年前、妊娠中の飲酒は安全だと考えられていた。しかし1973年11月3日付で医学誌「The Lancet」に掲載された論文で、重度のアルコール使用障害がある母親から生まれた子どもの顔に共通する特徴がみられることが指摘された。例えば、鼻の下と上唇の間にあるはずのくぼみがない、頭が小さい、鼻梁が低いといった外的特徴で、多くの場合、論理的思考が苦手なことや、学習障害、発達不全、心臓や腎臓の問題など、生涯にわたる様々な精神的・肉体的困難を伴っている。

また、顔貌に違いが見られなくても妊娠中の飲酒は胎児の脳や体の発達を阻害することも知られるようになった。診断には複雑な検査と治療を要するが、支援が限られ、認知度も低いため、多くの人が診断を受けていないという現状がある。

今では、免疫調節障害から注意欠陥障害まで様々な症状がFASDに関連付けられている。そして、患者によってその症状の出方は大きく異なる。

脳に与える影響

また、脳への影響に関して、しばしばFASDに共通してみられる解剖学的特徴がいくつかある。

米ミネソタ大学の神経行動発達研究者であるジェフリー・ウォズニアック氏によると、まず第一に、FASDの脳は全体的に小さいという。「ほぼすべての研究で、これは一貫して見られる特徴です」

また、脳梁が十分に発達しないため、様々な能力に影響が出る。脳梁とは、脳の前部から後部へと伸びる神経細胞の太い束で、脳の左半球と右半球をつなぐ役割を持つ。「両半球間を取り持つあらゆるものを調節しています」

FASDの子どもや成人は、情報処理に時間がかかることが多い。2011年、ウォズニアック氏の研究チームは、脳スキャンをもとに両半球間の神経活動を調べ、FASDがあるとその活動がうまく連係されていないことを示した。そのため、視覚と手の連係、言語学習能力、実行機能に障害が生じているという。この研究は、2011年2月8日付の学術誌「Alcoholism: Clinical and Experimental Research」に発表された。

FASDは、記憶力にも影響を与える。この障害と関連付けられなくても、教師が記憶力の問題に気づくことは多い。

FASDの子どもの場合、脳の奥深くにあって記憶をつかさどる海馬の細胞が小さく、雑然としている。「胎児のときにアルコールにさらされることでこの領域に及ぼされる影響は、かなり深刻です」と、ウォズニアック氏は指摘する。

前頭葉の異常もよくあることだと、米エモリー大学の研究者ジュリー・ケーブル氏は指摘する。「前頭葉は、計画を立てたり、物事を整理したり、論理的思考や判断力に関係する場所です」。ケーブル氏のチームは、子宮内でアルコールにさらされると、酸素を含んだ血液を運ぶ血管や静脈のシステムが前頭葉の周辺で乱されることを、動物モデルを使って示した。この研究は、2020年1月8日付の学術誌「Developmental Neuropsychology」で発表された。

つまり、FASDの脳では「道が何度も枝分かれしているため、この領域へ酸素を円滑に運ぶことができずに、混乱したまま酸素が供給されることになります」という。その一つの結果として考えられるのは、欲求不満に対処する脳の領域への酸素供給が困難になることだ。

難しい診断

FASDの脳について様々な特徴がわかってきているにもかかわらず、個人差が大きいため、脳スキャンで診断するのは難しいと、医師たちは言う。FASDだと気づかれないまま過ごしている人の方が、診断された人の数よりも多いと思われる。

コンコーディア大学のブラウン氏は、2000年代初期にミネソタ州セントポールの成人カウンセリングセンターに勤務していた頃、信じられないほど数多くの診断を付けられた患者を診察することがよくあった。「新しい医者に行くたびに新しい診断を付けられているようでした」。そのうちに、こうした患者にある傾向がみられることに気づいた。多くの患者が、自分を出産した母親が妊娠中にアルコールや薬物を摂取していた可能性があると考えていたのだ。

長年の間、医師は妊婦やその家族に対して、飲酒に関して質問することを避けてきた。「もし妊婦が飲酒していると答えても、どう対応していいかわからないため、聞くのが怖いのだと思います」と、米マウント・ホープ・ファミリー・センターでFASD専門医として勤務するクリスティー・ペトレンコ氏は言う。

しかし2000年代前半頃から、FASD患者に対する標的を絞った治療法が効果的である可能性が、様々な研究で示されるようになった。2007年8月31日付で「Alcoholism: Clinical and Experimental Research」に発表された論文で、ケーブル氏は米疾病対策センター(CDC)と協力して、FASDに適応した支援を行えば数学の学習と理解を助けることができることを示した。しっかりとした作業記憶を必要とする数学は、FASDがある人にとっては難易度が高いが、数直線を横ではなく縦にするだけでも理解しやすくなるという。

「ごく単純なことですが、数を足す場合は線を上に移動し、数を引く場合は下に移動すればいいのです」と、ケーブル氏は言う。また、短期記憶障害を軽減するために、数を数え、記録を付けるためのツールも提供している。

「できるだけ早いうちにFASDを発見し、治療や支援を与えれば、その子どもの未来を大きく変えることができるでしょう。FASDを持って生まれてきてもまだできることがあると認識することはとても重要です」と、ケーブル氏は話す。

文=EMMA YASINSKI/訳=ルーバー荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年7月21日公開)

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