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画家・志村節子さん すべては絵画に通ず

こころの玉手箱

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しむら・せつこ 1941年、東京都生まれ。画家。慶応大学卒業後、東京芸術大学へ。同大大学院修了。72~75年に仏政府給費生として渡仏。パリ、エコール・デ・ボザールなどで学ぶ。

愛猫を描いた絵

人生で1度だけ猫を飼ったことがある。1980年の終わりごろから、約20年間も生きた。病院のお世話になったのは1度だけ。丈夫だったのは、おそらく生まれた環境によるところが大きかったのだと思う。

自宅にいると、どこからか「にゃあ、にゃあ」と鳴き声が聞こえる。最初は気のせいかと思ったが、確かに聞こえる。そのまま1週間鳴きっぱなしだった。

お隣の人が物置かどこかにネコを閉じ込めているのではないか。勢い込んで「ネコが鳴いてますよ!」と言いに行くと、ムッとした顔で「まるで心当たりがない」と言う。おわびして帰宅したが、鳴き声は続いている。改めて場所を探し回っていると、アトリエの下が出どころのようだった。

救出作戦が始まった。ハンガーを丸め、洗濯につかうネットを縫い付け、竹ざおをくくり付け簡易網の出来上がり。それを持った夫が軒下に潜り込み、網を振ると鼻を真っ赤にした小さな雌の子猫が入っていた。

私は幼いころから動物が好きだ。飼う機会がなかったのは、母と2人の兄が大の動物嫌いだったからだ。友達が子猫をくれたことがあったが、帰宅してみるといない。母に聞くと「お豆腐屋さんがほしというからあげた」という。同じく動物好きの父は、飼うのを諦め、野良猫を書斎に出入りさせてまぎらわせていた。

人生初のペットの名前は「トンベ」に決まった。軒下に落ちていたので、仏語で「落ちる」を意味する単語からとった。気にいっていたが、訪ねてきた兄が「スペイン語で『トント』はバカの意味だよ。なんでそんな名前を付けたの」と言われたのには閉口した。

トンベは猫らしく気まぐれでちっとも懐かなかった。お客さんが来ても、警戒して姿も見せない。かと思えば、手を洗うため蛇口をひねると飛んできて、水をペロペロとなめる。万事そんな調子だった。

友人からは「ペットじゃないね」と笑われたが、かわいいところもあった。入浴すると、必ずやってきて脱衣所で待っている。それがうれしく、友人に話してみると「それはただ暖かいから寄ってるだけでしょ」と言われ、がっかりした。

絵は5~6歳ごろのトンベを描いたものだ。譲ってほしいという人も多かったが、手元に残してある。同じものは2度と描けない。猫は死ぬところを見せないと言うが、トンベもそうで、カーテンの内側でひっそりと亡くなっていた。彼女がいなくなった部屋は妙にひっそりとしていて、家にいるのがつらかった。以来、動物は飼っていない。...

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