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中央線快速、2階建てグリーン車導入へ その理由と背景

鉄道の達人 鉄道ジャーナリスト 梅原淳

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東京駅と山梨県の大月駅との間を結ぶJR東日本の中央線快速は首都圏を代表する通勤路線だ。その中央線快速、そして直通運転している青梅線の立川―青梅間を走る電車には2025年ごろからグリーン車が新たに連結される。現在は通勤用に特化した車両ばかりが10両連結で走っているが、着席前提のグリーン車が2両新たに加わり、12両での運行を始めるという。

グリーン車の一部は完成し、テスト走行の真っ最中だ。車両は上下2層となった2階建てで、車端部は一般的な車両と同じ平屋となっている。

車内の様子は不明だ。しかしJR東日本が営業する首都圏の通勤路線では東海道線や横須賀線・総武線快速、東北線(宇都宮線)、高崎線、常磐線、湘南新宿ライン、上野東京ラインで2階建てのグリーン車が走り回っている。ほぼ同様のつくりと考えてよいだろう。

背景に激しい混雑

新たにグリーン車を連結するのは混雑が年中激しく、シートに座れない人があまりに多いからだ。通勤用に特化した車両を増やしても座席数は2両で最大108人分しか増えない。グリーン車ならば2両で180人分の座席が用意できる。利用者にもグリーン券を購入してでも座っていきたいというニーズが高いとみて導入するのだ。

16年度調査によると、中央線快速で最も混み合う区間だった中野駅から新宿駅までの東京駅行き方面の列車では混雑率が朝のラッシュ時に187%、終日でも83%だった。電車10両の定員は中間に運転室付きの車両を連結していないもので1564人。終日の混雑率83%は1298人の乗車を意味する。一方で電車10両の座席は513人分しかない。つまり1列車平均785人が立っている。昼間でも座れない利用者が多いのだ。2両で180人座れるグリーン車を連結し、立っている785人のうち180人がグリーン券を購入してくれれば、立つ人の数は605人に減る。

2階建て車両で定員は1.4倍に

かつてJR東日本の首都圏通勤路線ではすべて平屋のグリーン車も走っていて、定員は64人だった。一方、2階建てのグリーン車の定員は90人だ。2倍とはいかないまでも、すべて平屋のグリーン車と比べて乗車可能な利用者数は1両当たり1.4倍に増えている。

グリーン車の定員を増やしたのは少しでも増収を目指すJR東日本の涙ぐましい努力といってもよいだろう。ただラッシュ時を中心に少しでも快適に過ごしたいという利用客のニーズに応え、提供する座席数を増やしたという事情の方が大きいかもしれない。

国鉄時代の苦い経験

首都圏の通勤路線で使用されるグリーン車の定員に関して、JR東日本の前身となる国鉄は苦い経験を重ねている。ときは1973年、国鉄は横須賀線に定員48人の新グリーン車を導入した。それまでのグリーン車の定員は60人または64人と、特急用車両の普通車に準じたシートが並んでいた。新たなグリーン車の定員が少ないのは特急用のグリーン車と同じシートを採用し、前後の間隔を広げたからだ。

このころの国鉄は横須賀線と総武線快速とを直通させようと計画を立て、80年10月1日に実現している。その暁には横須賀線の電車は成田線にも乗り入れ、成田空港への空港アクセス列車としても使う構想だった。結果、従来よりもグレードの高いグリーン車が必要と考えられたのだ。

ところが横須賀線の朝のラッシュ時の混雑率は75年度で292%と大変激しかった。このような状況で定員48人のグリーン車を連結したところ、グリーン車の利用者から座れなくなったという苦情が殺到してしまう。慌てた国鉄は定員48人のグリーン車を横須賀線から引き揚げ、関西地区へと移した。代わりに特急用の普通車と同じ定員60人のグリーン車が新たにつくられて導入されている。

東海道線にも1989年に導入

首都圏の通勤路線に2階建てのグリーン車が走るようになったのは国鉄からJR東日本へと変わった後の89年3月のことだ。東京駅と大船駅との間で横須賀線の電車と並走する東海道線の電車に組み込まれ、次いで他の通勤路線にも広まっていく。

東海道線ではラッシュ時の混雑がひときわ激しく、85年には249%を記録していた。車両が15両連結されるなか、2両連結されるグリーン車も例外ではない。JR東日本によると混雑率は130%と、グリーン料金を徴収しづらい状況となっていた。

JR東日本は当初、グリーン車をもう1両増やして3両組み込むことを考える。しかし、日中の時間帯にグリーン車を利用する人は少なく、2両でも十分だった。それに16両で運転するならばともかく、代わりに普通車を1両減らすなど混雑率を考えても許されない。

そこでJR東日本は2階建て車両の導入を計画する。JR在来線では車両の高さは410センチメートルが限界で、車内の快適性が問題となった。そこで実物大の模型をつくったところ、2階、階下とも通路ならば床から天井まで185センチメートル以上確保できると判明した。平屋の車両の205センチメートルと比べれば低いものの、シートに座れれば問題ない。

乗り降りに要する時間は…

2階建て車両は定員が多いので、駅での乗り降りに時間を要すると懸念される。ただ車両の片側に2カ所設置された扉の1カ所に42人が乗り降りすると仮定してテストした結果、平屋のグリーン車は53秒、2階建てのグリーン車は52秒でそれぞれ完了したという。JR東日本は以降、首都圏の通勤路線にグリーン車を新たに製造して投入する際にはすべて2階建て車両とすることとした。

新型コロナウイルス禍もあって中央線快速の混雑は緩和され、2021年度は朝のラッシュ時でも混雑率は120%まで下がっている。今後、リモートワークの進展で以前ほどの混雑率には戻らないとの見方も多く、グリーン車を新たに連結する必要性は薄れたかもしれない。だが首都圏の通勤路線各線ではゆったりと座っていきたいとの需要が一層高まり、大手私鉄を中心に着席保証列車が次々に誕生した。中央線快速のグリーン車も利用者のニーズに応えて盛況となるのではないだろうか。

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
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