ナルニア国物語からハリー・ポッターまで 四大ファンタジーの想像力 - 日本経済新聞
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ナルニアからハリポタまで 四大ファンタジーの想像力

白百合女子大学教授・井辻朱美さん 「大人のためのファンタジー」まとめ読み

新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争など先行き不透明な情勢が続いています。魔法や幻獣が存在する別世界を描くファンタジーの想像力は、殺伐とした現代を生きる大人にどのような示唆を与えるのでしょうか。四大文学作品をもとに井辻朱美・白百合女子大学教授がひもときます。

(1)「ナルニア国物語」別世界へ続くファンタジーの金字塔


C・S・ルイス(1898〜1963年)の「ナルニア国物語」シリーズは、ファンタジー文学の金字塔の一つだ。英国に住む登場人物は第2次世界大戦中、疎開先の古い屋敷の「洋服だんす」を通じて、白い魔女に支配された不思議な世界ナルニアに入っていく。しかし物語のラストでナルニアは滅び、現実世界もまたすべてのおおもとの世界に回収されてしまう。ルイスは「帰ってこないファンタジー」の書き手として、別世界で冒険をして現実世界に戻ってくるというファンタジーの定石に疑問を投げかけた。…記事を読む

(2)「指輪物語」緻密な第二世界が生むファンタジー新潮流


J・R・R・トールキン(1892〜1973年)は、英国にファンタジーの新潮流を生み出した。二大名作「ホビット」「指輪物語」では、世界を支配する恐ろしい力を持つ「指輪」を巡って、動乱の一大絵巻が繰り広げられる。従来のファンタジーでは主人公の葛藤や成長が描かれたのに対し、トールキンは「世界」を別次元にまるごと創りあげ、来歴、地誌、言語などすべてを詳細に構築することに心血を注いだ。この堅固に建設された「第二世界」は、現実との境界線をできる限りすり消すことで、「本当だと心が感じる」レベルに到達した。…記事を読む

(3)「ゲド戦記」現代ファンタジーが見直す無意識の根源


英国の作家であるルイスとトールキンによって、ファンタジーは児童文学を脱して一般読者にも開かれていった。そこに米国のU・K・ル=グウィン(1929〜2018年)が参入し、彼らは三大ファンタジー作家と呼ばれるようになる。架空の世界アースシーを舞台に、主人公ゲドの一代記を描いた「ゲド戦記」で、ル=グウィンは「無意識」という新しい視点をファンタジーに持ち込んだ。真の物語は頭で作り出すものではなく、人類の古い集合意識からでてくるものと考え、「無意識」の根源的な力こそ、現代のファンタジーがテーマとして見直すべきものだと指摘した。…記事を読む

(4)「ハリー・ポッター」現実包み込むネオ・ファンタジー


J・K・ローリングの「ハリー・ポッター」シリーズは「ネオ・ファンタジー」とも呼ばれ、空前のファンタジーブームを巻き起こした。この物語は魔法学校行きの列車が実在の駅から発車するなど、リアルな現実をそっくり呑(の)み込んでいる体裁をとることで、異世界は現実と連続していると読者に感じさせる。さらに物語に登場する魔法は、実際の現実が持つ生死や身体といった「境界」を巧みに解除してしまう。現実を包摂するネオ・ファンタジーは、私たちの魂が求めているのがボーダーレスの「自由」であったと、大人にも思い出させてくれた。…記事を読む

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