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若手が「リスキリング迷子」 何を学ぶ…先輩の姿に焦り

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新たな仕事や役割に備えるリスキリング。中高年はもちろん、20〜30歳代の関心も高い。様々な学びに早くから取り組めば知識や技術は吸収しやすい。一方、何を学ぶべきか見極めきれず、悩みを抱える例も目立つ。キャリアの先行き不透明感が強く、戸惑う先輩を目にする機会も増え、若手が「学びの迷子」に陥りやすい状況が生まれている。

「このままでいいのだろうか」。東京都内の企業で営業職として働く会社員女性(29)は独学でプログラミングの勉強を始めた。友人がIT企業に転職するなど、30代を前に今後のキャリアを考える時期。リスキリングに関するニュースに触れ、早いうちに取り組まなければと感じたからだ。

書籍やオンライン講座で勉強を続けているが、繁忙期は学習時間を確保しにくい。「日々の仕事にすぐつながるわけでもない。どうすれば」。不安が募る。

何が必要か分からないという声

教育サービスのグロービス(東京・千代田)による2022年の調査では20〜34歳の社会人の6割近くが「必要な学びを実践できていない」と回答。時間のなさや金銭的な負担といった理由がやはり多いが、「必要な学びが分からない」という声も目立つ。

米国発のオンライン教育サービス「Udemy(ユーデミー)」には「何を学べばいいか」との問い合わせが日々多く寄せられる。日本の事業展開を担うベネッセコーポレーションの担当課長、中谷健太さんは「特に若手はキャリアの選択肢が多いために迷い、壁にぶつかりやすい」とみる。

勤め先の方針でユーデミーを利用するデンソーの技術職、加藤正純さん(26)は1年間で10講座ほど受けたが、途中でやめてしまったものもあると明かす。「業務で使えそうな内容を自己判断で選んできた。必要な講座の案内があれば助かる」と話す。

若手の学習意欲は高く

実際、若手の学習意欲は高い。学情(同・千代田)が20代を対象にした22年の調査ではリスキリングに前向きな回答が8割を超す。資格取得に力を入れる若手も目立ってきている。

デジタル化などを背景に働き方が変わってきたのも若手の行動を後押ししているようだ。リクルートワークス研究所の大嶋寧子主任研究員は「上の世代が発破をかけられているのをみて、危機感を抱く若手がいる。ただ具体的にどうすべきか分からず、混乱している状況に映る」と分析する。

大嶋さんは「リスキリングという言葉の使われ方も一因」と付け加える。もともと企業主導で新たな仕事や役割に移行するための学びを促す意味合いが強かったものの、現状は個人それぞれの自主的な努力や学習の重要性に主眼が置かれているとみる。キャリアを模索する若手の「今のうちに自分で学ばなければ」という焦りにつながっている。

職場が学びを手助け

一方で学びに迷わないように手助けする職場も出てきている。名古屋市の印刷会社、西川コミュニケーションズではデジタル技術を活用した事業への転換を意識し、情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)に関する資格の取得を全社で推奨している。社内にリスキリングチームを設置。年に数回、課題図書を配るなど若手も巻き込んで学び直しを支援する。

制作部の和田麗良さん(30)はチーム内でプログラミングを勉強中だ。「以前から関心はあったが、目的がないと学習が続かなかった。今は能動的に学んで業務に応用できている」と手応えを感じている。人事担当の神谷昌宏さんは「なぜ学ぶのか。会社の方針について知って納得してもらってこそ、必要なスキルがより見えてくるのではないか」と説明する。

学ぶ内容を自分だけで絞り込まない

長い目で見れば、20〜30代はまだキャリアの初期段階といえる。一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの後藤宗明代表理事は「仮に資格を取得したとしても、仕事に生かせなければリスキリングとは言い難い。自身のキャリア観がまだ定まらないうちに、自分だけで学ぶ内容を絞り込まない方がよい」と呼びかける。

学び直しの対象としてはデジタルスキルへの関心が高いが、「リーダーシップや他のビジネススキルが土台にあってこそ生きる面がある。与えられた役割をこなしたうえで、自分が進みたい方向を見極める必要がある」と説く。

周囲とつながり 学びを後押し


政府は個人のリスキリングへの支援として、5年間で1兆円を投じる方針を打ち出した。日本では人への投資が世界各国に比べて少ないといわれてきた。経済産業省によると、企業による投資は国内総生産(GDP)比で2010〜14年に0.1%。米国(2.08%)やフランス(1.78%)との差は大きい。

リクルートワークス研究所の大嶋さんはさらに「キャリアを考えるうえで、個人の選択や挑戦を支えてくれる周囲とのつながりが弱く、孤立しがちだ」と課題を指摘する。同研究所の調査ではキャリアの新たな挑戦を後押ししてくれるような周囲との人間関係を築けている割合は米国や中国などの3分の1程度だった。

「個人の学習に頼っては強い個しか生き残れない。若い人は特にキャリアの助けになるような人間関係づくりを意識してほしい」と強調する。

(堀部遥)

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