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難敵サソリやヤマアラシを攻略する捕食者たち

ナショナルジオグラフィック

米国南西部やメキシコに、毒をもつサソリを果敢に襲うヤモリがいる。

このヤモリ、バンドトカゲモドキ(Coleonyx variegatus)は、コオロギやミミズなど無防備な獲物を襲うときは、ただ捕まえてのみ込むだけだ。「退屈な光景です」と、米クロビス・コミュニティー・カレッジの生態学者マラカイ・ウィットフォード氏は言う。

しかし、サソリの仲間デューンスコーピオン(Smeringurus mesaensis)のように危険な獲物を狙う場合、全く別の戦略を取る。体をばねのように曲げてから、サソリに突進するのだ。そして、噛みつくと同時に、とりつかれたかのように暴れ出す。

「病気を抱えているのかと思うほどです。とても速く、激しい動きです」とウィットフォード氏は言う。

より詳しく調査するため、氏らは野生のバンドトカゲモドキとデューンスコーピオンを捕獲し、実験室で高速度カメラを使って攻撃の様子を撮影した。映像からは、サソリを激しく振り回す動きはサソリの針を折るため、または毒をあまり出させないようにするためであることが示唆された。あるいは、単にサソリを殺そうとしているのかもしれない。

いずれにせよ、バンドトカゲモドキは非常に危険な生物を食べるための行動を身につけたのだと、ウィットフォード氏は説明する。氏らの論文は2022年1月5日付けで学術誌「Biological Journal of the Linnean Society」に発表された。

これは、ほんの一例に過ぎない。以下では、獲物となる動物の強固な防御を様々な方法で突破する捕食者たちを紹介しよう。

スズメバチの巣に突進する鳥

気の弱い人には、サソリ1匹を相手にするのも無理な話だ。それなのに、毒針をもつ昆虫を何百匹、何千匹と相手にするとなったら、別次元である。

中南米の低地林に生息する鳥アカノドカラカラ(Ibycter americanus)は社会性の高い中型猛禽類で、スズメバチ科に属する様々なハチを集団で襲う。なかでもよく狙うのは、エピポニーニと呼ばれるハチのグループだ。

アカノドカラカラはまず、ハチの巣に交代で飛び込んでいく。巣はグレープフルーツ大からスイカより大きいものまである。刺されるリスクを負いながら巣を地面に落とすと、ハチの成虫が逃げ出す。そして、タンパク質豊富な幼虫を食べるのだ。

「アカノドカラカラは、ハチのいわゆる逃走反応を利用しています」とカナダ、バンクーバーの独立系研究者で、動物の行動を調査しているショーン・マッキャン氏は説明する。「かなわない敵を前にして、ハチが巣を放棄するということです」

攻撃が実に効果的であるため、アカノドカラカラはハチを撃退する化学物質をもっていると考えられてきた。しかし、マッキャン氏の研究によって、そうではないことが判明した。たとえ刺されても、ヒット・エンド・ラン方式で被害を最小限に抑えているようだ。論文は2013年12月に学術誌「PLoS One」に発表されている。

ヤマアラシを幻惑するイタチ

イタチの仲間であるフィッシャー(Pekania pennanti)がカナダヤマアラシ(Erethizon dorsatum)を狙うときは、ヤマアラシの周囲を回転しながら踊り、ときどき目や鼻に噛み付く。しばらくしてヤマアラシの目が回ったところで、フィッシャーはヤマアラシをひっくり返し、トゲのない柔らかな腹を引き裂く。

守りの堅い相手の体をひっくり返す戦略は、多くの動物が独自に進化させてきた。例えば、インド洋や太平洋に生息する魚、ゴマモンガラ(Balistoides viridescens)は、ウニをひっくり返して中身を食べる。ラッコ(Enhydra lutris)もウニを好んで食べるが、彼らの場合は石をたたきつけてウニを割る。

ハンドウイルカ(Tursiops truncatus)は頭脳と筋力を使い、マオリタコ(Macroctopus maorum)を捕食する。マオリタコはイルカの噴気孔をふさいで死なせたり、のどに引っかかって窒息させたりすることもある危険な相手だ。

そこで大事なのは、食べる前にタコを無力にするということだ。イルカはタコを水面にたたきつけたり、空中に放り投げたりする。これによってタコは激しく負傷し、触腕がちぎれることもある。

オサガメの食道はまるで武器

オサガメ(Dermochelys coriacea)が毒クラゲをのみ込もうとするときは、180センチメートルもある食道が役に立つと、米マサチューセッツ州にあるニューイングランド水族館のウミガメ専門家、カーラ・ドッジ氏は語る。特にキタユウレイクラゲ(Cyanea capillata)がお気に入りだという。

食道の表面は、とがった長い突起物で隅々まで覆われている。その硬い先端でクラゲをつぶしながら、胃まで引きずり込む。

「とげとげしたベルトコンベアのようなものです」とドッジ氏は言う。「これのおかげで、オサガメはひたすら食べ続けることができます。2時間で120匹以上のクラゲを食べているところを撮影したことがあります」

毒イモリを食べるガーターヘビや、ガラガラヘビを食べるオポッサム、バークスコーピオンを襲うバッタネズミは、毒への耐性をもっている。だが、オサガメがクラゲの毒に対して耐性をもっているかどうかは不明だ。

「毒を中和するメカニズムがあるのではないかとの説がありますが、誰も解明することができていません」とドッジ氏は言う。

毒ヘビを食べるヘビ

米南東部の針葉樹の森には、毒をもつヌママムシやガラガラヘビだけでなく、さらに恐ろしいヘビも生息している。

イースタンインディゴスネーク(Drymarchon couperi)だ。玉虫色に輝く大きな黒いうろこで覆われ、全長は約2.4メートルにもなる。げっ歯類、鳥類、カエル、カメなど様々な動物を食べるが、最も好むのは他のヘビだ。しかも、毒はなく、締め付けといった技も使わない。

「インディゴスネークはヘビの頭や首を狙い、のみ込める程度に大人しくなるまで噛み続けます」と、米ジョージア州に本拠を置く爬虫類・両生類保護団体、オリアン協会の科学ディレクター、ヒューストン・チャンドラー氏は語る。「インディゴスネークはとても大きいので、小さなヘビをいとも簡単に圧倒し、押したり引きずり回したりします」

最近の研究では、噛まれた場合に備え、毒に対する耐性をもっている可能性も示唆されている。

ここまで見てきた結論として、トゲや吸盤、毒といった防御手段では、無敵になることはできないということだ。スーパーマンにもクリプトナイト(架空の物質)という弱点があるように、進化は競争の公平さを保とうとするものなのである。

文=JASON BITTEL/訳=桜木敬子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年5月17日公開)

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