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「蒲蒲線」駅間800mつなぐ執念 線路幅は?編成は?

鉄道の達人 鉄道ジャーナリスト 梅原淳

東急電鉄東急多摩川線の矢口渡駅と京浜急行電鉄本線・空港線の京急蒲田駅の間の1.7キロメートルを結ぶ新空港線、通称蒲蒲(かまかま)線の計画が実現に向けて一歩踏み出した。東京都と地元の大田区が費用負担について合意し、2030年代の開業を目指す。

建設費は総額1360億円と見込まれ、その3分の1に当たる自治体負担分、約453億円分を都と大田区がどう分担するかがこれまでの懸案事項だった。今回の合意によると、都が3割、大田区は7割をそれぞれ負担するという。大田区は建設を担う第三セクターにも出資する方針で、支出額はさらに増えると考えられる。大田区が深く関わる「区営鉄道」という印象すら与える。

蒲田と京急蒲田との「分断」解消狙う

大田区がこれほど力を入れる理由は何だろう。JR東日本の京浜東北線の電車や東急電鉄池上線、東急多摩川線の電車が発着する蒲田駅と京急蒲田駅との間が800メートルほど離れていて、区の中心となる蒲田の街が分断されているからだ。両駅間は徒歩または路線バスでの移動を強いられ、便利とは言いがたい。

ここで新空港線についておさらいしておこう。

そもそもなぜ蒲田駅と京急蒲田駅との間ではなく、矢口渡駅と京急蒲田駅との間になるのか。矢口渡―蒲田間を建設せずにすめば建設コストは減らせただろう。ただ蒲田―京急蒲田間だけでは効率が悪いうえ、人家の密集した両駅間に車両基地を置く場所は確保しにくい。そうなると少なくともJR東日本か東急電鉄、京浜急行電鉄のいずれかの路線とつなぐ必要がある。

JR東日本の蒲田駅には敷地がなく、京浜東北線の列車は北行き、南行き合わせて平日1日に約500本と多いため、新空港線の列車が乗り入れるのは難しい。京浜急行電鉄も似たような状況だ。新空港線の列車を東急電鉄の蒲田駅に乗り入れさせようとすると、ほぼ直角に向き合う京浜東北線の線路を越えられないという問題が生じる。

けれども東急電鉄は新空港線の列車の乗り入れに前向きだという。この結果、地上にある東急多摩川線の矢口渡駅から地下に潜り、そのまま蒲田駅から京急蒲田駅へと至る計画となった。開業と同時に多摩川駅と蒲田駅との間を結ぶ東急多摩川線との直通運転が実現する可能性が高いと筆者はみている。

なぜ新空港線と呼ばれているかも事情を知らなければ不思議に感じられるだろう。本来は矢口渡駅と京浜急行電鉄空港線の大鳥居駅とを結ぶ構想だったために名付けられたのだ。大鳥居駅では新空港線の列車が空港線の線路を走り、羽田空港第1・第2ターミナル駅まで直通させる計画が立てられている。京急蒲田駅で空港線と乗り入れさせればと思いたくなるが、新空港線は地下、空港線は高架では線路をつなげられない。

旅客数や採算の見込みは

旅客数見込みや採算も気になるところだ。東京都、大田区共同での検証結果を紹介しよう。

新空港線のうち蒲田―京急蒲田間の利用者数は1日に約5万7000人と見込まれている。興味深いのは内訳で、羽田空港のアクセス手段として利用する人の数は全体の26パーセントの約1万5000人。残る4万2000人は蒲田駅か京急蒲田駅に用のある人、両駅からさらに乗り換えていく人と考えられている。

似たような距離の首都圏の路線で比べてみると、資料を基にした筆者の計算では東武鉄道大師線西新井―大師前間1.0キロメートルが15年度で1日約1万4000人、西武鉄道豊島線練馬―豊島園間1.0キロメートルが1日約1万3800人だ。蒲田という大きな街だけあって、新空港線の利用者数は比較的多い。

とはいえ蒲田―京急蒲田間の利用者数は過大に見積もられたのではと疑問を抱く人もいるだろう。これも筆者の計算では東急多摩川線の矢口渡―蒲田間の利用者数は15年度に1日約9万7000人に達する。新空港線で羽田空港方面に向かう人の利用がどの程度いるかがカギになるが、この数字だけみると、控えめな予想にもみえる。

採算について東京都、大田区は営業収入の何年分で建設費を償還できるかの数値(累積資金収支黒字転換年)を示した。新空港線は17年で、第三セクターが手がける事業の指針である40年以内をクリアしているという。

建設への課題 まず線路幅

新空港線についてここまで振り返ってきたが、今後建設に当たって解決すべき課題はまだ多い。最大の注目点は羽田空港へ乗り換えなしで到達できるかだ。大鳥居駅で京浜急行電鉄空港線の線路と新空港線の線路とをつなぐといっても、左右のレールの幅が異なっている。京急は1435ミリメートル、新空港線は東急多摩川線との相互直通運転を前提とすると1067ミリメートル。368ミリメートルも違う。

計画では車軸に装着した車輪の位置を動かせる車両「フリーゲージトレイン」を導入するとある。しかし日本ではまだ実用化されていないうえ、通勤電車のように1日に何十回も車輪の位置を動かして問題が出ない車両をすぐ製造できるとはとても思えない。

線路の造り替えでの対応は可能だ。1067ミリメートルか1435ミリメートルのどちらかにそろえるのはもちろん、東急多摩川線か京急の空港線にレールを3本敷いてそれぞれに対応した列車を走らせる方法もある。けれども造り替えには少なくとも数カ月は線路を使用停止としなくてはならない。15年度の1日の利用者数が約15万人の東急多摩川線、同じく約18万人の空港線で果たして列車を長期にわたって運休できるだろうか。難しそうだ。現実的な案は大鳥居駅での乗り換えとし、その際に空港線、新空港線双方の列車が同じホームに到着する方法だろう。

新空港線に乗り入れる東急多摩川線の列車を同じ東急電鉄の東横線に直通させる構想の存在も考慮する必要がある。直通で東横線のターミナルである渋谷駅から羽田空港へのアクセスはより容易になる。しかも東横線は東京メトロ副都心線と相互乗り入れしており、さらに東武鉄道東上線方面や西武鉄道有楽町線・池袋線方面にもそのまま直通していく。新空港線が都内有数の重要路線となるのは間違いない。

けれども仮に東横線からの直通列車を走らせるとすると、1本の列車に連結する車両の数を東横線に合わせて8両または10両にする必要がある。東急多摩川線は現在3両で運転されている。ホームを延ばすなど、大規模な改良工事は欠かせない。

やむを得ず東横線から乗り入れる列車は東急多摩川線の途中駅をすべて通過とする案も考えられる。しかし、利用者が増えて東横線の直通列車が多数を占めるようになると、通過列車ばかりを見送る東急多摩川線沿線の利用者は面白くない。

ともあれ蒲田駅と京急蒲田駅とを結びつける新空港線は利用者数の予測、採算性は悪くないと見込まれている。筆者個人としては今から開業が楽しみで、これから残る課題をどう解決していくのか注目していきたい。

梅原淳(うめはら・じゅん)

1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

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