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女性愛する母に娘が向き合う 台湾のドキュメンタリー

台湾のドキュメンタリー映画「日常対話」の場面(C)Hui-Chen Huang All Rights Reserved.

同性愛の母を持つ映画監督の娘が、カメラを介して母と向き合う。台湾映画「日常対話」は、壮絶な半生を送ってきた2人が初めて本音をぶつけ合い、それぞれの心の軌跡を追うドキュメンタリーだ。「映画を撮ろうと思ったのは20歳。実際にカメラを回すまでに18年かかった。最低限の会話しかしない関係だったが、カメラを入れることで勇気を持って母の本音を聞くことができた」と娘であるホアン・フイチェン監督(43)は語る。

母・アヌさんは台湾中部の農村に生まれ、同性しか愛せないと自覚していたものの、親にいわれるまま見合い結婚した。夫は酒とギャンブルに溺れ、暴力を振るい、子どもを虐待。耐えかねて2人の娘を連れ、着のみ着のまま家を逃げ出した。そのためホアン監督は10歳で小学校を中退し、その後も学校教育を受けていない。娘より同性の恋人を優先する母に不信感を募らせ、いつしか冷え切った関係になっていたという。

ホアン・フイチェン監督

母と一緒に故郷を訪れ、疎遠だった親戚と再会したり、母の歴代の恋人たちが語ったりするシーンもある。「私は娘という視点からしか母を見ていなかったが、さまざまな側面から母を理解し、全体像を知りたいと思った」。女性たちに囲まれてうれしそうな母、いかに愛されたかを喜んで話す元恋人たち。彼女たちの生き生きとした表情が印象的だ。子どものころの監督は母の恋人たちについて「私に注がれるはずだった愛情を奪う恋敵のような存在」と思っていた。だが、監督自身も母親となった今、「母のうれしそうな姿を見て、それまでのつらさに思いをはせられるようになり、わだかまりも消えた」という。

母は葬式で死者の魂を導く「陣頭」と呼ばれる仕事をしており、監督自身も家計を支えるため6歳からこの仕事を手伝った。20歳のころ、葬式陣頭を撮影するドキュメンタリーの被写体となったことから、映画に興味を持ち、地域の施設で映画制作を学んだ。苦境にある外国人労働者をテーマにした短編ドキュメンタリー2作を手がけ、今回の「日常対話」ではベルリン国際映画祭で賞を受けるなど、映画監督として注目されている。

「カメラを持ち、自分の思いを伝えられるようになって、弱々しいだけだった私も力を持つことができた。私は父から暴力を受け、母から顧みられない子どもだった。人間は苦しい時ほど芸術が必要。この作品が誰かに勇気を与え、救うようなものになればうれしい」と話す。映画は7月31日から東京・ポレポレ東中野を皮切りに、全国順次公開予定。

(関原のり子)

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