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欧州最古、1万年前の女性の赤ちゃんの墓を発見

ナショナル ジオグラフィック

イタリアの洞窟で幼い子どもの骨が見つかり、分析の結果、ヨーロッパで埋葬された女の子の赤ちゃんとしては、最も古いものであることが明らかになった。古代の社会において、赤ちゃんがどのような存在だったのか、特に女の子の赤ちゃんの「人格」はどう扱われていたのかを知る手がかりになりそうだ。論文は2021年12月14日付で学術誌「Scientific Reports」に発表された。

女の子は、この地域を流れる川の名にちなんで「ニーブ」と名付けられた。1万年あまり前に、生後わずか40~50日で死亡した。死因は不明で、発見されたのは布に包まれたわずかばかりの小さな骨と貝殻のビーズだけだった。すぐそばで出土したワシミミズクのかぎ爪は、供え物として置かれたものと思われる。

古代の子どもの骨が発見されることはめったにない。新生児の骨となればなおさらだ。子どもの骨は小さくてもろいため、数千年もの間、形を保つことができない。加えて、子どもの遺骨が見つかったとしても、骨に含まれたDNAが劣化しているため、普通は性別を判別できない。その点、ニーブの遺骨は例外だった。1万年以上も地中に埋もれながら、分析ができるだけのDNAが含まれていたのだ。

「この時代、つまり1万1000年から1万年前の墓は非常に少ないです」。しかもここまで古いと、使用できるDNAが残っている骨はほとんどない。「ほぼ何もない空白の期間なのです」と、論文の筆頭著者で、米コロラド大学デンバー校の古人類学・考古学准教授であるジェイミー・ホジキンス氏は言う。氏は、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもある。

赤ちゃんはどのような存在だったのか

DNAが残っていることは重要だ。そのおかげで、ニーブは女の子と判明した。民族誌学的には、幼い子どもの人間性を完全には認めない文化は多いとされる。だが、丁寧な埋葬は、女の赤ちゃん、そして恐らくは男の赤ちゃんもこの集団社会の中で「人格」を持ち、生まれた時から社会の一員として認められていたことを示していると、研究者たちは指摘する。

「小さな女の子の赤ちゃんまでも、社会のなかでひとりの人間として認められていたことを示しています」と話すのは、論文の共著者で、ホジキンス氏の夫でもあるコロラド大学デンバー校の古人類学者ケイリー・オール氏だ。

古代の子どもの遺骨がこれまでほとんど見つかっていないこともあって、赤ちゃんがいつごろから個人とみなされていたのか、また女児が男児と同じように扱われていたかを知るのは難しい。しかし、ドイツのイエナにあるマックス・プランク人類史科学研究所のマイケル・ペトラグリア氏も、研究チームの解釈は妥当だと考えている。

「私も、男女の赤ちゃんが平等に扱われていたことを示す証拠だと思います。これは、現代の男女平等の狩猟採集社会とも共通しています」。ペトラグリア氏は今回の研究には参加していないが、アフリカで発見された、ニーブよりもさらに古い年代の子どもの遺骨を研究した経験を持つ。こちらは、人類がヨーロッパに到達するよりもはるか以前の7万8000年前に埋葬されたものだった。

米国アラスカ州タナナバレーでも、ニーブと同時期の乳児の墓が発見されている。約1万1500年前にニーブとほぼ同じ月齢で死亡し、DNA分析により女の子だったことが確認されている。そして、こちらもやはり丁寧に埋葬され、同じように供え物が置かれていた。

ホジキンス氏とオール氏はこれに関して論文の中で次のように書いている。「女児も含めた乳幼児をひとつの人格として認める考え方は、どの古代文化にも共通して深く根差していたであろうことを示している。あるいは、地球上の異なる集団の間でほぼ同時期に発生したのだろう」

見過ごされてきた「女性の物語」

ホジキンス氏は、考古学が昔から男性のレンズだけを通して見られてきたため、女性に関する多くの物語が見過ごされてきた可能性があると指摘する。「贅沢に装飾が施された埋葬は、当然のように男性のものであるという思い込みがありました。男性には地位があり、女性にはないという西欧の既成概念に当てはめてきたからです」

しかし最近の考古学調査で、女性のバイキング戦士や鉄器時代のノンバイナリー(男性や女性といった性自認を持たない人)のリーダー、青銅器時代の女性の支配者がいたことがわかってきた。「考古学に欠けているのは、女性の物語です」と、ホジキンス氏はいう。

ニーブの墓は、ヨーロッパで発見された最古の女児の赤ちゃんのものだが、ホジキンス氏は、「DNA分析が進めば、もっと多くの女性の遺骨が見つかるでしょう」と期待をにじませる。また、考古学の分野に進む女性がもっと増えれば、変化がもたらされるだろうと話す。「誰もが自分の狭いレンズを通してしか考古学的記録を見なかったら、あらゆる多様性を見逃してしまうかもしれません」

ネアンデルタール人と現生人類の両方が使った洞窟

ニーブの遺骨が見つかったイタリア北西部のアルマ・ベイラナ洞窟は、人類の進化を研究する科学者の間では有名な洞窟だ。2014年から始まった発掘調査によって、ネアンデルタール人と現生人類の両方がこの洞窟を使用していたことが明らかにされたためだ。

4万4000年前まではネアンデルタール人が、そして3万年前からは初期の現生人類が使用していたとされる。つまり、洞窟の中に残された遺物や遺骨は、末期のネアンデルタール人から最初期の現生人類への移行期を記録したものということになる。科学者たちは、この時期のことについて、もっと詳しく知りたいと望んでいる。

2017年、アルマ・ベイラナ洞窟内でネアンデルタール人の痕跡を探していた発掘チームが、ホモ・サピエンスの乳児の骨を発見した。しかし、この時はあと数日でその年の調査も終わりというタイミングだったので、墓の完全な発掘作業は翌年に持ち越された。

当時ホジキンス氏は妊娠していたため、特に強く心を揺さぶられたと話す。「堆積物をふるいにかけていたら、小さな歯と手の骨が出てきたんです。赤ちゃんの手は、体のなかでも特にかわいらしい部分なので、見ていてつらくなりました」

発掘チームはさらに、2種類の貝殻でできた60個以上のビーズとペンダントを発見した。これらは、女児を包んでいた布に縫い付けてあったものが、長い間に糸が崩れて外れてしまったようだ。誰かが木々の生い茂る丘を越えて20キロ先の海岸まで歩き、貝殻を拾い集めたか、あるいはどこかで何かと交換したと思われる。

装飾品のなかにはかなりすり減っているものもあり、その集団に属していた他の誰かの所有物だった可能性もあると、今回の論文共著者で米アリゾナ州立大学の人類学者クローディン・グラベル・ミゲル氏は考えている。

人類は死者とどう関わってきたか

アルマ・ベイラナ洞窟の埋葬について、「人類が死者とどう関わってきたかを示している美しい例です。死者を葬る習慣は数十万年前までさかのぼることができ、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の両方で記録されていることです」と、スペインのブルゴスにある国立人類進化研究センター所長で古人類学者のマリア・マルティノン・トレス氏は話す。

同氏はまた、今回の研究は、生まれた時から乳児が社会の一員とみなされていたという考えを裏付けているという意見にも同意する。「ホモ・サピエンスの初期から、またネアンデルタール人の時代でも、子どもの人格が認められていたという証拠があります。記録されている最古のアフリカでの埋葬跡でも、子どもの遺骨が手厚く埋葬されていたことがわかっています」

マルティノン・トレス氏は今回の研究には参加していないが、ペトラグリア氏とともにアフリカで発見された子どもの遺骨の研究に携わった。

乳児の「早すぎる死」が激しい感情をかきたてるのは、ヒト属だけでなく、一部の霊長類にも見られることだと、マルティノン・トレス氏は付け加える。「現代でも、チンパンジーが乳児の死を悲しむことが知られています」

文=TOM METCALFE/訳=ルーバー荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2021年12月17日公開)

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