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恐竜滅亡に第2の小惑星衝突が関与か 西アフリカに痕跡

ナショナルジオグラフィック

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今から約6600万年前、地球上の生命の歩みは永遠に変わってしまった。メキシコのユカタン半島の海岸に直径10キロメートルの小惑星が激突したからだ。

大津波が押し寄せ、大地は燃え広がり、岩石の蒸発によって放出されたガスは気候を激しく変動させた。これらの天変地異により、ほとんどの恐竜(非鳥類型の恐竜)を含む全生物種の約75%が絶滅した。

ところが、小惑星の衝突はこれだけではなかったのかもしれない。西アフリカの海岸の砂の層の下に、別の小惑星が衝突した証拠らしきものが隠されていたのだ。

8月17日付けの科学誌「Science Advances」に発表された研究によると、海底の地震探査を行っていた科学者たちが直径8.5キロメートルのクレーターらしき構造物を発見したという。近くの海底火山にちなんで「ナディール」と名付けられたこのクレーターは、直径400メートル以上の小惑星の衝突によって形成されたと考えられ、その形成時期はメキシコ、ユカタン半島の「チクシュルーブ・クレーター」と同時期である可能性がある。

今回の論文の著者である米アリゾナ大学の惑星科学者ベロニカ・ブレイ氏は、「チクシュルーブの小惑星の衝突が非常に激しいものだったのは本当ですが、地球全体にあれほど大きな影響を及ぼしたのはなぜなのかと、多くの研究者が疑問に思っていたのです」と言う。「何らかの助けがあったのかもしれません」

ナディールを作った小惑星はチクシュルーブを作った小惑星に比べるとかなり小さく、その影響は局地的なものだったと考えられている。しかし研究者たちは、ナディールが衝突クレーターであることが裏付けられれば、白亜紀末の地球に小惑星がワンツーパンチを与えた可能性があると主張する。地球に衝突したこれら2つの小惑星はもともとは1つの天体で、地球の大気に突入する前に2つに分裂し、約5500キロ離れた2つの地点に相次いで衝突したのではないかとする説もある。

このクレーターが形成された年代や正体、そしてチクシュルーブ・クレーターとの関連性を確認するためにはさらなる分析が必要だが、科学者たちは慎重な姿勢を保ちながらも新たな衝突クレーターの解明に期待を寄せている。

地球は地殻変動がさかんに起きているため、古代の小惑星衝突に関する記録はほとんど残っていない。地表の多くの部分が、地中深くのマントルへ沈み込んだり、新たな火山岩が敷き詰められたり、氷河の移動によって削られたりしているからだ。現在、地球上で確認されている衝突クレーターは200個程度しかなく、科学者たちは、小惑星の衝突が太古の地球にどのような影響を及ぼし、地球の未来にどのような役割を果たすのか、十分に理解することができずにいる。

「地球は衝突クレーターを壊すのが得意なのです」と、米ウィノナ州立大学の実験地質学者ジェニファー・アンダーソン氏は言う。「地球は地質活動が活発なので、新たな衝突クレーターの発見はどんなものでも重要です」

衝撃の発見

多くの発見がそうであるように、今回の新しいクレーターも偶然に発見された。英ヘリオット・ワット大学の地質学者ウィスディン・ニコルソン氏は、今から約1億年前に南米大陸がアフリカ大陸から分離した過程を再構築することに興味を持っていた。

その手がかりを得るため、ニコルソン氏は企業の協力を得て地震データを取得し、南米大陸とアフリカ大陸の間の海底の特徴を調べた。地震波が地中でどのように跳ね返るかを追跡することで、地中の様子が分かるのだ。分析を始めるとすぐに、ニコルソン氏は奇妙なものに気づいた。

地震探査の専門家であるニコルソン氏は、周囲の高密度の岩の間から盛り上がってきた岩塩ドームなど、地層に凹凸を作る地形のデータを数多く見てきた。しかし、彼の目の前のデータのゆらぎは、もっと激しい現象を暗示していた。「あんなものは見たことがありませんでした」

ニコルソン氏は、ブレイ氏をはじめとする他の科学者に連絡をとり、これは衝突クレーターではないだろうかと聞いてみたところ、全員が彼の意見に同意した。その構造物は盛り上がった縁(リム)に囲まれたくぼみで、中央には衝突クレーターによく見られる高い丘があった。

研究チームはこの構造物の形と大きさを分析し、形成過程のモデルを作った。その結果、このクレーターは、直径400メートルの小惑星が大気圏を突き抜けて秒速20キロメートルの猛スピードで海面に衝突してできたものであることがわかった。「海に飛び込んだ小惑星は、そこに何もないかのように水中を突進していったことでしょう」とブレイ氏は言う。

研究チームは、この衝突によりTNT火薬5000メガトン分のエネルギーが放出され、すぐ下の海水と海底の地層は一瞬にして蒸発しただろうと推測している。続いて衝撃波が海面に広がり、岩石は衝撃変性作用により液状に融解する。数分もしないうちに海底が再び盛り上がって中央に山を作り、崩れ落ちる。最終的に、真ん中にお椀のようなくぼみのある丘ができる。今回アフリカの西海岸で発見された構造物と同じ形だ。

この地域の堆積物層とほかの地域の年代測定試料との相関関係から、研究チームはこの構造物が約6600万年前に形成されたと推定している。チクシュルーブ・クレーターの形成時期に非常に近い時期だ。

ワンツーパンチだった?

ナディールの衝突が環境に及ぼした影響を研究することは、将来の小惑星の衝突が地球に及ぼす影響の理解に役立つはずだ。ナディール・クレーターを形成した小惑星の大きさの推定値は、小惑星ベンヌと同程度である。ベンヌは地球に衝突する可能性が最も高い小惑星の1つで、今後300年以内に地球に衝突する確率は1750分の1と見積もられている。ベンヌが地球に衝突した場合の被害は大きく、数百キロメートルの海岸線に津波が襲いかかることだろう。ブレイ氏は「都市を1つか2つ消滅させるのに十分な大きさです」と言う。

今回の発見が、チクシュルーブの小惑星衝突やその後の大量絶滅に対する私たちの理解にどのような意味をもつかは、まだわからない。直径400メートルの小惑星の衝突によって放出されたエネルギーと、それが環境に及ぼした影響は、直径10キロメートルのチクシュルーブの小惑星の衝突とその後の地球規模の大異変に比べればはるかに小さいものだっただろう。

「レベルが全く違います」と今回の論文を査読したドイツ、ノイウルム応用科学大学のマルティン・シュミーダー氏は言う。

しかし、ナディールの衝突は、すでに荒廃していた生態系に「追い打ちをかけた」可能性があるとブレイ氏は言う。今回のクレーターのほかにも、ウクライナのボルティッシュ・クレーターという衝突クレーターは6540万年前のもので、チクシュルーブ・クレーターよりもわずかに新しいと、研究チームは指摘している。

彗星や小惑星の破片がクラスター的にまとまって衝突する現象は、地球でも他の天体でも知られている。例えば、アンダーソン氏が住んでいる米中西部の近くには、約4億6000万年前にできた3つのクレーターがある。これらはオルドビス紀に相次いだ小惑星衝突の一部で、科学者たちは、小惑星帯で大規模な衝突が起きた結果、多くの隕石が数百万年にわたって地球に降り注いでいたのかもしれないと考えている。

先述のとおり、地球には古代の小惑星衝突に関する記録はほとんど残っていないため、クラスターを特定することは困難だ。シュミーダー氏によれば、ナディールのような規模の衝突は10万年に1回程度の頻度で起こるものなので、「基本的にいつ起こってもおかしくない」という。

ナディール・クレーターの形成過程を解明するためには、さらなる研究が必要だ。

研究チームは、ナディールの地層を掘削し、衝突の衝撃で溶融し、崩壊したと思われる岩石とクレーターの上の堆積物層のサンプルを採取するための緊急資金を申請している。埋もれた構造物の上に厚く堆積した砂と泥の層は、クレーターの特徴を保存しているだけでなく、衝突から間もない時期の海洋生物の状態を明らかにしてくれる可能性がある。その知見は、地球に小惑星が衝突したときに起こることに関する新たなデータの宝庫となるだろう。

「けれどももちろん、掘削が実現しないかぎり、それらを知ることはできません」とブレイ氏は言う。

文=Maya Wei-Haas/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年8月19日公開)

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