/

インフルとコロナ、米で同時流行「ツインデミック」の恐れ

ナショナル ジオグラフィック

秋を迎えて涼しくなった米国では、今も続く新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)にかぜやインフルエンザの流行期が重なることを、今年も専門家が警告している。昨年はインフルエンザの流行が驚くほど小規模だったこともあり、この冬は例年よりも猛威を振るう恐れがある。

2020~21年流行期のインフルエンザの感染者数は、例年より大幅に減少した。専門家は、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保、マスク着用、移動制限、手洗い、リモートワーク、学校閉鎖などの対策のおかげだと考えている。通常のインフルエンザ流行期の場合、米国の医療および公衆衛生の検査施設で確定する陽性例数は約20万だが、2020〜21年は2000をわずかに上回っただけだった。インフルエンザによる入院者数も過去最少だった。

新型コロナとインフルエンザが同時に流行する「ツインデミック」が今シーズンに発生する可能性については、今のところ様々な議論があるものの、厳しい状況になりうることが予測されている。企業、飲食店、学校といった公共の場の多くが再開されたこともあり、ソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用を続ける人は減っている。また、昨年のインフルエンザ流行が小規模だったため、今年のインフルエンザワクチンをどのウイルス株で製造するかの選択も難しい。

この2つの呼吸器疾患が同時に流行すれば、すでに米国内の多くの地域でパンク寸前に陥っている救命医療が破綻しかねないと米食品医薬品局(FDA)元長官のスコット・ゴットリーブ氏は警鐘を鳴らしてきた。米疾病対策センター(CDC)は、インフルエンザが大流行すれば、70万人以上が入院し、最大5万2000人が命を落とす恐れがあると試算している。

今季の流行はどうなる?

米国の2021〜22年インフルエンザ流行期の様相を予測するため、専門家はニュージーランド、オーストラリア、アジアの一部の国々など、5〜10月に冬を迎えた南半球の状況に注目している。「今のところ、南半球では今年もインフルエンザの流行が例年より小規模にとどまっています」と、世界保健機関(WHO)協力センター動物鳥類インフルエンザ生態学研究所のリチャード・ウェビー所長は話している。

CDCによれば、米国でもまだインフルエンザの患者数は少ない。だが今は流行期の入り口にすぎない。様々な要因を勘案すると、これからインフルエンザは勢いを増す可能性がある。

そう考えられる理由のひとつは、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)など他の疾患の患者数が少しずつ増加していることだ。これは、呼吸器感染症が広がっていることを示している。さらに、昨年はインフルエンザの流行が小規模だったので、免疫を持つ人が少なくなっている。

そのうえ、ソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用が減ってきている。インフルエンザワクチンを拒否する人もいる。新学期を迎えた子どもたちは、通学を再開した。こうした要因すべてが、インフルエンザの深刻なアウトブレイク(集団感染)の可能性を高めている。

「学齢期の子どもたちは、コミュニティーにおけるインフルエンザ感染の推進力です」と米ベイラー医科大学の伝染病専門医でウイルス学者のハナ・エル・サーリー氏は指摘する。「新型コロナの感染を抑制した社会や行動の変化も、今季はあまり期待できません」

8月、米ピッツバーグ大学が行った2つの数理的研究が査読前の医学論文を投稿するサイト「medRxiv」に公開され、非常に憂慮すべき結果が示された。両研究では、前年に感染者が少なかったことによる免疫低下の影響や、職場、学校、パーティーにおける交流拡大などの要因を分析し、インフルエンザ株の感染力が高いか、あるいはまったく新しい株が出現した場合について予測している。

8月26日付けで公開された論文では、2021~22年のインフルエンザ流行期に、例年よりも感染者数が約20%増加する可能性があると計算された。米国では通常、感染者数は年間900万~4500万の間で推移するが、インフルエンザ株の感染力や特徴によっては、その2倍にまで跳ね上がる恐れがある。

8月30日付けで公開されたもう一つの論文では、少し異なる手法を用いている。こちらの数理モデルは、2021~22年のインフルエンザ流行期に入院患者が60万人に上る可能性を示唆している。これは、平均的な流行期を少なくとも10万人以上も上回る規模だ。だが、ワクチンの接種率と有効性がともに半分になれば、入院患者は例年に比べて40万人増加する可能性がある。

「どちらの研究でも、ほぼ同じことを指摘しています。つまり今年は、非常に大規模なアウトブレイクが起きる可能性が高いということです」。両論文の筆頭著者である米ピッツバーグ大学公衆衛生大学院公共衛生ダイナミクス研究所のマーク・ロバーツ所長は、こう話している。

「対策としては、ソーシャルディスタンスの確保とワクチンの接種を継続することです。それが、今年のエピデミック(地域的大流行)の可能性を低下させます」と氏は言う。これらの予測結果は、予防策とワクチン接種への抵抗感が強く、まだ新型コロナの感染が拡大している地域では特に懸念される。

「米国中の所々で大流行が起きつつ、場所によって状況に大きな差が出るかもしれません」とロバーツ氏は言う。「新型コロナに対する警戒が不十分な地域では、インフルエンザと新型コロナの両方が流行する恐れがあります」

ワクチン製造株の的確な選定

深刻な流行期の到来が危惧される現在、ロバーツ氏をはじめとする専門家は、より多くの人にインフルエンザワクチンを接種してほしいと強調している。

インフルエンザのワクチンは通常、4価ワクチンで、不活化されたインフルエンザA型の2種類(H1N1とH3N2)、B型の2種類(ビクトリア系統と山形系統)の4種類の株が含まれている。

世界各国の調査機関は、報告された症例の遺伝子情報に基づいて、流行している株の種類を調査している。このデータを用いて、翌年の接種に使用する株が選択される。だが昨年は流行が非常に小規模だったために収集できたサンプルが少なく、この冬に流行する株の特定は例年より難しくなっている。

今年のワクチンは、昨年のワクチンから2種類が変更された。専門家たちは、株の選択が的確であることを願っている。また、前向きな展開もある。継続した調査の結果、B型の山形系統が2020~21年の流行期に絶滅した可能性があることがわかった。

特定のウイルスが絶滅する理由はまだわかっていないが、専門家たちは複数の仮説を立てている。

「インフルエンザウイルスには4つの型があり、通常は1つの流行期に1つだけが優勢になります」とウェビー氏は説明する。「私たちがマスクを着用したりソーシャルディスタンスを保ったりしてウイルスの活動が低下している間は、感染先を見つけるのが困難になり、絶滅するのかもしれません」

同時接種の安全性は

感染予防対策では、もうひとつ吉報が届いている。査読前の医学論文を投稿するサイト「Preprints with The Lancet」に9月30日付けで公開された論文によれば、英国での臨床試験(治験)の結果、ファイザー製またはアストラゼネカ製の新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種の安全性が確認されたという。

この治験には、1回目の新型コロナワクチンの接種を終えた679人が参加した。2回目接種を実施する際に、参加者の半数がインフルエンザワクチンの接種を、残りの半数はプラセボ(偽薬)の接種を同時に受けた。副反応は、2つのワクチンを同時接種しても増加せず、どちらのグループでも軽度から中度だった。また、ワクチンの効果も低下しなかった。

インフルエンザワクチンを新型コロナワクチンの1回目と同時に接種しても問題ないと専門家は考えている。また、12歳未満の子どもに対する新型コロナワクチン接種はまだ承認されていないが、生後6カ月を過ぎていれば、インフルエンザワクチン接種を受けることはできる。2歳未満の幼児はインフルエンザウイルスにさらされたことがないので、特に感染しやすくなっている。

「インフルエンザワクチンの接種を受けてください。お子さんにも受けさせてください」と、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の伝染病専門医、モニカ・ガンディー氏は言う。「去年、インフルエンザワクチンの接種を受けていないお子さんは、特に高いリスクがあります」

文=LINDA MARSA/訳=稲永浩子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2021年10月16日公開)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン