台湾のトム・リン監督、戦争の影と男女の愛を映画に描く

青春のきらめきと苦みを描いた長編デビュー作「九月に降る風」が地元台湾で大ヒット、次代を担う新鋭として脚光を浴びた。13年を経た今、かつての青春映画の旗手は人間の心の奥底を描き出す監督になった。新作「夕霧花園」(7月24日公開)では、戦争の影に切り込み、時を超えた男女の愛の描写に挑んだ。「舞台はマレーシア。大きなチャレンジだったが、物語に人間同士の情感さえあれば、舞台がどこであれ大丈夫と思った」と語る。
亡き妹の夢だった日本庭園をつくろうとする女性が、マレーシアに住む日本人庭師に弟子入りする。第2次世界大戦中から1980年代まで、時代を往来しながら、旧日本軍の占領の歴史と、その中で育まれた愛を描く。「単なる恋愛物語ではない。国や民族の違い、歴史とは関係なく、目の前にいる人を人間として認めることができるかどうか。劇中に『芸術は国境を乗り越えられる』というセリフがあり、この言葉を信じて映画を撮った」

日本の阿部寛、マレーシアのリー・シンジエ、台湾のシルヴィア・チャンら俳優やスタッフも世界各地から集まった。「知り合いは美術監督だけ。だが、私たちには映画という共通言語があり、想像よりはるかに楽に撮影できた」と笑顔をみせる。
配偶者を亡くした悲しみと再生を描いた「百日告別」(2015年)など、自身の経験をもとにした作品もある。「完成まで監督は数多くの決断を迫られる。判断の頼りになるのは直感と自分自身の経験。小さな決断の積み重ねによって物語が形になる。よりよい作品にするため、平常心を持って決断することをいつも考えている」と話す。
(関原のり子)