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オミクロン型、なぜ感染しやすく重症化しにくいのか

ナショナル ジオグラフィック

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もし今、米国で新型コロナウイルスに感染した場合、それはオミクロン型である可能性が高い。米疾病対策センター(CDC)によると、1月8日までの1週間に米国内で遺伝子解析された症例の98%以上がオミクロン型によるものだった。

元のウイルスと比べて変異の多いオミクロン型は、これまでの主流だったデルタ型とは大きく異なるため、過去2年間で身につけたリスク管理のやり方を部分的に変える必要があるかもしれない。

オミクロン型は感染力が強くなっているだけでなく、既存の抗体から逃避する能力も優れている。「最も大きくて衝撃的な変化は、感染力が信じられないほど強くなっていることです。これほど感染力の強いウイルスは見たことがありません」と、米エモリー大学の疫学者で感染症専門医のカルロス・デル・リオ氏は言う。一方で、オミクロン型による症状は他の変異型とは異なっていて、重症化する例は減っているようだ。

それでも、すべての新型コロナウイルスには重要な共通点があり、「ワクチン接種を受けてマスクを着用する」という基本的な感染予防策は変わらない。以下では、オミクロン型が主流になった現在の感染対策について、最新の研究から得られた知見を紹介する。

オミクロン型はどのぐらい重症化しにくい?

世界各国から得られた複数の証拠からは、オミクロン型に感染した場合は重症化しにくいことが示唆される。

2021年11月にオミクロン型が初めて検出された南アフリカでは、12月中旬に南アの民間医療保険会社ディスカバリーが発表した報告書によると、オミクロン型に感染した18歳以上の入院率は、2020年7月頃の同国での感染第1波と比べて29%低かった。また、英国保健安全保障庁(HSA)が2021年12月31日に発表した研究概要によると、英国でオミクロン型に感染して救急外来を受診した人の入院率は、デルタ型の3分の1だった。

オミクロン型に感染した18歳以上の米国人では、感染が判明してから3日以内に救急外来の受診、入院、人工呼吸器の装着に至る割合が、いずれもデルタ型の半分以下だった。これは米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学大学院の研究者が調査した結果で、論文は査読前の医学論文を投稿するサイト「medRxiv」に2022年1月2日付けで公開された。1万4000人以上の患者のデータが調査され、ワクチン接種や基礎疾患の有無も考慮されている。

他の変異型との症状の違いが、こうした重症化率の変化をもたらしていると、デル・リオ氏は述べる。オミクロン型では、肺炎のような症状や免疫系の暴走が見られる患者は減り、鼻づまりや喉の痛みを訴える患者が増えている。「オミクロン型の症状は比較的、鼻風邪に似ています」と氏は言う。

年齢や基礎疾患、ワクチンによる差は?

先に紹介したケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究によると、65歳以上の高齢者やワクチン接種を受けられない年齢の子どもを含め、すべての年齢層でオミクロン型はデルタ型に比べて重症化しにくいようだ。それでも、他の健康問題と同様、年齢が重症化の要因の1つであることに変わりはないとデル・リオ氏は言う。「どんな病気でも、高齢になるほど悪化しやすくなります」

基礎疾患のある人や免疫力が低下している人も、ワクチン未接種の人と同様に感染しやすい。現行のワクチンがオミクロン型による症状を防ぐ効果は、デルタ型に比べて低い。だが英HSAの報告によれば、ブースター接種(追加接種)を終えた人は、未接種の人に比べてオミクロン型感染による入院率が88%も低いことがわかっている。英国各地の病院からの報告では、現在、集中治療室に入っている人の大半がワクチン未接種の人だという。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は1月6日の記者会見で、オミクロン型に感染すれば、年齢や健康状態に関係なく、たとえ病院に行くほどではないにせよ苦しい思いをする点や、オミクロン型でも入院や死亡する人はやはり多い点を強調した。

感染しやすいのに重症化しにくいのはなぜ?

デンマークで行われた家庭内感染の研究によると、オミクロン型はデルタ型の2〜4倍うつりやすいという。なお、論文はまだ査読を受けておらず、2021年12月27日付けで「medRxiv」で公開された。また、ワクチン接種による抗体を逃れやすく、ブレイクスルー感染を引き起こしやすい。その結果、体調不良で来院する人も、病欠の連絡をしてくる病院スタッフも増えているとデル・リオ氏は言う。

オミクロン型のスパイクたんぱく質(新型コロナウイルスがヒトの細胞に結合する部分)には36カ所の変異がある。これらの変異が細胞への侵入と複製のしかたをどのように変えているのかは、マウスやハムスターなど小型の実験動物や培養細胞を用いた研究によって解明され始めており、論文はいずれも査読前だが少なくとも6本あると、米ワイル・コーネル医科大学のワクチン研究者でウイルス学者のジョン・ムーア氏は説明する。

これまでの変異型とは違い、オミクロン型は肺の細胞に効率よく感染できないらしく、その結果、体へのダメージが少なく、症状も重くなりにくい。オミクロン型に感染したげっ歯類では肺のウイルス量が著しく少ないことが、いくつかの研究からわかっている。一方で、鼻や副鼻腔を含む上気道では、オミクロン型はデルタ型の100倍以上の速さで複製されることが、1月3日付けで「bioRxiv」に発表された査読前の論文で示唆された。

上気道に感染しやすく、免疫をより回避し、感染力が強いといったオミクロン型が遂げた変化は、感染した相手を重症化させることなく自分の複製を広げるように進化することで、ウイルスがみずからの未来を確かなものにしようとしている兆候だ。

「ウイルスにとっては、自分の複製を作って次の宿主に感染できさえすれば、感染した相手が生きようが死のうが、どうでもいいのです」とムーア氏は言う。「自分のゲノムを複製することがすべてなのです」

抗原検査の使い方は変わる?

新型コロナウイルスの変異型のなかでも、特にオミクロン型は口腔内に多く存在することが初期の証拠から明らかになっている。

南アフリカの研究者らが2021年12月24日付けで「medRxiv」に投稿した査読前の論文によれば、入院するほどではないが新型コロナの症状がある382人にPCR検査を実施したところ、デルタ型の場合は鼻腔ぬぐい液を検査する方が正確な結果が出たが、オミクロン型の場合は唾液検査の方が正確だった。

鼻腔ぬぐい液を用いる迅速抗原検査では、オミクロン型の感染を特定するのに特に時間がかかる可能性があることは、他の複数の研究でも示唆されている。1月5日付けで「medRxiv」に投稿された査読前の論文では、米国で12月上旬に新型コロナ検査を受けて陽性になった30人の検体を調べている。その結果、オミクロン型の感染例のほとんどが、PCR検査で陽性になってから数日後にようやく迅速検査で陽性となっていた。

つまり、まだ感染力が残る初期に、迅速抗原検査ではオミクロン型の感染を検出できない可能性がある。

こうした結果は、人々がソーシャルメディア上で報告していることと同じだと、論文の著者の一人である米エール大学公衆衛生大学院の医学微生物学者アン・ワイリー氏は言う。

オミクロン型が唾液中に多く存在していることを示す証拠が増えつつあることを受け、ソーシャルメディア上では、家庭用抗原検査キットで鼻腔ではなく咽頭をぬぐうことを勧める一般人や研究者が大勢いる。

「米食品医薬品局(FDA)が承認した使用法ではないので、これについての発言は非常に難しいところです」とワイリー氏は言う。他にも多くの専門家が、本来の使用法とは異なる使い方の推奨をためらっている理由はそこにある。

いずれは咽頭ぬぐい液での検査も可能になるかもしれないが、現行の迅速検査は咽頭ではなく鼻腔用に設計されていると、米ベイラー医科大学の感染症専門医ジル・ウェザーヘッド氏はくぎを刺す。

「さらなる試験によって有効性が確認されるまでは、設計された通りの使用法で検査を行うことをお勧めします」とウェザーヘッド氏は言う。

表面の消毒や人との距離などの対策はまだ必要?

これまでの変異株と同様、オミクロン型は主に空気中の飛沫を介して感染する。物体の表面を消毒することは、おそらく労力に見合うほどの効果はないというのが専門家の意見だ。「ものの表面から感染する可能性は低いので、表面の消毒に時間、エネルギー、お金、資源、心の健康を費やすよりは、手洗い、ソーシャルディスタンスの保持、マスクの着用に向ける方がよいでしょう」とワイリー氏は話す。

また、ソーシャルディスタンスに関する「6フィート(約1.8メートル)ルール」は、それだけ離れれば感染しないという意味ではなく、感染者に近づくと感染リスクが高まることに対する注意喚起だと、米スタンフォード大学の感染症専門医アブラール・カラン氏は言う。

「1.8メートル以上離れていても感染することはあります。けれども、距離が遠くなればエアロゾル(空気中の微粒子)が希釈されるため、感染の可能性は低くなります」。感染リスクは、換気や、周囲の人が着用しているマスクの種類といった要因によっても変わってくる。

オミクロン型でも後遺症が残るおそれはある?

まだわからない。オミクロン型が長期的に持続する症状を引き起こすかどうかが明らかになるのは数カ月後になるだろう。しかし、ワイリー氏をはじめとする一部の専門家は、オミクロン型が肺に感染しにくい傾向があるうえ、ワクチン接種を受けた人が増えていることで感染や発症のリスクが下がっているため、新型コロナ後遺症に苦しむ人は少なくなるのではないかと考えている。

文=EMILY SOHN/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年1月14日公開)

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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