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アカデミー賞有力「イニシェリン島の精霊」 映画評7本

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ラインアップ 「イニシェリン島の精霊」「あつい胸さわぎ」「ピンク・クラウド」「レジェンド&バタフライ 」「ミスタームーンライト〜1966 ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢〜」「遊撃/映画監督 中島貞夫」「金の国 水の国」

イニシェリン島の精霊

破滅する男たちの哀歌 武部好伸(エッセイスト)

アイルランド西海岸に浮かぶ辺境の島を舞台にした濃密なヒューマン・ドラマ。

原題の「The BANSHEES of INISHERIN(イニシェリン島のバンシー)」の「バンシー」とは、人の死を予告するケルトの妖精で、それが物語の空気感を支配している。

冒頭、お人好(よ)しの青年パードリック(コリン・ファレル)が、年長者のフィドル奏者コルム(ブレンダン・グリーソン)から、唐突に絶交を言い渡される。大の親友で、何の落ち度もないのに……。

やがて理由が明らかになるや、傷心のパードリックが憎悪と怒りの炎を燃えたぎらせ、そこにコルムの予期せぬ行動が拍車をかけ、抜き差しならぬ状況へ。加速度的に事態が悪化し、島全体に不協和音が生じてくる。主役2人の演技の激突が見どころだ。

1923年という時代設定が大きな意味を持つ。12世紀以降、英国の植民支配下にあった同国が自治権をめぐり、国民が二分して争った内戦の時期。この島は長閑(のどか)だが、それは表層的なことで、2人の仲違(たが)いを同胞が殺し合い、分断を推し進めた内戦と同じ文脈で捉えている。そこが本作の〈核〉といえよう。

個人であれ、国家であれ、ひと度(たび)衝突すると、なかなか修復できないという不文律(負の連鎖)を痛感させる。ロシアによるウクライナ侵攻の行く末が不透明な時期だけに、いたく胸を衝(つ)かれた。

そんな不穏な状況下、不気味な笑いを湛(たた)え、折に触れて登場するのが老婆(ろうば)マコーミック。人間の行う事どもを傍観し、謎めいた言葉を放つだけ。何だか嘲っているようだ。彼女がバンシーなのか……。

監督は英国人のマーティン・マクドナー。米国の田舎町での歪(いびつ)な人間模様を描いた「スリー・ビルボード」(2017年)と同様、独特なサスペンスタッチで、孤独と友情に引き裂かれ、破滅していく男たちのドラマを「哀歌(エレジー)」として綴(つづ)った。

石と岩だらけのアラン諸島を中心に撮影が行われ、出演者がみなアイルランド人。教訓めいた内容から、現代版のケルトの寓話(ぐうわ)のように思えた。

1時間54分。★★★★★

あつい胸さわぎ

恋と病に揺れる女性の心 村山匡一郎(映画評論家)

将来の希望と不安を抱える青春時代には心身ともに悩むことも多い。そんな青春真っただ中の若い女性を主人公に、恋愛と病気に立ち向かう心の揺れ動きを軽妙なタッチで生き生きと描いている。原作は2019年に初演され好評を博した横山拓也の戯曲。

地方の港町で母親と暮らす千夏(吉田美月喜)は、美大に入学して文芸を専攻、課題の「初恋の思い出」をテーマに小説に取りかかる。彼女の初恋の相手は同じ美大で演劇を学ぶ幼馴染(おさななじ)みの光輝だが、そんな彼女の想いに彼は気がつかない。

一方、母親の昭子(常盤貴子)は、明るくさばさばした性格で、家でも千夏と丁々発止のやりとり。勤め先の工場に新たに赴任した木村課長の噂をする同僚に憤り、やがて彼の真面目で不器用な人柄に惹(ひ)かれていく。

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