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オミクロン型対応コロナワクチン、接種の効果や必要性は

ナショナルジオグラフィック

新型コロナウイルスワクチンの提供が2020年12月に開始されてから初めて、流行中の主要な変異型に対抗するワクチンの接種がいよいよ始まる。起源型(最初に流行した型)を標的とする現行のワクチンとは異なり、米国で使われる新たなワクチンは、米国などで現在優勢となっているオミクロン型のBA.4およびBA.5系統を標的としている。

米食品医薬品局(FDA)は2022年8月31日にこの改良ワクチンの使用を承認し、9月1日には米疾病対策センター(CDC)が接種を推奨した。感染力が強いオミクロン型に対して、過去のワクチン接種や感染によって得られた免疫が低下している状況を受けての決定だ。科学者たちは、秋から冬にかけて新型コロナの感染者が増加すると予測している。

改良前の新型コロナワクチンでも2回目あるいは3回目を接種すれば、大抵は新型コロナウイルスに対する抗体の量を増やせると、FDA生物製剤評価・研究センターのピーター・マークス所長は8月31日のオンライン記者会見で述べた。しかし、改良ワクチンの目的は予防効果の持続期間をより長くすることにもある。それが実現するかを見極めるために、研究者がデータを収集し、判断するにはまだ数カ月かかるだろう。改良ワクチンによって増えるメリットがどの程度であろうと、「追加接種(ブースター接種)を受けることを考慮するのは間違いなく重要です」とマークス氏は言う。

以下では、オミクロン型に対応する改良ワクチンについて、その必要性、BA.1対応とBA.4/5対応の違い、接種対象者、期待される予防効果の持続期間など、これまでに分かっていることを紹介する。

1. 改良ワクチンはどのようなものか?

現行の新型コロナワクチンとは異なり、改良ワクチンは「2価ワクチン」だ。つまり、起源株のスパイクタンパク質の情報をもつmRNAに加え、オミクロン型に共通するスパイクタンパク質のmRNAが含まれている。

「現在流行しているものに合わせています」とマークス氏は説明する。「特定の変異型(オミクロン型)に対する抗体の量を増やすことで、2020年後半から2021年前半に新型コロナワクチン接種が初めて開始されたときに私たちが得たような免疫を回復させることが期待されます」

米国の改良ワクチンの目的は、秋から冬にかけて室内で過ごす時間が増える季節に、BA.4やBA.5などの変異型に関連する入院者数や死亡数を減少させることだ。

2. なぜ改良ワクチンが必要だったのか?

2021年11月後半にオミクロン型のBA.1系統が米国に上陸すると、新型コロナ患者の急増に拍車がかかった。この変異ウイルスはワクチン接種や過去の感染で得られた免疫をうまく逃れるため、2回のワクチン接種を受けたにもかかわらず感染する「ブレークスルー感染」が増えた。BA.1がより感染力や免疫逃避能力が強いBA.4やBA.5に進化するにつれ、ワクチンを3回接種した人の間でもブレークスルー感染や再感染が見られるようになった。ワクチン接種は依然として重症化を防ぐのには有効だったが、これらの新たなオミクロン型による感染を防ぐのにはそれほど効果的ではなかったのだ。

BA.4とBA.5のスパイクタンパク質の配列は、起源株のスパイクタンパク質と多くの類似点があるため、改良前のワクチンでもこれらの両系統に対する抗体は生成できるが、効果は限定的だった。2022年7月7日付けで医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された研究では、改良前のワクチンを3回接種した23〜76歳の27人の抗体値を3回目接種の2週間後に測定したところ、起源株(WA1/2020)に対する抗体値が最も高かった一方で、BA.4とBA.5に対してはその20分の1だった。

抗体値をどの程度、ワクチンの有効性に読み替えることができるかは定かではないが、2022年7月19日付けで医学誌「Cell Reports Medicine」に掲載された研究では、抗体値が3回目のワクチン接種後3カ月以内に大幅に減少することが分かった。どちらの研究も、改良前のワクチンはBA.5と相性があまり良くないことを示している。

3. 誰が改良ワクチンを接種できるのか?

今のところ、最後に新型コロナワクチンを接種してから2カ月以上経過した12歳以上の人は、改良2価ワクチンを接種することができる。新型コロナに最近感染した人の場合、CDCは症状が最初に現れた日あるいは検査で陽性判定を受けた日から3カ月待つよう推奨している。

FDAは、12歳以上の人に対してファイザー・ビオンテック社の改良ブースター用新型コロナワクチンの使用を承認した。18歳以上の人は、モデルナ社の新たなワクチンも使用できる。これに伴い、FDAは、これらの企業が製造した改良前のブースターワクチンの12歳以上への使用を中止した。

インフルエンザの季節が近づいてきたため、CDCは新型コロナワクチンのブースターと同時にインフルエンザのワクチン接種を受けるよう推奨している。ただしCDCは、サル痘ワクチンを接種した若い成人男性の場合、新型コロナワクチンの接種まで4週間待つよう勧めている。これは主に、サル痘ワクチン「ジンネオス」の接種で発生する心臓疾患のリスクが未知数なためだ。

4. またすぐに改良ワクチンの接種が必要になる?

改良ワクチンによって得られる予防効果がどれくらい持続するかはまだ不明だ。「これは難問です。免疫がどれくらいの期間持続するのかは分かりません」と、世界保健機関(WHO)の新型コロナワクチンに関する技術的諮問グループの委員長を務めるカンタ・スバラオ氏は言う。「免疫を持続させるために必要なことはまだ分かっていないのです」

米国の新たな2価ワクチンはBA.4とBA.5に対してより優れた予防効果を発揮するかもしれないが、ウイルスの伝播や感染を防ぐようには作られていない、とスバラオ氏はくぎを刺す。また、予防効果がどれくらいの期間持続するかは、次に出現する変異型やその免疫逃避能力によって決まるだろう。

「現時点では、病気と伝播の負担を減らしたいので、全員にワクチンを接種しています」とスバラオ氏は言う。しかし現在、ブレークスルー感染を減らすために、次世代型の新型コロナワクチンが開発中だ。

5. BA.1対応とBA.4/5対応、どちらのワクチンを選べばよい?

日本と英国では、起源株とオミクロン型のBA.1に対応した2価ワクチンの使用が承認されている。今後、米国と同様にBA.4とBA.5に対応したワクチンに切り替える可能性もある。

米国のFDAがBA.4とBA.5に対応した改良ワクチンを承認することにしたのは、BA.1と異なり、両系統が米国や世界の多くの地域で現在流行しているからだ。2022年3月24日付けで学術誌「Cell Host & Microbe」に掲載された研究に基づき、マークス氏とFDAの同僚らは、BA.4とBA.5を標的にすることで、BA.1やデルタ株、ベータ株など過去のいくつかの新型コロナ変異型に対しても、より強固な予防効果が得られる可能性があると考えている。

一方、スバラオ氏は、どちらの2価ワクチンでも免疫が強化されるはずだと主張する。

6. これらのワクチンについて分かっていること、分かっていないことは?

FDAは限られたデータに基づいてBA.4とBA.5を標的とする2価ワクチンの使用を承認した。

FDAが判断する際に用いたのは、モデルナ社とファイザー・ビオンテック社がそれぞれマウスで行った実験の結果だ。これらは、改良ワクチンを使用した場合、改良前のワクチンに比べてBA.4とBA.5に対して高い抗体値が得られることを示した。また、BA.1対応ワクチンを用いたヒト臨床試験(治験)の結果にも注目した。この治験では、BA.1対応2価ワクチンの接種により、改良前のワクチンに比べてオミクロン型とその他全ての新型コロナ変異型に対して高い抗体値が得られることが示されている。

BA.4およびBA.5に対応した2価ワクチンは、より優れた効果を発揮することが期待される。

「まだ分からないのは、現実世界で2価ワクチンにどの程度の効果があるかということです」と、米国カリフォルニア大学バークレー校の感染症専門家ジョーン・スウォーツバーグ氏は言う。また、これらの改良ワクチンがどの程度まで再感染とブレークスルー感染を減らせるのかもまだ不明だ。

米オハイオ州立大学の小児科教授パブロ・サンチェス氏をはじめとする専門家は、ヒト治験による妥当なデータがないまま改良ワクチンの接種を進める決定に疑問を呈している。サンチェス氏はCDCの会議で唯一、改良ワクチンを推奨することに反対票を投じた。

今回の対応は、インフルエンザワクチンに毎年変更を加えるプロセスに準じている。インフルエンザワクチンの場合は安全性と有効性を評価するためのヒト治験を必要としないが、「新型コロナワクチンはその段階まで達しているとは思えませんでした」とサンチェス氏は言う。氏は現在67歳で2価ワクチンのブースター接種を受けるつもりだが、もし安全だと自信を持って言えたなら、もっと安心してワクチン接種を勧めただろうと言う。

一方で、スウォーツバーグ氏はあまり心配していない。「改良ワクチンは起源株にも対応しています」と氏は言う。最悪の場合でも、改良前のワクチンを再び接種するのと同じことになるだけだと氏は言う。

ヒトでの治験を待っていたら、秋や冬の新型コロナ感染拡大の波を改良ワクチンなしで迎えることになったかもしれないと、FDAのロバート・カリフ長官は記者会見で述べた。モデルナ社とファイザー・ビオンテック社は現在、改良ワクチンの安全性と有効性を検証するためのヒト治験を実施しているが、カリフ氏は対象者に対してすぐに接種を受けるよう勧めている。

文=PRIYANKA RUNWAL/訳=杉元拓斗(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年9月13日公開)

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