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コロナの新たな変異型「ミュー型」、危険度は?

ナショナル ジオグラフィック

新型コロナウイルスの新たな変異型の1つであるミュー型は、今年1月にコロンビアで最初に確認された。ウイルス情報のデータベースであるGISAIDによると、9月13日現在、ミュー型は48カ国で確認されているが、米国や日本で猛威を振るっているデルタ型ほどの感染力はないようだ。実際、米国におけるミュー型の割合は6月末にピークに達し、その後は着実に減少している。

しかしコロンビアではミュー型は瞬く間に主流となり、患者の3分の1を超えた。世界保健機関(WHO)は警戒を要する変異型にギリシャ語のアルファベットの名をつけており、ミュー型は8月30日にその12番目として命名され、同時に「注目すべき変異型」に分類された。

12の変異型は、危険度の順に「懸念される変異型(VOC)」「注目すべき変異型(VOI)」「さらなる監視のための警告」の3つに分類されている。

最も危険な「懸念される変異型」に該当するのは、現在世界中で大流行しているデルタ型のほか、アルファ型、ベータ型、ガンマ型の4つだが、ミュー型のような「注目すべき変異型」も心配がないとは言えない。たとえば、東京大学医科学研究所の佐藤佳氏らが査読前の論文を投稿する「bioRxiv」に9月7日付けで発表した研究結果によると、ミュー型のスパイクタンパク質をもつ疑似ウイルスでは、ワクチンによって得られた中和抗体の効果が従来型の7分の1以下だった。

ベルギーにあるルーベン・カトリック大学の進化生物学者で生物統計学者でもあるトム・ウェンセラーズ氏は、一方でアメリカのようにすでにデルタ型が主流となっている地域では、ミュー型がデルタ型に取って代わる可能性は低いと考えている。

ミュー型について現在わかっていること

遺伝子解析から、ミュー型のスパイクタンパク質には主な変異が8つあり、その多くが4つの「懸念される変異型」にもあることがわかっている。E484Kという変異はベータ型とガンマ型にもあり、ベータ型とガンマ型ではそのせいでmRNAワクチンによる抗体の有効性が低下し、1回接種に対する耐性が高くなりうることが、医学誌「The Lancet Microbe」に7月1日付けで発表されている。

「懸念される変異型」にはなかった変異もミュー型にはある。たとえばその1つであるR346K変異は、抗体とスパイクタンパク質との相互作用を阻害するため、ウイルスが逃げやすくなるのではないかと推測されていた。

9月7日付けで「medRxiv」に発表された感染症数理モデルを用いた研究では、ミュー型は従来型と比べて最大で約2倍広がりやすく、2021年5月にコロンビアのボゴタで多数の死者が出た原因になったと推定されている。この研究はまだ査読前だが、従来型に感染したことで獲得された免疫をミュー型は37%回避しうることも示唆されている。

既存のワクチンによって誘導された抗体が、ミュー型に対しては効果が弱いことを示す証拠は集まりはじめている。先に述べたように、ミュー型のスパイクタンパク質をもつ疑似ウイルスは、新型コロナウイルス感染症から回復した人や、ファイザー社のワクチン接種を受けた人の中和抗体の影響を受けにくかった。また、ミュー型の疑似ウイルスは、現時点で知られている警戒すべき変異型と比べても、中和抗体への耐性が最も高かったという。

医学誌「Journal of Medical Virology」に7月30日付けで掲載された別の論文では、ワクチンの効果は十分に高いとしつつも、ファイザー社のワクチンによる抗体がミュー型を中和する効果は、ほかの変異型の場合より低いことが確認されている。

一方で、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、9月2日にホワイトハウスで行われた記者会見で、「ミュー型には、モノクローナル抗体だけでなく、ワクチンや回復期血清による抗体からも逃れられることを示唆する変異がいくつかありますが、それを示す臨床データは多くありません。ほとんどが実験室で得られたデータなのです」と述べている。

「現時点では、ミュー型が新型コロナウイルスの重大な変化と関連していることを示唆する証拠はありません」と、コロンビア感染症協会のアルフォンソ・ロドリゲス・モラレス会長は語る。

またロドリゲス・モラレス氏によると、コロンビアで使用されている各種の新型コロナワクチン(ファイザー、アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソン、シノバック製)は、ミュー型に対しても良好な予防効果があるようだ。

実際にどこまで広がり、どんな影響があるのか?

エクアドルにあるサンフランシスコ・デ・キト大学の微生物学者パウル・カルデナス氏によると、ミュー型は南米で急速に拡大したが、どこまで広がっているかをはっきりと知ることは難しいという。

「変異型を決定するための、南米から提供される新型コロナウイルスの遺伝子解析の情報量が、感染者数に比べて非常に少ないからです」とカルデナス氏は言う。世界の新型コロナウイルス感染者の25%が南米諸国で発生しているにもかかわらず、南米では全陽性患者の0.07%の遺伝子しか解析されていない。ちなみに、米国では全陽性患者の1.5%、英国では9.3%の遺伝子が解析されている。

ロドリゲス・モラレス氏は、「南米では遺伝情報の解析能力に限界があるため、変異型の分布の実態を十分に把握できません」と言う。

とはいえ、2月下旬からミュー型が広がっているコロンビアを除けば、ほかの南米諸国を含め全世界のミュー型の割合は比較的低く抑えられている。

「限られた地域で流行しているラムダ型などと同様、ミュー型に関する新しい知見はなかなか出てきません。追跡研究の能力に限りがある上、デルタ型などとは違い、これらの変異型は豊かな国の重大な脅威になっていないからです」と、ペルー、カジェタノ・エレディア大学の微生物学者であるパブロ・ツカヤマ氏は言う。氏は、今回WHOがミュー型を「注目すべき変異型」に指定したことで、この状況が変わることを期待している。

文=Sanjay Mishra/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2021年9月13日公開)

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