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コロナ感染後の睡眠障害、報告相次ぐ なぜ? 改善策は?

ナショナルジオグラフィック

米カリフォルニア州サンディエゴに住むエリカ・ソーンズさんは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まったばかりのころに感染し、軽症となった。それから1カ月半後、毎夜午前2時か3時ごろに目が覚めるようになった。眠れないので、ポッドキャストを聞いたり、読書したり、ツイッターを見たりしていると、4時か5時ごろにようやくうとうとするようになる。10代の子どもが3人いるソーンズさんだが、それから2年以上たった今も、眠れぬ夜に苦しめられている。

近ごろ感染した夫にも同じような症状が現れ、毎日午前3時ごろに突然目が覚めるようになった。検査で陽性反応が出なくなると睡眠は改善したが、それまでの間は深刻だった。「とてもショックを受けていました」とソーンズさんは話す。「私が目を覚ますことは知っていましたが、眠れないことがそこまでつらいとは思っていなかったようです」

悪夢を見る。何日も眠れない。夜中にパニックになって目を覚ます。1日に18時間も寝てしまう。新型コロナの世界的な流行とともに、睡眠障害の報告も増えている。そういった症状は感染中だけでなく、その後も何週間、何カ月と続くこともある。

新型コロナと睡眠の関係はまだ解明されているわけではない。だが、一般論として細菌やウイルスに感染すると身体的・心理的に睡眠が妨げられることは、研究によってわかっている。専門家は、新型コロナウイルスが睡眠を乱す可能性を認識しておけば、必要なときに治療を受けることができると述べている。

程度により逆転する免疫系の睡眠への影響

睡眠と免疫系が密接に関わり合っていること自体はよく知られているが、詳しい中身は謎のままだ。十分な休息をとれば感染に強くなるということは、人類が数千年前から経験的に知っていることであり、証拠もある。一方で、感染症は睡眠を乱すこともある。ただし、その仕組みは複雑だ。

動物実験では、ウイルスや細菌によって睡眠の量(時間)も質も変化することが明らかになっていると、スウェーデン、ストックホルム大学ストレス研究所の睡眠研究室を率いるヨーン・アクセルソン氏は説明する。ウサギやげっ歯類に中等量の細菌やウイルスを注射すると、睡眠時間が増えた。質の面では、深い安眠状態を表し、回復にとって重要だと考えられているノンレム睡眠が増え、よく夢を見るレム睡眠は減った。

アクセルソン氏によると、そこで重要な役割を果たしていると考えられているのが、炎症を誘発したり抑制したりする「サイトカイン」という物質だ。健康な動物を睡眠不足にさせると、脳内で一部の炎症性サイトカインの濃度が上昇し、通常より睡眠時間が増える。一方、それらのサイトカインを無力化すると、睡眠不足であっても睡眠時間は増えなくなる。

ヒトでこのような実験を行うのは動物より難しく、疾患による睡眠の変化を調べた結果もさまざまだ。ただし、少なくともある程度は、他の動物と同じように、炎症分子が睡眠に影響を与えていることは確かなようだ。1990年代と2000年代初期にトーマス・ポルメヒャー氏らが、細菌の細胞壁に含まれる「内毒素(エンドトキシン)」をヒトに微量注射する実験を行ったところ、免疫系がわずかに活性化し、深いノンレム睡眠をよくとれるようになった。

ただし、サイトカインの濃度がさらに上昇し、疾病の症状が出て免疫系が活発になると、ヒトは眠りが妨げられることが多い。これは、動物ではあまり見られない。「炎症系によって睡眠は促進されますが、熱が出れば眠れなくなります」とアクセルソン氏は話す。

呼吸器感染症がヒトの睡眠に与える影響を調べるため、アクセルソン氏らは100人の健康な大人を集めた。被験者は、呼吸器感染症の症状が出始めたら、毎日詳しい睡眠日記を付けるとともに、手首に睡眠を記録する活動量計を装着した。調査期間中、100人の被験者のうち28人が感染した。その結果、症状の発症後に睡眠時間が増える傾向が見られ、2019年に学術誌「Brain, Behavior, and Immunity」で報告された。

ただし、それは安眠ではなかった。感染者は眠りにつきにくく、より頻繁に目を覚まし、症状が厳しいほど睡眠が浅かった。症状が和らぐと、睡眠も改善した。

新型コロナの多くの個別事例でも、同じようなパターンが見られる。最初のうちは睡眠時間が増え、症状がもっとも厳しい時期になると、不眠などの睡眠障害に悩まされる。アクセルソン氏は、症状の出始めにもっと眠るための生理学的な推進力が働くのは、体が侵入者と戦うのを助けるためかもしれないと考えている。

なぜ新型コロナ回復後も睡眠障害が続くのか

新型コロナに感染後に検査で陰性判定が出るようになっても、多くの人は睡眠障害を経験し続ける。その割合を知るための調査が、米オハイオ州にあるクリーブランド・クリニックで実施された。対象者は、2021年2月から2022年4月までの間に同クリニックの新型コロナ長期患者専門診療室を受診した682人の新型コロナ後遺症患者だ。

すると、41%の患者が感染後最大6カ月にわたって中程度以上の、7%が重度の睡眠障害があったと回答した。黒人患者は被験者の12%だったが、他のグループより睡眠の問題が3倍も多かった。こうした差異はパンデミックの間に一貫して見られる傾向と同じだと、この結果を2022年5月25日付けで学術誌「Sleep」に筆頭著者として報告した睡眠専門家のシンシア・ペーニャ・オルベア氏は指摘する。

また、米ハーバード大学医学大学院で精神神経免疫学を研究しているモニカ・ハーク氏によると、新型コロナ感染後の過眠症(ナルコレプシー)、過度の眠気、睡眠中に蹴ったり話したりなどする夢の行動化といった症状も報告されている。

ペーニャ・オルベア氏の研究から示唆されるのは、睡眠の問題を引き起こすという点で、新型コロナ後遺症は他の慢性疾患と同じであることだ。HIV(エイズウイルス)感染者の約60%と、C型肝炎患者の50%以上が睡眠障害を経験する。筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の患者も同様だ。炎症性腸疾患や関節リウマチなどの免疫不全による炎症関連の疾病でも、不眠の症状が現れることが多い。

ハーク氏は、睡眠障害と免疫系との関連性について詳しく調べている。まもなく発表される研究では、24人の健康な人の睡眠を妨げたところ、炎症を長引かせる分子が多く産生され、通常であれば炎症を止めるはずの分子が抑制されることがわかった。その後、3回ぐっすり眠った後も炎症が続いたことから、常に質のよい睡眠をとることの重要性がうかがえる。

以上の証拠は、睡眠不足は新型コロナの急性疾患および後遺症に伴うさまざまな症状を発症または悪化させうることを示唆している。例えば、うつや疲労、頭の中に霧がかかったようになる「ブレインフォグ」などだ。こういった症状は、さらなる睡眠の困難につながる。不眠症や睡眠時無呼吸といった睡眠障害は「常に双方向です」とハーク氏は話す。「睡眠の質や深さ、連続性、規則性を低下させるし、通常の睡眠で得られる免疫支援機能を弱めます」

新型コロナ関連睡眠障害の治療薬は?

将来的には、サイトカインのレベルを調整して睡眠を改善する薬を開発できる可能性があると、睡眠の生化学に詳しい米ワシントン州立大学スポケーン校のジェームズ・クルーガー氏は説明する。ただし、サイトカインと睡眠との関係は非常に複雑なので、一筋縄ではいかないだろう。低濃度の炎症性サイトカインは睡眠を促進させるが、濃度が高くなると不眠や睡眠の断片化につながる。非炎症性サイトカインは、低濃度でも睡眠を阻害する。

クルーガー氏によると、免疫系などの制御には数百種類のタンパク質が関わっている。新型コロナなどの感染症は、この相互作用に影響を与える。そういった分子に標的を定める方法は、まだ確立していない。「ここ数年で、睡眠などの複雑な脳の動作に作用する新薬が開発されています。そういった薬が従来の薬よりも有効かどうかを判断するには、まだ時間が必要です」

新型コロナ感染後に睡眠を改善するには

ハーク氏によれば、新型コロナ感染中や感染後の睡眠を改善する第一歩は、睡眠の重要性を意識することだ。例えば、オピオイドなどの睡眠を妨げる薬は避ける、光や音を減らす、入院中の人を繰り返し起こさないなどだ。

アクセルソン氏は、就寝時間と起床時間をそろえて規則的な睡眠をとることも、不眠症の治療でよく行われると言う。睡眠効率を上げるため、ベッドに入る時間を制限したり、目覚めたまま横になる時間を減らしたりする方法もある。

ハーク氏が勧めるのは、マインドフルネスのアプリを使ってストレスや心配ごとを減らすことだ。ペーニャ・オルベア氏は、認知行動療法(CBT)が新型コロナ後遺症患者に有効だと感じている。「脳が過度の覚醒状態にあるのが不眠症です。その精神状態をリセットするのです」

アクセルソン氏によると、病気のために外出を控えている人にとっては、体を動かしたり、新鮮な空気を吸ったりすることも有効な場合がある。ただし、新型コロナ後遺症患者の場合は、運動が深刻な逆効果を招くことも多いので、睡眠の問題が続くときは、個別に治療を受けた方がいい。

ハーク氏はこのように話している。「急性の新型コロナ感染症では、痛み、せき、鼻づまりといった症状が出るので、睡眠障害を伴うのはごく普通のことです。こういった症状が改善した後も睡眠障害が続く場合や、別の症状が現れた場合は、治療を受けるようにしてください」

文=EMILY SOHN/訳=鈴木和博(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年11月14日公開)

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