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オミクロン型別系統が急増、なぜ「ステルス」 危険度は

ナショナル ジオグラフィック

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現在、これまでとは別系統の新たなオミクロン型が世界で急増しつつある。「ステルスオミクロン」と呼ばれるこのウイルスは、国際的な分類法ではオミクロン型(B.1.1.529)の「BA.2系統」という名称で、従来のオミクロン型(BA.1系統)よりも感染力が強く、そしておそらく高い免疫回避能力を備えている。そのため、専門家は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)をさらに長引かせるおそれがあると懸念している。

多くの国で、BA.2はBA.1と入れ替わりはじめている。1月末から1日の新規感染者数が5万人を超える日も出てきたデンマークでは、現在BA.2系統が優勢だ。インドとフィリピンの一部でも、BA.2がオミクロン型の主流になっているようだ。米国ではすでに半数以上の州で約250人の感染者が確認されている。

世界保健機関(WHO)はまだBA.2を明確な「懸念される変異型(VOC)」とは考えていないが、その広まりを引き続き監視している。スイス、バーゼル大学バイオセンターのバイオインフォマティクス研究者であるコーネリウス・レーマー氏によると、BA.2系統はBA.1系統と同時期に共通の祖先から生じた可能性が高く、「子孫」ではなく「兄弟」であるという。

「BA.1が先に優勢になったのは先に広まったからにすぎず、ここにきてBA.2が追いついてきたということでしょう」と推測するのは、米フレッド・ハッチンソンがん研究センターの進化ウイルス学者で、米ハワード・ヒューズ医学研究所の研究員でもあるジェシー・ブルーム氏だ。

BA.2が「ステルスオミクロン」とも呼ばれるのは、一部の国でオミクロン型とデルタ型などを見分ける目印にしていたスパイクタンパク質の変異がないからだ。BA.1系統ではスパイクタンパク質から2個のアミノ酸が失われた部分があり、比較的検出しやすい変異のためデルタ型と区別するのに使っていた国があった。だが、BA.2系統ではこの変異が生じていない。ゆえに「ステルス」であり、BA.2が注目されてこなかった理由の1つかもしれない。

実は、オミクロン型のBA.1系統とBA.2系統との進化的隔たりは、もとの新型コロナウイルスと最初のVOCであるアルファ型との隔たりよりも大きい。進化遺伝学者でイスラエル、中央ウイルス学研究所の顧問であるシャイ・フレイション氏は、「BA.2にはBA.1と共通の変異が30カ所以上ありますが、独自の変異も28カ所あります」と説明する。

このことは、BA.1とBA.2の共通の祖先がかなり前から広まっていて、別々の系統に進化した後、たまたまBA.1が先に発見されたことを示唆している。

従来の系統とはどこが違う?

BA.2系統とBA.1系統の違いの多くは、ウイルスがヒトの細胞に結合して感染するために使うスパイクタンパク質という部分にある。

デンマーク国立血清研究所が発表した初期の推定では、BA.2の感染力はBA.1より約33%強いとされている。この研究では、12月下旬から1月上旬にかけて8541世帯で新型コロナの家庭内感染の状況を調べた。結果、そのうちの約4分の1がBA.2系統に感染していて、ワクチン接種を済ませた人でもBA.1系統よりもBA.2系統に感染しやすいというデータが示された。なお、この結果は1月30日付けで査読前の論文を投稿する「medRxiv」にも発表されている。

英国保健安全保障庁(HSA)もデンマーク同様、BA.2系統の感染力はBA.1系統より約30%強いという推定を1月28日付けで発表している。

ブルーム氏は、コンピューターモデルと実験的手法を組み合わせて新型コロナウイルスの進化を研究し、特定の変異が感染にどのような影響を及ぼすかを解明しようと取り組んでいるが、BA.2の感染しやすさの遺伝学的根拠はまだわからないと言う。

良いニュースもある。専門家は、BA.2が重症患者を急増させる可能性は低いと推測している。

1月11日付けで「medRxiv」に発表された未査読の別の論文では、BA.1系統のオミクロン型は、以前の変異型、特にデルタ型に比べると重症化しにくいことが示されている。南カリフォルニアの5万2297人のオミクロン型感染者のうち、入院する必要があったのはわずか0.5%だった。

BA.2系統は、BA.1系統とはかなり異なるように見えるが、現時点では、以前の変異型よりも重症化しやすいという証拠はない。デンマークのデータでは、BA.1系統とBA.2系統で入院リスクに差はないとされている。WHOは、BA.2が広まりつつあるほかの国々でも、入院患者数が予想以上に増えているわけではないと報告している。

「BA.1系統への感染によって誘導される抗体は、BA.2系統をかなりよく中和すると予想されます。この2つの系統のオミクロン型は結合領域が比較的似ているからです」とブルーム氏は言い、BA.1系統の大波に見舞われたばかりの地域に新たにBA.2系統の大波が押し寄せることはないだろうと考えている。

現行のワクチンの効果は?

現行のワクチンのBA.2系統に対する効果は、BA.1系統に対する効果と比べてどうなのだろう? 

予備的な研究のデータはまちまちで、専門家はブレイクスルー感染が増えるのではないかと懸念している。ちなみに、BA.1は免疫回避能力が非常に高いことがわかっている。また、BA.1に対するファイザーのmRNAワクチンの2回接種の効果は低く、3回目の接種でやや高くなる程度であることもわかっている。

英HSAは、既存のワクチンの発症予防効果はBA.2やBA.1に対しても同等と1月28日に発表したが、彼らのデータは比較的少数の症例に基づいている。この調査では、2回目のワクチン接種から2週間後にブースター接種を行った場合、BA.1の発症を予防する効果は63%、BA.2に対しては70%であるとした。

英HSAが1月26日に発表したBA.2系統のリスク評価によれば、実験室で合成したコロナウイルスを用いた予備的な研究では、ワクチン接種を済ませた人の血液から採取した中和抗体が、BA.1もBA.2も同じくらい中和できることが示されている。また、ブルーム氏らは、BA.2に特異的な変異に基づくモデル研究を行い、BA.2がワクチンにより誘導された抗体を回避する能力はBA.1には及ばないと予測している。

一方、より多くの症例サンプルに基づくデンマークの研究データは、BA.2の免疫回避能力がBA.1よりもさらに高いことを示唆している。

今のところ、実世界でのデータが十分に集まるまでは、確かなことを言うのは難しい。「BA.2については、まだ直接の実験的測定が行われていません」とブルーム氏は言う。「近いうちに、もっと多くのことが明らかになるでしょう」

文=SANJAY MISHRA/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年2月7日公開)

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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