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女性が妊娠する能力は35歳で本当に急降下するのか?

ナショナルジオグラフィック

「女性が妊娠を希望する平均年齢は着実に上がっています」と言うのは、米ノースウェスタン大学医学部の不妊治療・生殖医療センターの生殖内分泌学者タルン・ジェイン氏だ。なぜなら、受胎能力(妊娠する能力)がピークに達したとき、女性は自分のキャリアに集中していたり、適切なパートナーと家庭を持つ準備ができていなかったりすることが多いからだ。

その一方、「年齢とともに受胎能力が低下することを知り、とても驚く女性が多くいます」とジェイン氏は言う。女性が年をとるにつれ、「受胎能力は低下し、流産率も上昇し、さらには先天性欠損症(出生時に存在する障害)が生じる確率が上昇します。女性が年をとればとるほど、よりつらい道のりになるのです」と氏は補足する。

現実はこうだ。米産婦人科学会(ACOG)によると、女性の受胎能力は10代後半〜20代後半にかけてピークに達する。30歳になると、女性の受胎能力は低下し始め、35歳を過ぎると、低下のスピードが速くなる。具体的に言うと、30歳未満は1年以内に妊娠する確率が85%あり、30歳では75%、35歳では66%、40歳になると44%まで低下することが、2020年1月に学術誌「Upsala Journal of Medical Sciences」に掲載された研究で分かっている。

「受胎能力は連続体です」。つまり、徐々に下ってゆく坂道なのだと、生殖内分泌学者で、米エール大学の産婦人科医であるサンドラ・アン・カーソン氏は説明する。

卵子の減少が加速し、質も低下

女性が生まれた時点で、卵巣の中にある卵子の数は決まっている。その数は約100万〜200万個だ。思春期になると、30万〜50万個に減少し、その後は減少の一途をたどる。女性は毎月月経がくるたびに、卵子を失う。「1回の月経で1個の卵子を失うと思っている女性は多いですが、1回の月経で10〜20個の卵子を失っています」とジェイン氏は言う。

精子と受精できるのは、排卵期に卵巣から成熟した卵子1個が放出されてから12〜24時間以内だ。「残り(9〜19個)の卵子はアポトーシスと呼ばれるプロセスで死滅します」とジェイン氏は説明する。アポトーシスは生物学的にプログラムされた細胞死のことで、人間の卵巣機能にもともと備わっている。女性が37歳になる頃には、卵子の数は2万5000個に減り、米国の平均閉経年齢である51歳になると、卵巣に残っている卵子の数はせいぜい1000個くらいまで減る。

「卵子の減少は加齢の一部です。つまり、年をとるにつれ、シワが増え、新陳代謝が低下するとともに、卵子を失い続けるのです」と、米オハイオ州立大学の産婦人科医R・ケイト・バイロン氏は言う。

しかし、問題は卵子の数だけではない。卵子の質も関わっている。なぜなら、45歳か50歳になると、卵巣に残っている卵子の大半に染色体異常があるからだと、米ニューイングランド不妊治療センターの生殖内分泌学者で、不妊治療の専門家であるジョセフ・ヒル氏は説明する。

「染色体異常の卵子はほとんどが受精できません。受精できても、子宮に着床できる胚に成長できないことがほとんどです。着床しても、70%が最初の11週間以内で流産してしまいます」

実際、染色体が正常な卵子の数は、女性の年齢が上がるにつれて減ると、カーソン氏は指摘する。年をとるにつれ、遺伝的に異常な卵子の数が増え、毎月の排卵後に、残りの卵子に異常がある割合が高くなるのだ。

対照的に、男性は年齢が上がるにつれ、生殖能力が大きく低下することはない。年をとると精子の質がある程度低下するのは事実だが、男性は新しい精子をつくり続けており、基本的に白紙の状態だ。米生殖医学会(ASRM)によれば、「男性が父親になる年齢に上限はない」のだという。

「とても不公平です。男性は年齢とともに勃起不全になることが多いのに、生殖能力はあまり変わりません。一方、女性は年齢とともに性欲は高まる傾向があるのに、妊娠しにくくなるなんて」と、ASRMの元会長であるカーソン氏は言う。

喫煙・飲酒・肥満・性感染症・その他の疾患も

年齢だけでなく、遺伝的要因も卵子の減少速度に影響を及ぼすかもしれない。「残りの卵子が他の女性よりも速く減少する女性がいます」とジェイン氏は指摘する。「おそらく何らかの生物学的なプログラミングが関係しているのでしょう」。一方、「子宮は老化しません。老化するのは卵巣だけです。だから、高齢の女性でも他の人から卵子を提供してもらえば、妊娠できるのです」と氏は補足する。

さらに、生活習慣の要因や、農薬に含まれる環境有害物質やプラスチックに含まれるビスフェノールAなどの化学物質、さらには特定の疾患が、卵子の質に影響を与える可能性がある。「女性の年齢が上がるにつれ、蓄えられている卵子に対し、生活習慣の要因や生殖機能を害する毒素がダメージを与える時間も長くなります」とカーソン氏は言う。

喫煙は、卵子に害を及ぼし、卵子を早期に損傷させる生活習慣の一つだ。そのため、喫煙者は非喫煙者よりも早く閉経することが多いと、ヒル氏は指摘する。2022年12月13日付けで学術誌「PLOS ONE」に掲載された研究では、ヘビースモーカー(1日にたばこを10本以上吸う)あるいは長期喫煙者の女性は、卵巣予備能(卵巣に残っている卵子の数や質)の低下リスクが高いことが分かった。つまり、卵子の量と質が年齢に対して予想される状態よりも低くなったのだ。

また、2016年8月に医学誌「BMJ」に掲載された研究では、21〜45歳の女性のうち、アルコール摂取量が非常に多い(週に14杯以上)女性は、1年間で妊娠する確率が18%減少することが分かった。

肥満も女性の受胎能力に悪影響を及ぼす可能性がある。米国とカナダに住む妊娠可能な年齢の女性2062人を対象とした研究によると、肥満度指数(BMI)が35〜39の女性は、健康なBMI(18.5〜24)の女性に比べ、1回の月経周期で妊娠する確率が22%低かった。また、BMIが40〜44の女性は39%、BMIが45以上の女性は58%も低下した。「体重があまりにも増えすぎると、卵子の質や着床に影響を与える炎症反応が起こります」とヒル氏は説明する。

卵子の質とは関係のない他の要因も、女性の受胎能力を低下させる可能性がある。クラミジアや淋病などの性感染症にかかったことがある場合、卵管に詰まりや傷痕ができることで、受胎能力が低下することがあるとバイロン氏は指摘する。そのため、コンドームを使用することや、性的パートナーの数を制限することが重要だと専門家は言う。

排卵を阻害するホルモン異常も、受胎能力を低下させる場合がある。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、アンドロゲンという男性ホルモンの値が通常より高くなり、肥満やインスリン抵抗性を伴うことが多い疾患で、不妊症の原因になることがある。また、子宮内膜症(子宮内膜に似た組織が子宮の外側にできる)も不妊症の原因になりうる。

子宮筋腫(筋肉と繊維組織の良性腫瘍が子宮内にできる)も流産のリスクを高めることがあるとバイロン氏は言う。もし、がん治療の一環として、化学療法や骨盤への放射線照射を受けている場合、卵巣が影響を受け、排卵が止まってしまう可能性があるとジェイン氏は指摘する。

「多くの女性は、不妊が様々な要因によって引き起こされることを理解していません」とバイロン氏は言う。卵子の健康状態に関して言えば、年齢が上がるほど、女性の受胎能力は著しく低下する。だからこそ、35歳になる前に妊娠のプランを考えることが重要だとバイロン氏は言う。「時間が一番重要です」

カーソン氏は「できれば35歳になる前に妊娠を試みるか、それが無理なら、卵子の凍結保存を考えてください」と助言する。凍結保存することで、卵子の時間を止めることが目的だ。凍結保存した卵子を使って妊娠を希望する場合は、体外受精した受精卵を子宮に戻すことになる。

文=STACEY COLINO/訳=杉元拓斗(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年2月12日公開)

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