/

黒井千次が15年ぶり短編集 「現在」として老いを書く

2006年に野間文芸賞を受賞した「一日 夢の柵」以来、短編集としては15年ぶりとなる「枝の家」(文芸春秋)を刊行した。「我ながら久しぶりだなとびっくりしてしまった」と笑う。

15年の間に74歳から89歳に年を重ねた。「年相応に『円熟』するのではなくて『現在』そのものを老いという形でつかみたい」。その言葉どおり、作中の老人たちの日々にあるのは、懐古の情とは異なる。今に関心を向ける中で、過ぎた時間が重層的な広がりを見せ、日常の裂け目が顔をのぞかせる。

8作を収録し、家にまつわる3作が巻頭から発表順に並ぶ。住所録を家に見立てた14年の「紙の家」。続く「枝の家」は老夫婦の家に置かれた奇妙な鉢植えを巡る幻想的な小説だ。今年発表の「次の家」は当初、「石の家」を書く予定だったという。「でも『石の家』を自然に考えたら、お墓になっちゃう。当たり前で面白くない」。自分でなければ書けないものを考えたときに「何が強みで価値があるかといえば結局、生きてきた歳月、体験」だと感じた。「体験は、持っていない人は過去から拾おうとしても拾えない」

そんな思いで拾い上げた「体験」は、重機関銃の振動と轟音(ごうおん)が響いた子どもの時分の家と、台所に自転車がはみ出した戦後の二軒長屋の記憶。そこに、キッチンの工事をしている現在を重ねた。「家を移りゆき、その先へ入っていく世界を今の暮らしのなかで想像する」作品として「次の家」が生まれた。

「老いの筆に、独自のものがなければつまらない。それを手放さず、小さなしずくを絞り出して紙の上にしたたらす気持ちで、短編を書いていけたらいい」。(くろい・せんじ=作家)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン