コロナ派生型「XBB.1.5」 いま分かっていること
ナショナルジオグラフィック

極めて感染力の強いオミクロン型の亜系統「XBB.1.5」は現在、米国で支配的な株となっている。初期のデータは、以前に獲得した免疫をXBB.1.5がほかの変異型より効果的に逃れていることを示しており、公衆衛生当局者の間では、冬の間に感染の波が起こるのではないかとの懸念が高まっている。
2022年12月から2023年1月の第一週までに、XBB.1.5の割合は、米国全土で確認された新型コロナウイルス感染症の陽性例の約1%から40%以上にまで急増した。北東部の州では、12月25日からの1週間における全症例の75%以上をXBB.1.5が占めた。一方で、この株がより重症化するかどうかを示すデータはまだ存在しない。
「XBB.1.5はこれまでに見つかった中でもっとも感染力の強い変異型です」。世界保健機関(WHO)の新型コロナ感染症対応技術責任者であるマリア・バン・ケルクホーブ氏は記者会見でそう述べている。科学者らの推測によると、XBB.1.5はその親系統やそれまで急速に増えていたBQ.1系統より、感染者を60%多く発生させる可能性があるという。
XBB.1.5は2022年10月末に米国のニューヨーク州とコネチカット州で初めて検出されたが、それ以降、少なくとも29カ国で見つかっている。現在の全世界の症例でみると5%に満たないものの、おそらくは8〜15日間で倍増しており、これまででもっとも拡大の早い亜系統となると見られている。
実際のところ、XBB.1.5はこれよりもはるかに広い範囲に蔓延している可能性があると、ケルクホーブ氏は言う。なぜなら、新型コロナウイルスを監視するゲノム解析の取り組みが世界中で減少しており、状況を判断するのが難しいからだ。
XBB.1.5はどこから来たのか
XBB.1.5は、XBB株(オミクロンBA.2の異なる系統が融合したもの)から派生したXBB.1株に由来する。XBBとXBB.1(2022年10〜11月にかけてアジア各地で患者を急増させた株)は、過去の感染によって得られた免疫や、オミクロン型対応ワクチンをうまく回避できたと、2022年12月19日付けで学術誌「Nature」誌に発表された報告にはある。XBBはシンガポールにおいて、入院率こそ低くとどまったものの、多数のブレイクスルー感染と再感染を引き起こした。
XBB.1.5はどこが違うのか
XBB.1.5変異型は、ウイルスがヒトの細胞と結びつく際に使うスパイクタンパク質の486という位置に新たな変異をもつ。数学的モデルは以前から、この位置に変異が起こると過去の抗体を回避できるようになると示唆していた。どうやらその予想は正しかったようだ。
「この変異は、XBB.1の極めて高い免疫回避能力を維持しつつ、より高いACE2結合能をもたらします」。中国北京大学の曹雲龍(カオ・ユンロン)氏は、査読前の論文を投稿するサイト「bioRxiv」に発表したXBB.1.5の感染力に関する自身の予備的研究に基づいてそう述べている。
曹氏の予備的研究ではまた、エバシェルドやベブテロビマブといった一部のモノクローナル抗体薬はXBB.1.5をブロックできない一方で、ソトロビマブは弱い防御効果を発揮することが示されている。
オミクロン型対応2価ワクチンの効果は?
現在の2価ワクチンは、以前のオミクロン型BA.4とBA.5および最初に流行した起源株を標的としている。これがXBB.1.5 に対する予防効果をどの程度発揮するかについては、まだ判断できる時期に至っていない。しかし、米エモリー大学医学部の免疫学者ミフル・スター氏が主導したXBB.1.5の親株であるXBBについて医学誌「The New England Journal of Medicine」に2022年12月21日付けで発表した研究は、2価ワクチンを追加接種した人や最近オミクロン変異型に感染した人は、中和抗体のレベルがわずかに高いことを示している。
2価ワクチンは、われわれの免疫をオミクロン変異型に対応させるという「想定通りに機能していると思われます」と、スター氏は述べている。スター氏によると、XBB.1.5株とそのほかのオミクロン型との類似性を鑑みるに、2価ワクチンはある程度の防御力を発揮すると推測されるという。一方で氏の研究は、2価ワクチンであってもXBB.1.5株のブレイクスルー感染を阻止できない可能性があることも示唆している。
米国疾病対策センター(CDC)は、2価ワクチンの追加接種によって、最新のデータが入手可能な2022年11月までに新型コロナで入院する患者を90%以上減らせたと推定している。この事実は、追加接種はたとえ感染を防げなくても、命を救う可能性はあることを示している。
データがない現状では「XBB.1.5の病原性についてはまだなんとも言えません」と、東京大学の佐藤佳氏は述べている。しかし、佐藤氏が2022年12月29日付けで「bioRxiv」に発表したXBBについての未査読の予備的研究では、これがBA.2.75やBA.2といったほかのオミクロン変異型よりもヒトの細胞に強く結合することがわかっており、より重篤な症状が引き起こされる可能性が示唆されている。一方で、XBBに感染させたハムスターが、BA.2.75への感染に比べて重症化するという証拠も見つからなかった。「この矛盾については、まだ適切な説明を見つけられていません」と佐藤氏は言う。
XBB.1.5でパンデミックはどうなる?
1月8日時点のCDCのデータによると、新型コロナで入院した米国の患者は7日間の平均で5.5%増えた。科学者らは、感染力の強いXBB.1.5は、たとえ重症化に寄与しないとしても、すでに3年間継続しているパンデミックに悪影響を及ぼすのではないかと考えている。患者が大幅に増加すれば、RSウイルス感染症やインフルエンザなどによってすでにリソースが足りなくなりつつある病院に大きな負担がかかることになる。
新型コロナによる合併症の影響をもっとも受けやすいのは65歳以上の人たちだ。しかし、これに該当する米国人のうち、2価ワクチンを追加接種したのは3人に1人よりもわずかに多い程度であり、XBB.1.5に対しては脆弱な状態が続いている。米国の人口全体でみれば、対象者の85%近くがまだ2価ワクチンの接種を受けていない。
「感染率が上がればたくさんの人が影響を受けます」と、ポルトガル、リスボンにある分子医学研究所の免疫学者マルク・ベルドホーン氏は言う。「感染が多ければ多いほどリスクは大きくなり、症状が出る可能性が高まります。そして残念ながら、感染率が高ければ、多くの弱い人々が感染して、入院する人も増えることになるのです」
文=SANJAY MISHRA/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年1月11日公開)
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