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春のダイヤ改正、鉄道各社の狙い 3都市圏で注目の開業

鉄道の達人 鉄道ジャーナリスト 梅原淳

年度末を迎える3月は鉄道会社各社の進めてきた設備投資がいよいよ目に見える形になる時期ともいえる。新線、新駅、新車、新列車……。長年の準備が実ったとき、各社はその成果を列車の時刻改正、いわゆるダイヤ改正によって世に問う。この春にはJRグループや私鉄で例外もあるが多くは18日にダイヤ改正が行われた。関心を集めたのは首都圏、京阪神圏、福岡圏の3都市圏での新規開業路線だ。それぞれ特徴を紹介していこう。

「相鉄・東急直通線」開業(3月18日)

本連載でも取り上げたとおり、相模鉄道の新横浜線羽沢横浜国大―新横浜間4.2キロメートルと東急電鉄の新横浜線新横浜―日吉間5.8キロメートルとを合わせた通称「相鉄・東急直通線」10.0キロメートルが18日に開業した。全線が地下区間となるこの路線の開業で相鉄と東急とがレールで結ばれ、相鉄側の本線といずみ野線と、東急側の東横線・目黒線との間で相互直通運転が開始されている。

相鉄・東急直通線の狙いは両社の路線接続による利便性向上だ。とりわけ相鉄にとっては都内方面へのアクセスが改善する。東急の東横線は渋谷駅で東京メトロ副都心線と、目黒線は目黒駅で東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線と相互直通運転を実施中だ。新宿、池袋、永田町、大手町といった都心部、さらには副都心線と相互直通運転を行っている東武鉄道東上線方面や西武鉄道西武有楽町線・池袋線方面、南北線と相互直通運転を行っている埼玉高速鉄道線方面へも行きやすくなった。

そして東海道新幹線の新横浜駅と相鉄本線・いずみ野線方面、東急東横線・目黒方面とを直結するのがもう一つの目的だ。従来は相鉄本線二俣川駅から新横浜駅まで横浜駅乗り換えで30分程度を要していたが、乗り換えなしで最短11分に短縮される。

東海道支線大阪駅(うめきたエリア)開業(3月18日)

西日本最大のターミナルである大阪駅に新たに東海道線の支線が乗り入れ、同時に地下駅の大阪駅(うめきたエリア)が開設された。実際は既存路線のルート変更だが、駅を含めて2.4キロメートルの区間が全く新しい地下線に切り替えられたので、事実上の新線といってよいだろう。

「うめきた」とは大阪駅北側に広がるJR貨物梅田貨物駅跡地の約24ヘクタールの都市再開発区域を指す。大阪駅に近い東側の区域は「グランフロント大阪」としてすでに開業している。西側に予定する「グラングリーン大阪」も2024年(令和6年)オープンを目指して急ピッチで工事が進む。

大阪駅(うめきたエリア)に乗り入れる東海道支線は以前から新大阪駅と大阪環状線の福島駅との間を結んでいる。しかし、線路はかつての貨物駅の北端に敷かれていて、大阪駅から一番近くても500メートルほど離れていた。おかげで、この区間を経由する関西空港アクセス特急「はるか」や紀勢線方面の特急「くろしお」は大阪駅に停車しようもない。この結果、関西空港は開港以来、大阪駅との間のアクセスに課題を残したままであった。

今回、東海道支線のルートを変更したのと同時に大阪駅(うめきたエリア)が開業した結果、大阪駅と関西空港との間のアクセスは大幅に改善されている。従来は途中停車駅の多い関空快速が直通していて、「はるか」利用の際は天王寺駅乗り換えで1時間7分ほどを要していたところ、「はるか」だけで最短47分で行けるようになったのだ。

これに加え、新大阪駅と関西線久宝寺駅とを結ぶJR西日本おおさか東線のすべての列車も新駅に乗り入れ、大阪駅から乗り換えなしで行ける範囲が広がった。

現在、JR西日本関西線のJR難波駅、南海電気鉄道南海本線・高野線の新今宮駅と大阪駅(うめきたエリア)とを結ぶ地下鉄のなにわ筋線が31年(令和13年)春の開業に向けて工事中だ。新駅には関西線や南海電鉄の列車の乗り入れが決まっている。

阪急電鉄はなにわ筋線に接続して大阪駅(うめきたエリア)と阪急の京都線・神戸線・宝塚線の十三駅との間を結ぶなにわ筋連絡線、そして十三駅と新大阪駅とを結ぶ新大阪連絡線の構想を立てているという。これらが実現すれば大阪駅(うめきたエリア)は既存の大阪駅と並ぶ一大ターミナルとなるだろう。

福岡市地下鉄七隈線天神南―博多間開業(3月27日)

福岡市地下鉄七隈線は福岡市西区のベッドタウンの中にある橋本駅と福岡市随一の繁華街にある天神南駅とを結ぶ12.0キロメートルの路線だ。山陽新幹線や九州新幹線の列車が発着する九州一のターミナル博多駅へは、天神南駅で同じ福岡市地下鉄空港線の天神駅に出て乗り換えればよい。けれども、天神南駅と天神駅とは地下街を介して約500メートル離れていて、乗り換えが不便だった。

そこで福岡市は七隈線を博多駅まで延ばす計画を立て、14年(平成26年)2月から工事に取りかかった。工事が進み、3月27日には天神南―博多間1.6キロメートルが開業の運びとなった。

新たに開業する区間には博多駅のほか、天神南駅から1.0キロメートル、博多駅から0.6キロメートルの場所にある櫛田神社前駅が開設される。櫛田神社前駅は都市再開発で誕生した複合商業施設「キャナルシティ博多」にも近く、開業で大いに恩恵を受ける場所の一つだ。

福岡市によると、天神南―博多間の事業費は約587億円だという。実際に建設された距離は1.4キロメートルで、1キロメートル当たりの事業費は400億円前後と大変高額になる。せっかく地下鉄を建設するのならば、今回のように空港線の南を並行するのではなく、地下鉄の空白地帯につくればよいと思う人もいるだろう。だが利用者にとっては博多駅とのアクセス利便性が向上する方が大事だという考え方もある。福岡市も経営上の判断を下し、博多駅乗り入れを選んだ。

私事ながら、筆者は福岡市地下鉄経営戦略懇話会の委員を務めている。23年1月に開催された会合では今回開業の区間が問題視されることはなかった。配布資料によると、七隈線は将来の課題としてさらなる延伸が検討されている。延伸するならば福岡空港まではどうかという参考意見も紹介された。

膨大な額の事業費は博多駅付近で16年(平成28年)11月8日に道路陥没事故を引き起こした点も影響している。博多駅周辺の地盤は複雑で、地下鉄の工事は慎重に進められていたが、それでも掘削した部分の上面が崩落したのだ。復旧に当たっては岩盤と同等の強固な地盤に改良し、再度工事が進められた。この事故の影響の他、労務単価や資材価格の上昇などもあり、事業費は予定されていた約450億円から約137億円も増えてしまっている。

ともあれ、その後は工事も順調に進み、当初予定された20年度中(令和2年度中)からは2年ほどの遅れで開業にこぎ着けることができそうだ。

今後も開業を控えた路線が

この春には間に合わなかったが、夏には宇都宮ライトレール宇都宮駅東口―芳賀・高根沢工業団地間、24年(令和6年)春には北陸新幹線金沢―敦賀間や北大阪急行電鉄南北線千里中央―箕面萱野間の開業も予想されている。ここにきて活発な動きを見せている国内の鉄道の動向に大いに期待したい。

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

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