コロナ禍で売れた5万円超のシルクパジャマ Foo Tokyo
NIKKEI The STYLE

5万円超のシルクパジャマを手掛ける新興ブランド「Foo Tokyo(フー トウキョウ)」が話題だ。自宅で過ごす時間が増す中、リラックスウエアのニーズが変わり、ワンランク上の着心地のよいパジャマを選ぶ人が増えた。長時間の移動や人前で着る需要を取り込み、リラックス時間を演出するブランドとして注目されている。
上品な光沢と滑らかで吸い付くような肌触り。高価なシルクのパジャマは専門メーカーが少なく、海外のブランドが手がけたものを百貨店などが寝具売り場で販売するのが一般的だった。
2018年から販売を始めた「Foo Tokyo」のシルクパジャマはインターネット通販で人気に火が付いた。手に取ることもできず、パジャマとしては高価ながら、購入者には20代の大学生など若い世代も目立つ。自分のものから、このところは「男性が女性への贈り物として買う人が目立っている」と同ブランドを立ち上げたネクストブランダーズ(東京都渋谷区)社長の桑原真明さん(33歳)は説明する。

同ブランドがパジャマに用いるのは「海外のラグジュアリーブランドと同等の生地です」と桑原さん。違いは「日本の縫製工場に依頼し、オートクチュールのように丁寧に仕上げている」点。例えば、裾の切り替え部分などには生地端が見えないように、包んで始末する「折り伏せ縫い」を施す。ベビー服などに用いられる縫い方で、肌に直接触れるときの凹凸感をなくすため、また、耐久性を高めるためだ。
デザインは桑原さんが手掛けている。トップスはわずかに裾が広がるAラインにし、ボトムスはワイドにシルエットを調整。部屋着にとどまらないスタイルアップ効果を意識している。
伊勢丹では21年3月からオンラインで販売し始め、三越伊勢丹個人外商グループのマネージャー、鵜篭(うごもり)威行さんが目に留めた。「これまで伊勢丹のパジャマの品ぞろえにはなかった価格帯だが潜在的な需要がある」と外商催事で紹介。ある高齢女性は水彩画のような柄のパジャマを「美しいと思うものを身につけ、気分を上げたい」と入院着として購入するなど上々の反響だった。
その鵜篭さんを通して桑原さんが依頼されたのは、双日が運営するビジネスジェットの航空会社「フェニックスジェット」の機内着だ。長時間のビジネスフライトのため、「機内でくつろげること、それでいてラフに見えないこと」という発注のもと、パジャマらしからぬダブル仕様のジャケット風のウエアを提案した。素材は生地の触り心地を考慮して品質の良いコットンとし、ブランドカラーの金とグレーの2色、ボタンやロゴの刺しゅうを特別にした。

パジャマの色や素材を増やし、ガウンなどウエアを広げて新作を出すうちに、さらに声がかかるように。10月15日に登場したのはJR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」の車内着だ。福岡の久留米絣(がすり)を素材に採用。絣は紺の印象も強いが、可能性を広げたいと色はベージュにした。車内のラウンジやサロンにも着て行ける「社交服としての部屋着」を目指し、襟をタキシードのようなショールカラーに、襟元には九州一周をイメージした赤いステッチを施した。SやMといったサイズは表示しない、着用時に違和感がないように首元のタグは着けないなどの工夫をした。
桑原さんに依頼が寄せられるのは「Foo Tokyo」が高級なリラックスウエアというニッチな分野を切り開いたからに他ならない。そもそも、なぜパジャマなのかとたずねると、桑原さんは「気に入ったものを自分で作ろうと思ったから」と説明する。桑原さんは前職で外資系証券会社のM&A(合併・買収)や新規株式公開(IPO)のアドバイザリー業務に従事。昼夜を分かたず働くなかで、自宅で過ごす時間は癒やされたい、気持ちのいいものに囲まれて過ごしたいとマットレスやまくらなどを探しまわったが、「パジャマだけは見つけられなかった」という。

岐阜県の養蚕が盛んな地域で育ち、縫製士だった祖母と糸を紡いだ。学生時代は古着屋でアルバイトをするなどもともとファッションや物づくりが好きだった。退職後、ファッションスクールに通い、起業時に「どこにどんなニーズがあり、なぜパジャマが必要なのか突き詰めた」。そして「何もしないことをラグジュアリーだと肯定すれば、自分のような者が救われるのでは」と考えた。「何もしない時間を持っていいと発信し、サポートできる商品を展開する」とコンセプトを定め、バスオイルやルームフレグランス、端材を使ったナイトキャップやアイマスクも展開する。
少々高価でもリラックス時間をラグジュアリーな気分で過ごしたいとのニーズは広がりを見せている。東京・六本木のセレクトショップ「リステア」からも依頼を受け、色など別注のシルクパジャマを提案した。クリスマスの期間限定を経て22年2月から本格的に販売を始め、その後も追加発注が続く。
21年から中国の高級百貨店「SKP北京」「SKP西安」で販売が始まり、今秋にも台湾へ出店する予定だ。「海外で発展させないとブランドは育たない。どうしたら日本の持つ技術を復興させられるか、工場が潤うかを考えています」。その目は世界を見据えている。
ライター 手柴史子
山田麻那美撮影
[NIKKEI The STYLE 2022年10月9日付]
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