米映画界の忘れられた女性監督作品を特集上映

米国の映画界では、その黎明(れいめい)期から女性監督が活躍したが、彼女たちの功績は今では忘れられたものとなっている。そんな5人の監督の計28作品をシネマヴェーラ渋谷(東京・渋谷)が特集上映中だ。世界初の女性監督といわれるアリス・ギイ(1873~1968年)の作品や日本初の劇場公開とされる作品もあり、貴重な機会といえそうだ。
映画の始まりはエジソンが発明した「キネトスコープ」と1895年に仏のリュミエール兄弟が開発したスクリーンに動く写真を投影する「シネマトグラフ」だ。その「シネマトグラフ」誕生後まもなく活躍したのが、パリ生まれで後に渡米したアリス・ギイだ。今回の特集では男女平等をコミカルに描いた「アメリカ市民の作り方」などサイレントの短編6本を併せて紹介する。
長編作の「ヴェニスの商人」を監督したロイス・ウェバー(1879~1939年)は中絶や死刑制度などに切り込んだ作品を発表、「汚点」などのヒット作もある。俳優から監督へ転身したドロシー・ダヴェンポート(1895~1977年)は薬物や売春問題などをテーマにした作品を撮った。ハリウッド黄金期に人気を博したのがドロシー・アーズナー(1897~1979年)。引退後には米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でフランシス・フォード・コッポラらを指導した経験もある。商業映画で成功を収めたアイダ・ルピノ(1918~95年)はレイプ問題から犯罪映画まで多様な作品を監督している。
上映されるのは1912年から53年までの公開作で、サイレントやモノクロのトーキー作品など。シネマヴェーラ渋谷の内藤由美子支配人は「映画がまだ新しい文化だった時代には女性が活躍する余地があった。だが、ハリウッドの隆盛とともに産業化されていくなかで、女性監督たちの才能は締め出されていった」と指摘。そのうえで、「今回の作品群には貧困に苦しむ人やシングルマザーの悩みなど社会問題を描いたものも含まれている。その感性は現代にも通じる」と話す。上映は5月13日まで。
(木原まゆみ)