宝塚のヒットメーカーがフリーに、朗読劇やオペラに挑む

「自分から宝塚を取っ払ったら、何者でもないかもしれない。それでも、今生きている人たちに社会について考えるための材料を提供する作品を作りたいと思った」と語るのは劇作家・演出家の上田久美子。15年以上在籍して数々のヒット作を手掛けた宝塚歌劇団を3月末に辞め、朗読劇の書き下ろしやオペラ演出などに取り組む。「夢の世界」を描く宝塚を飛び出して、現実を突きつける作品に挑みたいという。
京都大学卒業後、会社員を経て2006年に宝塚歌劇に入団したが、根っからの宝塚ファンではなかった。社会人になって歌舞伎や文楽の魅力に目覚め、劇場など演劇関係の転職を考える中で、たまたま受かったのが宝塚の演出助手だったという。入団後、大御所演出家から「ファンの人が作るようなものをつくっちゃダメだぞ」と言われたが、自身がファンではなかったからこそ作品作りに「シビアになれた」と振り返る。
観客のニーズや宝塚の伝統的な構成を踏まえながら作品に骨太のストーリーを流し込む作風は高く評価され、江戸時代の身分を超えた愛を描いた「星逢一夜」では読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。その後もヒット作を連発したが「必死でやってきて世の中の変化を忘れていた」。最近になって歴史書や経済書などを読みあさるうち「世界で何が起きているのか自分の目で見ないといけない」という思いに駆られ、退団を決めたという。
フリー転身後に取り組んだ書き下ろしの朗読劇「バイオーム」は、6月8~12日、東京建物Brillia HALL(東京・豊島)で上演される。政治家一家の人間関係を、彼らを見つめる庭の草木の視点からも描く異色作だ。「今の社会から受け取ったものを即興的に書いた。宝塚と違い、荒々しい言葉遣いや性的表現もできた」と語る。来年2月には東京芸術劇場(同)でイタリアオペラを演出する予定で、「舞台を現代日本の貧困社会に置き換えたい」と意欲的だ。その後、3月から1年間、パリで先鋭的な現代劇を上演する劇場ジュヌヴィリエで研修する。
今後、挑戦してみたいのは、文楽の新作公演の台本作り。「宝塚でも和物のラブストーリーが得意だったんですよ」と笑顔を見せた。
(佐々木宇蘭)
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