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我が家をまるごとつくってみたら セルフビルドの楽しみ

NIKKEI The STYLE

陶芸家の小林白兵衛さんが20年以上前に在来工法でつくった自宅(栃木県市貝町)

コロナ禍で在宅時間が増え、DIYが人気という。思い浮かぶのはちょっとした棚づくりぐらいだが、自分の家を1軒、まるごとつくる人たちがいる。こうなるとDIYでは収まりきらず、「セルフビルド」と呼ばれる。「大変だけど、とても面白い」らしい。「何があっても生きていける」力にもつながるかもしれない。

作業は「大変」でも「楽しい」

平屋でも屋根の上は結構高いし、勾配も急だ。「気持ちいいけれど、注意が必要」と斉藤さん(千葉県館山市)

5月半ば、千葉県在住の斉藤光昭さんは建築中の家の屋根の上にいた。

屋根の下地となる板を打ち付け、その上に防水シートを張っていく。「腰が痛い。疲れる」と言いながらも満面の笑みを浮かべる斉藤さんは、空調設備を扱う会社の経営者だ。大工仕事の経験はない。

つくっているのは自分の家。館山市の海岸近くに平屋建て約56平方メートル、ロフト付き1LDKが1年後ぐらいに完成する見込みだ。

家の形はほぼできあがったが、その周りには足場が組まれ、内外装はまだこれから。敷地には所狭しと建築資材が置いてある。

建築工法は木材を水平に積み上げてつくっていく、いわゆるログハウス。コンクリートの土台部分(基礎)づくりは業者に頼んだものの、それ以降は2~3人の友人の助けも借り、3月末から週1~2日の作業が続く。

釣りが趣味の斉藤さんは子どもが巣立ったので、本格的に楽しもうと海辺の別荘を探したが、気に入る物件がなく、新築することにした。どうせなら無垢(むく)の木材だけでつくりたいと考えてログハウスに行き着く。さらに調べると、自分でつくる人も結構いることを知り、「面白そうだ」とセルフビルドを決断した。

当初は「勝手にどうぞ」と冷ややかだった妻も時々、塗装などを手伝ってくれる。「家族とのコミュニケーションがよくなった」と思わぬ効果もある。「素人でも体力とやる気があればできる」ことを実感中だ。

ログハウスの木材は通常、工場で寸法通りに加工されている。ごく簡単にいえば現場ではそれを組み立てるだけ。それでも多くの人はやろうとは思わないのに、普通の発想を超えていく人もいる。山で木を切るところから始めようというのだ。

家づくりプロジェクトには子育て中の女性も参加し、生活情報のウェブマガジン「ヨムーノ」で体験記事を書いている。安島さん(左)も協力する(千葉県長柄町)

自然食の元シェフ、安島ちはるさんは千葉県の中央部、緑豊かな長柄町に約130平方メートルの平屋の自宅を建築中だ。柱と梁(はり)で建物を支える日本の在来工法のつくり方で、屋根を張り終え、壁作りを進めているところ。年内には大まかな完成を目指す。

3年ほど前にチェーンソーを使って近隣の山の木を倒すところから始めた。それまでの仕事はいったん辞め、千葉県に移住し、木の切り方の講習を受け、学校で在来工法の基礎も学んだ。

「何か面白いこと、あまり人がやらないようなことをやってみたかった」と安島さんはいう。知り合いの映像制作会社経営、井上源太郎さんが長柄町近くに自分で自分の家を建てたことを知り、「私にもできるはず」と考えた。井上さんにも手伝ってもらいながら、やってみると「時間と労力がかかり大変」。でも「めっちゃ楽しい」そうだ。

木材同士をつなぎ合わせるため、接合部分に「仕口」と呼ばれるパズルのような加工を施す(千葉県長柄町)

一方の井上さんは8年前に木こり体験をしたことが原点だ。「こんなに面白い」のに、倒した木は使い道がほとんどないと聞いた。「ならばこの木で家を建てよう」と思いつき、大工に技術を習うなどし、5年かけて約100平方メートルのロフト付きの家を建ててしまった。

話は広がる。井上さんの活動を聞きつけた長柄町職員が地元の木材でバスの待合所をつくってほしいと井上さんに依頼した。この建築をボランティアで請け負ったことがきっかけとなり、町内の木を使い町内に自分で自分の家を建てる人を応援する「長柄町セルフビルドヴィレッジ化構想」が動き出す。

活動は町内のNPO法人ふるさとネッツが中心となっている。木の伐採から家づくりの基本までを指導できる人を育てる「セルフビルドサポーター資格制度」も創設した。2019年末から千葉県出身でものづくりに関心のある女性たちを集めて実際に家をつくってみるプロジェクトもスタートした。

不慣れな作業も続ければ板についてくる。作業後のごはんとお酒がおいしい(千葉県長柄町)

このプロジェクトは今、切り出した木を加工する段階にある。参加女性の一人は「最初は工具を使うのも怖かったが、今は楽しい部活のよう。自分たちで家をつくれるなら、この先何があっても生きていける気がする」という。この家は完成すれば、町への移住者のためのお試し住居などとして活用する。

素人がつくる家がどの程度あるかは定かではない。ただ、セルフビルドを勧めているログハウスメーカー、キートス(新潟市)の中峯茂樹社長は「この25年で約1000棟を販売したが、その半分以上は施主が自らの手で建築にかかわっている」と話す。フィンランドなどで普通の市民が当たり前のように自分たちでログハウスを建てるのを見てきた中峯さんは自分でも試してみて、その充実感を知った。「魅力を広く伝えたい」そうだ。

生きる力と勘 取り戻すとき

無垢の木の家は結露もなく、室内干しの洗濯物もよく乾く。窓の外にはまきが積まれ、東京都内とは思えない(東京都町田市の本山さん宅)

素人が建てた家の住み心地はどうなのだろうか。

「以前は旅行など外出が大好きだったが、いまは家にいる方が好き」と語るのは7年前、東京都町田市にログハウスの自宅をセルフビルドした会社員の本山昇さん。無垢の木の床をはだしで歩くのが気持ちよく、冬はまきストーブの火をながめながらコーヒーを飲む時間が最高だ。

2階建て約130平方メートルのこの家を、主に夫婦2人で、休みの日を使って1年2カ月ほどでつくりあげた。調べたところでは、業者に建ててもらうのに比べて建築費はざっと1000万円ほど安くなった。

多少の不具合があっても自分でつくったのだから納得できるし、あきらめもつく。「こんなに面白いことはない」と周りにも勧めている。

自らの手でつくれば、愛着も深くなる。フリーカメラマン、阪口克さんも5年前に自ら建てた家を「100点に近い出来。もっと支障が出るかと思っていたが、ドアがきしむぐらい」と話す。妻の華奈子さんも「普通の家とはちょっと違うのかなと思うけど、住めているから大丈夫」と笑う。

阪口さんは自らの体験を「家をセルフでビルドしたい」(文芸春秋)という本にまとめた。肝心なのは「家族の同意」と説く(埼玉県長瀞町)

阪口家は在来工法の平屋建てで約100平方メートル。仕事をしながら6年かけ、友人たちの力も借りて埼玉県長瀞町につくりあげた。プロがつくればうまく隠すだろう金具がむき出しになっていたりするが、無垢の木材としっくい壁を多く使ったすてきな家だ。

基礎工事など一部は業者に頼んだものの、配管などもできる限り自ら手掛けた。その結果、建築費用はおよそ560万円。知り合いの大工に聞いたところ、プロに頼めば2000万円は超えると言われた。ただし「時間と労力を考えれば、コストパフォーマンスがいいかどうかは疑問」だそうだ。

素人がつくる家を不安と思う人もいるかもしれないが、建物をつくるには原則として建築基準法などにのっとる必要がある。事前の書類審査や事後の検査があり、有資格者でないとできないこともある。これらを守っていれば「素人がつくっても問題はないはず」(阪口さん)だ。

解体する古民家の部材をもらってきて、丁寧に磨き、再利用した小林さんの家は重厚感を醸し出す(栃木県市貝町)

大きな地震に耐えるセルフビルドの家だってある。栃木県市貝町の森の中、古民家風のしゃれたペンションと間違いそうな2階建ての立派な家は東日本大震災の前から建っている。

陶芸家、小林白兵衛さんが20年以上前に在来工法でつくった自宅だ。森を切り開き、コンクリートで基礎を打ち、近隣の古民家を解体した際に出た部材などもつかって主に夫婦でつくりあげた。1階には大きな吹き抜けの居間や台所、2階には部屋が5つもある。

震災時には激しい揺れに襲われ、窓が外れて飛んでいったが、建物に支障はなかった。そもそも「問題があればすぐに直せる」。

若い頃、山登りが好きで、世界を放浪したこともある小林さん。「山にいるとなんでも自分でやらないといけないのだから」と家まで自分で建ててしまった。「仕組みがわかれば、そう難しいものではない」という。

「わたしたちは家をつくる勘を取り戻さなくてはならない」。武蔵野美術大学建築学科の鈴木明教授はそう指摘する。昔は多くの人が自分たちで自分の家をつくっていた。今では業者任せとなってしまったが、その勘や知恵があれば、万が一、家を失ったときに役立つかもしれない。生きるための力にもなる。

まずは雨露をしのげるだけでいいのだからと、鈴木教授が教えてくれたのがベニヤドーム。材料はベニヤ板20枚。長方形の板の中央に正方形を描き、その四隅に穴を開けておく。この板を一定の要領でボルトやナットでつなげていくと、ドーム状の「家」ができあがる。ドームは最小の表面積で最大の内部空間をつくることができる。

2人がかりなら20分もあれば完成する。五角形に穴が開く部分にビニールシートを貼れば雨にも打たれない。中に入ってみると意外に広くてしっかりしている。大きなベニヤ板を使えば、小さな子どもなら20人でも入れる「家」だってつくれるらしい。「こんな単純なことで家はつくれるのだと子どもの頃から体験しておくことが大切」と鈴木教授は考えている。

いきなり本格的な家づくりはハードルが高い。まずは簡単な小さなものからつくり始めてみるのが妥当なのかもしれない。小林さんはいう。「あとは実践あるのみ」だ。

山口聡

三村幸作撮影

[NIKKEI The STYLE 2021年7月11日付]

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