管理職1年目の貴女へ 組織の変革者になろう
アルファ・アソシエイツ社長 藤原美喜子さん


10 年前にある証券会社の女性管理職を増やすプロジェクトに関わったことがあります。最初に行ったのが、支店に実際に入り、働き方をチェックすることでした。
当時の社員は男女とも午前 8 時前には出勤し、夜は午後 9 時すぎまで仕事をしていました。支店の総務課長に至っては、朝 6 時半に出社し午後10 時半に社を出ることを常としていました。
この総務課長は、自分の担当と関係のない時間帯でも会社に残っている典型的な昔型の男性でした。ただいるだけで、役に立っているようには見えませんでした。家庭を犠牲にして当たり前の世界がそこにはありました。「生きるために仕事をする」のではなく「仕事のために生きている」印象を受けました。
このプロジェクトは4年ほど続きました。当時は働き方改革という言葉はなかった時代。長時間労働をしないと評価されない企業風土が強くあったため、キャリアパスが見えず、将来への行き詰まりを感じている女性社員が多かった。辞めていく優秀な社員もいました。
この会社の女性の営業担当者は特に優秀で、会社からのデータを基に分析してみたところ、月次売上実績リストに載っているトップ 30 人の営業の女性が、会社全体の売り上げの10%を占めていました。
彼女たちに長期的なキャリアを考えてもらうためにも、時間外労働の短縮を提案しました。当時の社長は毎年 30 分ずつ、社員の帰宅時間を早める施策をすぐに実施してくれたのです。私たちが最後のプロジェクトを終えるころには夜は午後 7 時半前には帰宅できるようになっていました。
組織を変えるには、リーダーのコミットメントがいかに大事か。社長ではなくても一つの組織を束ねていく管理職として、自分が任されたチームの組織風土を変えていくことはできるはずです。
古い日本的な雇用慣習に働きにくさを感じてきた女性だからこそ、管理職になってやるべきことがあります。それは自分が働きにくい、仕事がしづらいと感じていた慣習を変えることです。夜型の職場なら、率先して貴女から夜型をやめて朝型にする。無駄な資料づくりで部下が疲弊していたら、簡略化を考え実行に移すのです。
そしてもう一つ、ぜひ貴女にやっていただきたいことがあります。
管理職という立場になって視座が変わると、女性社員の「弱み」がよく見えるようになります。一足先に管理職になった貴女がすべきことは、そうやって見えるようになった女性社員の弱みを強みに変える手伝いをすることです。
冒頭に紹介した証券会社でその後、男性管理職の意識改革研修や女性リーダーシップ研修、現場力を強くするコンサルなどを実施し、女性のロールモデルを 20 人ぐらい選ぶプロジェクトを5カ月かけて実施しました。アンケートやヒアリング、推薦を基に独身営業社員、既婚社員、子どものいる営業社員、非営業社員、営業課長、非営業課長などを全国型、地域限定型に分けて 18 人ほどをロールモデルに選びました。
数年後に偶然、ロールモデルの一人だったA さんと再会しました。地方支店の営業課長だった彼女は、部下を 30 人抱える支店長になっていました。
Aさんは「藤原さんに『女性は自己評価が低いから直すように』と言われたことを今でも覚えています」と語ってくれました。自分の経験を糧にして、彼女は2週に 1 回、資本市場を知らない社員に対し、オンラインで人材育成ワークショップを実施し続けているそうです。
彼女の言葉には、部下を思う優しさがありました。管理職という立場を得て、彼女が以前よりも人として深みある魅力的な人物になっていることを実感しました。
銀行で常務取締役営業本部長になった女性、国の政策委員会の委員になった女性、子どもを3人産んで復帰し管理職になった女性……。ポストを手に入れ、自分なりの変革を組織に起こし、人としても魅力を増した実例を私はたくさん知っています。
(毎週木曜日に掲載します)