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ロンドンを気に入った外来インコ 推定3万羽が定着

ナショナル ジオグラフィック

10月下旬の穏やかな日、私は英ロンドン中心部のケンジントン・ガーデンズにいた。20人ほどの人が、騒がしいインコの群れに餌を与えている。真っ赤なくちばしにエメラルドグリーンの羽をもつエキゾチックな鳥たちは、注目を浴びることにも慣れっこだ。リンゴの芯や木の実を喜んで差し出す大人や子どもたちの手に、臆することなく舞い降りる。なかには頭の上に乗るものもいる。

ロンドンには推定3万羽のホンセイインコが暮らしており、ケンジントン・ガーデンズは数ある生息地のひとつだ。しかし、彼らは本来ここにいるべき生物ではない。原産地は南アジアおよび中央アフリカだ。ヒマラヤの麓や赤道直下に生きる鳥が、なぜロンドンにいるのだろうか。

「世界で最も大胆な生態系の変化のひとつ」

かつて長らく世界帝国の拠点であったロンドンには、ありとあらゆる製品や生物が集まった。インコもそのひとつだ。最も古い目撃記録は1893年にさかのぼる。場所はロンドン南部のダリッジだった。しかし、インコが目立つようになったのは1950年代に入ってからのことだ。

「長年にわたってペットや飼鳥園の鳥が大量に放たれてきたのではないかと思います」と英王立鳥類保護協会(RSPB)スコットランド支部のポール・ウォルトン氏は言う。意図的に放鳥されたか、逃げ出したかのどちらかだ。「ごく小さな繁殖個体群が人に知られることなく何年も暮らしている、ということはよくあります」

1980年代までには、かなりの規模の個体群が、市の南西部に位置するキングストン・アポン・テムズ王室特別区に定着していた。それ以来、インコは緑色の波のようにロンドン中に広がった。『The Parakeeting of London: An Adventure in Gonzo Ornithology(ロンドンのインコを追え:野次馬鳥類学の冒険)』の著者であるニック・ハント氏は、これを「世界で最も大胆な生態系の変化のひとつ」と呼んでいる。

なぜインコはこれほど成功しているのか。その理由のひとつは、ロンドンが鳥にとって完璧な都市だということだ。面積の47%が緑地であり、3000カ所の公園、300万カ所の個人庭園、膨大な数の市民菜園、ビクトリア朝時代の広大な墓地などがある。イングランドの冬は温暖であるうえ、さらに暖かくなりつつあることも、インコたちには好都合だ。

英国内の他の地域でも、インコは定着しつつある。「ここ3、4年の間に、(スコットランドの)グラスゴーでも繁殖を始めました」とウォルトン氏は言う。「明らかに、彼らはこの国の冬に対応できるのです。しかし、分布は依然として都市部に集中しています」

オランダ、ベルギー、ドイツ、スペインなど、ヨーロッパの他の地域でも、ホンセイインコとオキナインコが姿を現している。現在、欧州連合(EU)にはインコの個体群が200個ほどあり、その数は増え続けている。

大好きか、大嫌いか

インコをめぐっては、ロンドン市民の間で意見が二分している。ある庭師は、精巧なおとりを作ってインコをおびき寄せ、エアライフルで仕留める様子を撮影した一連の動画をYouTubeに投稿した。一方、インコを歓迎する人々もいる。著書の取材で多くのインタビューを行ったハント氏は、「さまざまな意見があります」と話す。「中間的な意見はほとんどありませんでした。大好きか、大嫌いか、どちらかなのです」

だが、氏はこう続けた。「会話がすぐに関係のない話、例えば移民の話題に移ることが何度もありました。人々は(移民への)恐れをインコに投影していたのです。調査した時期が英国のEU離脱を問う国民投票の前だったので、鳥についての会話に反移民的な言葉が入り込んでいたのは間違いありません」。その一方で、インコのことを「共生と多様性の鑑(かがみ)であるかのように見る人たちもいました。つまり彼らは、多文化主義の思想をインコに投影していたわけです」

インコが在来の生き物たちにどのような悪影響を与えているのかは、はっきりとはわかっていない。英環境・食糧・農村地域省(DEFRA)によると、「ホンセイインコは、農作物に大きな被害をもたらすほか、病気を媒介する可能性や、繁殖場所をめぐって他の樹洞営巣種と競合する可能性があると考えられている。そのため、原産地および外来種として生息する地域で、様々な有害な影響を与えること、またはその可能性があることが知られている」

インコは「2次樹洞営巣種」だ。つまり、自ら木に巣穴を作るのではなく、すでにある穴を利用する。インコは他の在来種よりも早くから巣作りをするため、ゴジュウカラやフクロウが巣を探し始める頃には空きがなくなっている可能性が高い。また、インコは抱卵期間が長いので、巣穴を長く独占することになる。

しかし、RSPBのウォルトン氏は、インコの存在をあまり心配していないようだ。「確かに、アジアなどではインコによって種子作物が大きな影響を受け、農業上の大きな問題となっています。しかし、英国ではそのようなことはありません」

また氏は、インコが他の野生動物に害を与えているとも考えていない。ベルギーでの研究によると、インコがゴジュウカラと営巣地をめぐって競合し、影響を与えている可能性はあるが、「深刻な保全問題にはなりそうもない」と氏は言う。また、スペインではインコがコウモリを攻撃したことが記録されているが、英国ではインコが「野生動物に実際に影響を与えている証拠はない」とのことだ。

駆除は選択肢のひとつ?

スペインの首都マドリードでは2019年、オキナインコが2016年から33%増加し、1万2000羽に達した。そこで市政府は、卵の不育化による間引きを命じた。

ロンドンでは、市内の多くのインコが駆除されるといううわさが時折流れる。しかし、動物を愛する英国人は、何千羽もの鳥が木から吹き飛ばされるのを黙って見ているだろうか?

このような懸念を考慮して、DEFRAは2021年3月、駆除の可能性を否定した。「たとえインコが生態系に大きな影響を与えたとしても、根絶を試みるにはすでに遅すぎるというのがRSPBの見解です」とウォルトン氏は言う。「ホンセイインコはあまりにしっかり定着しています」

ロンドンのインコの爆発的な増加は、重要な教訓になると氏は話す。「人為的に持ち込まれた外来種は大きな問題です」。外来種が生態系を変え、在来種の食料や資源を奪うことは、「生物多様性が損なわれる根本的な原因のひとつであり、生息地の減少や気候変動と並ぶ脅威のひとつでもあります。重要な教訓は、地球上で動植物を移動させるなら、もっと賢くやらなければならないということです」

墓地に暮らすインコ

私はケンジントン・ガーデンズから、ロンドン北西部の人口密集地にあるケンサル・グリーン墓地に向かった。ロンドンの「最も壮麗な7つのビクトリア朝墓地」のひとつだ。広さは72エーカー(約29ヘクタール)あり、現在ではインコをはじめとする約32種の鳥たちにとって安息の地となっている。

「最初は数組のつがいしかいなかったのに、だんだん増えてきたんですよ」。墓地の門番、ミシェル・ヘスターさんが教えてくれた。初めは1990年代初頭のことだったと言う。「今では数百羽になっています」と言って彼女は笑った。「毎朝、彼らの声で目が覚めるんです」

ヘスターさんによると、インコたちは日中、餌を探しに外へ出て、夜になると墓地に戻ってくる。「あと30分かそこらで帰ってきますよ」と彼女は請け合った。

私は入り口のベンチに座って待った。午後5時頃、西の空がピンク色に染まってきた頃、数羽のインコが飛んできて、私の周りの木に落ち着き始めた。夕日が墓を赤く染め始めると、さらに2、3羽の、時には4羽の集団が続々と帰ってきた。

20分後、電車の時間もあるため、私は墓地を出た。道路を渡ろうとしてふと空を見上げると、十数羽のインコの一団が、翼が触れそうなほど密集して飛んでいた。完璧な隊列を組んだ彼らは、素早く墓地の中に消えていった。眠る死者の上空を、カラフルな鳥たちがねぐらに向かって飛んでいく様子は爽快だった。

ニック・ハント氏にとって、ロンドンのインコは希望の象徴だ。「現代社会の背景にあるのは、衰退と絶滅、そして野生種の消滅です」と氏は語る。「だからこそ、生き残っているだけでなく繁栄している彼らを見ると、『いいぞ、流れに逆らってやれ』と思わずにはいられません」

文=SIMON WORRALL/訳=桜木敬子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2021年12月2日公開)

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