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樹齢5000年超の樹木、チリに 世界最古を更新か

ナショナルジオグラフィック

米国ネバダ州グレートベースン国立公園のワシントン山の頂上近くで、公園の生態学者であるグレッチェン・ベイカー氏は双眼鏡をのぞいた。すぐ眼下の石灰岩から、世界最古級の生物が生えているのが見えた。

マツ属の樹木、イガゴヨウマツ(Pinus longaeva、ブリスルコーンパイン)の幹は密度が高く、白っぽい色をしており、何世紀も突風や雨にさらされて太い縄のようにねじれている。この過酷な地にイガゴヨウマツが君臨しているのは、他の生物がほぼ生き延びられないためでもある。

険しいスネーク山脈に沿った標高約3400メートルの一帯には、草も低木も生えず、害虫もほとんどいない。山火事をもたらす人間もいない。近くに樹木がないので、病原菌が広がることもない。

生存を脅かす要因がない環境で、これらの老木は長く孤独な歳月をただ淡々と生きてきた。数十年も生きる針状の葉に水を蓄え、時間をかけて少しずつ成長していく。成長が非常に遅いので、甲虫や病気が侵入できないほど木の密度が高くなる。

イガゴヨウマツの中には、ギザにピラミッドができる前から生き延びてきた木がある。カリフォルニア州のホワイトマウンテンにある「メトセラ」という古木もそのひとつで、年輪データによると樹齢4853年に達する。現存するイガゴヨウマツでは最長寿だ。

研究者たちは長い間、この古木こそが正確に測定された、世界最古の単体の(クローンではない)生物だと考えてきた。だが2022年5月、この説に異論が生じた。チリの研究者が、同国に生えているパタゴニアヒバ(Fitzroya cupressoides)の樹齢を独自の技術で調査したところ、5000年を超える可能性が高いというのだ。その結果が正しければ、この南米の針葉樹は、新たに世界最古の樹木(幹)の称号を冠することになる。

この主張に樹木研究者たちは騒然となった。しかし、パタゴニアヒバは温帯雨林に生育する木であり、イガゴヨウマツとは生育環境が大きく異なることもあって、懐疑的な見方もある。だが、樹齢競争の行方がどうなるにせよ、イガゴヨウマツもパタゴニアヒバも、今後の数十年をうまく生き延びられるのかという問題に直面している点では同じだ。

昔からのライバル

パタゴニアヒバはアレルセとも呼ばれ、チリおよびアルゼンチン原産。長い間、世界2位の長寿の木と認識されていた。今まで最古のパタゴニアヒバとされていた木は、1990年代の初めに発見された個体で、切り株の年輪を数えた結果、樹齢は3600年以上とされた。世界3位の長寿の木とされるジャイアントセコイア(Sequoiadendron giganteum)も同様の方法で、最古の個体が樹齢3266年だったことが確認されている。

だが、5月20日付けで学術誌「サイエンス」に掲載されたニュース記事で、その記録を更新する可能性のある研究結果が紹介された。環境科学者のジョナサン・バリチビッチ氏と、1990年代のパタゴニアヒバの古木を最初に確認した研究者が、チリの国立公園にある別のパタゴニアヒバを調査したという内容だ。

この調査では、T字型の穿孔器を用いて、コケに覆われたパタゴニアヒバの幹に穴を開け、コアサンプルを採取した。幹は直径が4メートル以上もあり、穿孔器は幹の中心部まで到達できなかった。だが、採取したコアサンプルと他のパタゴニアヒバの年輪データを組み合わせ、コンピューターモデリングを用いて分析した結果、この個体の樹齢は約5400年、80%の確率で5000年以上だと推定された。

この結果を報告する論文はまだ査読前だが、バリチビッチ氏はすでに研究成果を複数の学術会議で報告している。この研究結果には、米地質研究所(USGS)の名誉科学者で、40年にわたってジャイアントセコイアを調査してきたネイサン・スティーブンソン氏も関心を寄せている。ただし、バリチビッチ氏の論文が発表され、用いた手法の詳細が明らかになるまでは判断を控える姿勢だ。それでもスティーブンソン氏は「この調査は確かにエキサイティングです」と述べている。

一方、かなり懐疑的な見方もある。世界最古の樹木の情報を収集する米ロッキー山脈年輪研究所の設立者、ピーター・ブラウン氏はバリチビッチ氏の手法について、正式な発表前にこれほど大胆な主張をするにはあまりにも斬新すぎると考えている。

ブラウン氏が懐疑的なのには他にも理由がある。「新たに推定された樹齢は、過去に確認された最古の(パタゴニアヒバの)樹齢よりも1500年も古いのです」と氏は指摘する。

また、最古級の樹木とパタゴニアヒバでは生育環境が大きく異なっていると、ブラウン氏は考えている。ゆっくりと成長するイガゴヨウマツが、雪深く岩が多い環境で生きているように、古木は隔絶された厳しい環境であるからこそ生き続けられる。だが、パタゴニアヒバが生えているコケに覆われた雨林は、生命力と脅威に満ちている。

なぜ一部の樹木は非常に長く生きることができるのか。研究者たちは、今もその理由について議論を続けている。「樹木は哺乳類と違って、高齢になったら必ずしも枯れるわけではないのだと、私は考えています」とブラウン氏は言う。「樹木を死なせる何らかの要因があるはずです」

バリチビッチ氏は懐疑的な意見があることも理解している。氏によれば、同僚の研究者が別のパタゴニアヒバの切り株を発見し、年輪をすべて数えたところ、樹齢が約4100年だと判明したという(このデータも未公表)。また、パタゴニアヒバが実はイガゴヨウマツよりも成長が遅いことが年輪データから示唆されており、パタゴニアヒバもまた非常に密度が高いことを意味していると、バリチビッチ氏は主張している。

バリチビッチ氏は、2020年12月に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された、世界でも特に長寿の樹木と気候の関係を分析した研究にも参加しており、イガゴヨウマツとパタゴニアヒバの生育環境には重要な類似点があると考えている。チリの海岸山脈は米国西部とはまったく似ていないが、「共通する特殊な条件があります」と氏は話す。

というのも、バリチビッチ氏が調査したパタゴニアヒバの古木が生育しているのは、曇りがちで年間平均気温が約7.2℃の南側斜面だ。峡谷にあり、山火事が発生せず、最近までは人間が近づくこともなかった。

共通の脅威

どちらの木が最高齢の座を獲得するかはさておき、世界最古級の樹木を調査する研究者たちは同じ懸念を抱いている。それは、貴重な古木が今後の困難な時期を乗り越えられるかという問題だ。

温暖化の影響で激化した山火事によって、この2年間でカリフォルニア州のジャイアントセコイアの19%が死滅した。

最長寿のイガゴヨウマツ「メトセラ」の生育地は明かされていないが、バリチビッチ氏が調査したチリのパタゴニアヒバには大勢の旅行者が訪れている。周囲の地面が踏みつけられるせいで、根が傷つく恐れがある。また、この地方では気候変動による干ばつが続いているので、この古木が水を十分に吸い上げられなくなることも懸念されている。

米国のイガゴヨウマツも、変わりゆく世界に直面している。

現存する世界最高齢のジャイアントセコイアは、3200年以上前のトロイア戦争の頃はまだ若木だった。その当時、現存最古のイガゴヨウマツは、すでに樹齢が約1600年に達していたことになる。

その長寿の秘密のひとつは、イガゴヨウマツがもつストレス対処能力だ。土壌の浸食や根の腐食、老化によって幹や枝が衰弱しても、ストレスを直接受けている部分だけが枯れ、樹木全体は死なない。非常に高齢になると、細く残った樹皮だけが生きた根と枝をつないでいることも多い。イガゴヨウマツの中には、目に見える部分の5%しか生きていない木もある。

「非常に高齢の木では、樹皮が完全に残っていることはほとんどありません」と、グレートベースン国立公園のベイカー氏は話す。

イガゴヨウマツは標高約2000〜3400メートルの範囲に育ち、あらゆる状況を生き延びてきた。一般的に木と木の間隔が広いので、たまに落雷による火災が起きても1.5ヘクタール以上燃え広がることはまれだ。

しかし、気候変動の影響もあって山火事の規模や激しさが深刻化したため、この数十年間で多くのイガゴヨウマツが焼失した。

温暖化、干ばつ、激化する山火事は、こうした古木を新たな脅威にさらしているが、影響を受けているのは生育域の中でも標高が低い部分が大半だ。また、イガゴヨウマツは外来の菌類による「五葉マツ類発疹さび病」に弱い。この病害によって、イエローストーン国立公園のアメリカシロゴヨウ(Pinus albicaulis)といった近い仲間の樹木が、すでに数百万本も枯れた。幸いにも、グレートベースン国立公園のイガゴヨウマツの生育地では今のところ確認されていない。

「もちろん、発疹さび病は脅威です」と、米森林局の名誉研究者スタンレー・キッチン氏は言う。「どれほどの脅威かはわかっていません。私も知りたいと思っています」

今後、標高が比較的低い場所のイガゴヨウマツが厳しい試練にあうことを、ベイカー氏やキッチン氏らは懸念している。

だが、「イガゴヨウマツの多くは、生育域の中でも標高が高い部分に生えています。その部分に気候変動の直接的な影響が及ぶことについては心配していません」とキッチン氏は話している。「予測より大きな気候変動がなければ、イガゴヨウマツが姿を消すことはないと考えています」

文=CRAIG WELCH/訳=稲永浩子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年6月4日公開)

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